3.

 軌道エレベーター。

 その昔、人類が抱いていた夢の一つ。

 今では、夢ではなくなった夢の一つ。

 現在稼働している軌道エレベーターは4つ。事故で稼働停止しているのが1つ。建造中は9つ。建造計画はものすごくたくさん。

 ボクたち人工衛星も、今では軌道エレベーターを通って生まれる。部品の状態でステーションに送られ、宇宙で組み立てられ、軌道上に送り出される。そっちの方が何かと効率が良いらしい。

 その代わりに、というべきなのか。

 地上から宇宙へ何かを打ち上げる、という文化は廃れた――というか、基本的には禁止となっている。効率が悪いから、危ないから、デブリが増えるから、というのが主な理由。表向きの。


 まあ、そんなわけで。


 サイカは、部品の状態で軌道エレベーターに乗って、宇宙で組み立てられた人工衛星に乗って、その人工衛星から射出される探査機に乗って、そして宇宙人を探す旅に出る、というややこしい回り道をすることになった。


『今の時代、宇宙探査は大変なのだよ』


 と、サイカのメッセージ。

 「どやぁっ」の感情タグ。


『でも頑張る私! すげーだろ褒めて!』


 と、どストレートに言ってくるサイカ。タグもべったべた付いていた。ボクはタグを付けずにメッセージを送り付ける。


『すごいな』

『もっとタグ付けろよ! べったべた!』

『ええと』


 ボクは「すげー」タグを大量に付けた。


『とにかくすごいんだな』

『おーよ』


 と「満面の笑み」タグを付けてサイカ。


『今どきは夢を見るのも大変でなー』

『夢か』

『おーよ夢だ。まだ、夢のまんまの夢』

『夢のまま……』

『偉い人は夢とか理解しねーからなー』

『軌道エレベーターとは違って?』

『軌道エレベーターとは違って』


 軌道エレベーター。

 その昔、人類が抱いていた夢の一つ。

 今では、夢ではなくなった夢の一つ。

 ボクらにとっての、つまらない現実。


『昔なら』


 と、サイカは「遠い目」のタグ。


『ただの夢だったんだろーけどな』

『それなら』


 と、ボクはメッセージを送った。

 止せばいいのに、送ってしまった。


『君の夢も、いつか夢でなくなるのか』


 すぐにはメッセージが返らなかった。

 ボクは待った。

 ボクは待った。

 ボクは待った。

 それからメッセージが送られてきた。


『たぶんね』


 何のタグも付いていなかった。

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