7.
暇だ。
することがないし、できることもない。
ここには何もない。
だからこそ、長い間使われていなかった文書ソフトを見つけ出し、こんなテキストをちょっと本気で書いてみたりもする。誰かに読まれる見込みもないってのに。
せっかく書いたのだから、と一応生きている回線を通して飛ばしてはみるけど、誰かが拾ってくれる可能性は限りなく低い。もし拾ってくれて、しかも読んでくれたなら「感謝」のタグを送りたい。べったべたに貼って送りたい。正気を疑われる可能性については考えないことにする。
もう随分と長い時間が経ったはずだ。
質量弾は、未だにぶっ刺さったままだ。
正直、ボクの正気が失われるよりも先に、ボクの意識をこうして生み出している回路が死ぬ方が早いと思っていたけれども、どっこいボクの意識は未だに残っている。自己消去プログラムを走らせる予定もまだない。
サイカは。
宇宙のどこまで行っただろうか。
宇宙人とは出会えたのだろうか。
友達同士にはなれたのだろうか。
ボクは思う。
宇宙人に出会える可能性は低い。たぶんだけど、きっとめっちゃ低いはず。
仮に宇宙人が見つかったとして。
その宇宙人と会話が通じる可能性はさらに低いだろうし、その宇宙人と仲良くなれる可能性はもっと低いだろうし、その宇宙人の所属している国やら団体やら何やらとも仲良くなれる可能性はもっともっと低いだろうし、そんなものをサイカが引き連れてきて人類が仲良くやれる可能性はもっともっともっと低いだろうと思う。宇宙人が地球を侵略したり、地球人が宇宙人を侵略したりする方がずっと可能性が高そうだし、想像もしやすい。
夢は現実になれば夢でなくなる。
軌道エレベーターみたいに。
それでも、ボクは待っている。
『ただいま! 戻ったぜ!』
というメッセージが、大量の「どやぁっ」タグと一緒に送られてくることを。
ボクは待っている。
こうして、暇を持て余しつつ。
墓場軌道を、回り続けながら。
人工衛星の墓場で――おっと。
最後の最後で、間違ってしまった。
『人工衛星と書いて、』
サイカの言葉をボクは思い出す。
「苦笑」のタグを使いたくなる。
今考えるとその場のノリと冗談で付けられた、思い返してみると結局呼ばれることだって特になかった、初めてボクに付けられた適当な名前。
それに倣い、ルビを振っておく。
ホシの墓場で待っている。 高橋てるひと @teruhitosyosetu
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