10話 ヒキニートでも年末年始は大忙し!?

「もう、一年が終わるのか……」

 何度言ったか分からないこの言葉を無気力に発しながら、俺は大掃除や実家へ帰省する用意などといった、ごくごく一般的な年末を過ごしていた。唯一未体験なのは、

「ねぇ、歩くん、お蕎麦に何個天ぷら入れる?」

 同棲中の彼女と年越しを迎えるという、ハッピーニューイヤー満喫男子へと昇格出来た事だ!だから、天ぷらは2個。


「おいし~」

 綾香は年越し蕎麦を勢いよくズルズルと食べる。普段の天ぷら蕎麦と何ら味は変わらないのに、特別感がある。たとえ前日が蕎麦だったとしても、美味しく食べる事だろう。


「ねぇねぇ、何時から初詣に行く?」

「そうだな~結局、どの時間も混んでるからなぁ~」

「ん~じゃあ、明日の9時くらいにする?」

「そうしよっか」


「何だか不思議だね。一緒に年を越すなんて」

「綾香……俺はずっと、綾香の事が好きだから、来年もよろしくお願いします」

「!?」


 キャンバスのような白さとは、使い古された比喩だが、そのキャンバスがほんのりと赤く染まった。うん、かわいいな。

「ふ~ん。えっちじゃん」

「綾香さん!?何その返事!?」

「私も歩くんの事大好きだよ~えへへ」

「酔ってないよな!?」

「同時に年越しするもんね~」

 同時ってどういうこと?なんて聞く暇もなく、綾香は俺に抱きつく!

 なるほど?地球の自転から計測される、正確な時間軸を、に飛び越えるという、極めて壮大なスケールの話なのだ!


 北風どもが跳梁跋扈ちょうりょうばっこする家の外とは対極に、俺たちはぬくぬくと暖まるという、自然の理に反した幸福を享受していた。ふ~ん、えっちじゃん。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る