19話 会うは別れの始め!?
「じゃあ、気を付けて」
「うん……歩くんもね………」
会者定離。それは俺たちのような一見するとバカップルのような恋人同士でも等しく訪れる悲しき運命。寂しげな瞳をこちらに向ける綾香を俺は無情にも追い立てる。見慣れぬ一台の乗用車が家の前に止まっている。運転席には男が乗っている。すでに綾香を遠方の地へ連れ去る手はずは整っているのだ。
「やっぱり淋しいよ……」
そう呟く綾香。しかし時すでに遅し。しびれを切らした運転席の男が重々しく降りてくる。中年の眼鏡をかけたサラリーマン風の男がこちらに歩み寄る。
「綾香、そろそろ時間だ。すまないね、歩君」
「いえいえ、旅行、楽しんできてください」
茶番はこれくらいにしておこう。運転席の男は他ならぬ綾香のお父さん。綾香は一週間、沖縄に家族と行くらしい。仲が良さそうで羨ましいかぎりだ。だが約一名、茶番ではない者がいる。綾香だ。
「引っ越す訳じゃないんだからそんなに悲しむなよ」
「だって付き合ってから毎日一緒だったんだよ!そりゃ寂しいよ!!」
彼氏としてはとてつもなく嬉しい言葉なんだけどな。気晴らしに丁度いいとか言われたれら病むわ。だからこそ、ここは彼氏力の見せ所だ。
「ビデオ通話で俺にも沖縄見せてくれよ。二人で行っちゃ、新婚旅行の下見じゃなくなるだろ?」
「わかった!!私、沖縄に行くよ!!!」
我ながら相手の親のいる所で何言ってんだか……
綾香は使命に燃えながら空港へと向かい、俺は一人で仕事に励む。ビデオ通話が可能なのは、当面リモートワークだからだ。
ん?綾香から電話だ。忘れ物か?
「もしもし歩くん!空港の待合室っていうのかな?ここ。あっ、見て!飛行機が着陸してるよ!」
こんなに楽しそうに言われたら、沖縄に着いてからにしてとは言えない……
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