第2話 触りたい?

「……ねえ♡ 翔悟くんは、いつまでトランクスソレを穿いてるつもり?」


 俺の下半身の苦しみをよそに、くるみがベッドから訊ねる。

 たしかに俺は先ほどから、トランクス一枚だけを穿いたまま全身も下半身の一部も棒立ちになっていた。


「あ、ああ。もう、ぬ、脱ぐよ」


 噛み噛みの口で俺は答える。



 脱ぎたいのは山々なんだけど、イマイチ度胸が出なくて脱げないんだよな……。

 MAX勃起こんな状態になっている相棒を見せるのも、なんとなく恥ずかしいし……。



 そんな俺の情けない事情をくみ取ったのか、くるみが、


「フフッ♡ 翔悟くん、さっきから窮屈そうにしてるよ……。早く脱いで、楽にしてあげたら?」


と言って、俺のトランクスの真ん中にそそり立ったピサの斜塔を可愛らしく人差し指で指しつつ微笑んだ。

 まるで相棒をその指で直接、触られたように感じた。

 危うく暴発してしまうんじゃないかと思った。



 この瞬間、グダグダと考え込んでいた俺の脳みそが一気に沸騰した!

 

 

 そ、そうだ!

 ここまで来て俺は何を怖じ気づいているんだ!

 彼女をこうしてやりたい、と決めたのは他ならぬ俺だ!

 これこそ俺が自ら望んだ展開じゃないか!



「悪い男になる」と、心に決めたんじゃないか!!



 俺は心の中で自分を叱咤すると、その勢いのままトランクスを一気に脱ぎ捨てた。

 そして、適当なセリフが思いつかなかったので、


「お、お邪魔します!」


と、いささか情けない言葉をかけて、ベッドの上のくるみの身体の横へ、彼女と向かい合わせになるよう自分の身体を滑り込ませた。



 俺が潜り込んだくるみのベッドは、これまで嗅いだことのないイイ匂いがした。

 くるみまでの距離は、もう数センチ。

 火照ったくるみの体温が伝わってくるような気がした。


「翔悟くん……♡」


 ベッドで俺を待っていたくるみが、両腕を俺の首に回し静かに目を閉じる。



 こ、これはもしやキスの催促ではないか⁉


 まさか今日、ファーストキスをすることになるとは思ってもいなかったが、これもきっと運命なのだろう。



 俺はギュッと目を閉じて、くるみの唇にゆっくりと自分の唇を近付けた――





 ――が、俺は寸前で、彼女の唇から自分の唇をらしてしまった。



 一瞬、頭の隅に浮かんだ一人の少女の顔が俺のキスを引き留めたのだ。



 ……ったく。

 覚悟を決めたそばから、俺は何をやってるんだ。

 こんなことでは「悪い男になる」なんて到底ムリじゃないか。



 気を取り直して俺は、キスを避けたのが不自然にならないよう、彼女の首筋へぎこちなく自分の唇を這わせてみた。


「ッ……気持ちいいよ、翔悟くん……♡」


 俺が故意にキスを避けたことには気付かなかったのか、くるみは熱い吐息とともに俺の耳元でそう囁いた。

 彼女の声は俺の耳から脳髄を直接刺激し、下半身の相棒にまで響いてきた。


「ネ……♡ 私の胸、触りたい?」


 くるみが、その胸を俺の顔に寄せた。


「う、うん……触りたい……」


 俺はそう呟き、まるで数日ぶりの食事を前にした男の如く、生唾を飲みこんだ。



 よ、よし。

 いよいよ、いくぞ……。



 くるみの誘導に突き動かされ、俺は青い血管が薄く透けた彼女の左胸に俺の震える右手をそっと置いた。




 えええええええ……。

 超柔らけぇぇぇぇ……。




 俺のてのひらに収まりきらないほどの、くるみの大きくて少し冷やりとした胸と、ちょうど掌の真ん中に納まった乳首の感触は、これまでの俺の人生で触ってきた、どんなものとも違った。

 こんな感じなのかな、それともあんな感じなのかな。

 思春期が始まったころから、いろいろとその感触を想像はしてきたが、そんなもののどれよりもその感触はエッチであった。



 こ、これが「リアルおっぱい」の威力か……!



 その圧倒的淫靡いんびな触感に、俺の頭は真っ白になり、右手は硬直してそれっきり動かなくなってしまった。



 ……はい、ムリ。

 こんなんでセックスとか俺に出来る訳がありません。



 俺は、早々に白旗を揚げた。



 ――いま、俺のことを情けないと思ったか?


 だって、仕方ねぇだろ!

 片方のおっぱいに触れただけでコレだぞ⁉

 さっきから、掌がパーのまま全然動かせねぇよ!

 揉むどころか、手を添えるまでが精一杯だ!

 我ながら情けねぇよ!



 俺は、動かない自分の右手を見つめながら、思わずため息をついた。


 

 やれやれ。

 悪い男になるとか、どの口が言ったのやら。

 女性の胸に触ったぐらいで動けなくなる程度の覚悟ではないか。

 自分で自分が情けなくなってくる。



 ああ。

 それにしても、一体、なんでこんなことになったんだっけ……?



 俺は、今日自分に起きた不可思議な出来事を、掌から伝わる幸せな感触とともに思い出そうとしていた。


 彼女くるみと出会うまでは、今日もいつもと何ら変わらない、平凡な一日だったはずなのに……。

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