青の恋文

水琴しゅり

青の恋文

 ねぇ、ちょっと聞いてくれる? そんな暇はないって?

 それは残念……え、やっぱり良いって? ツンデレさんか。

 それじゃあ聞いて欲しいんだけど……昔話ね。


 あれは高校二年生の時だったんだけど、君は覚えてるかなぁ……

 その夏から秋にかけてかな、私の青春が詰まってたのは。

 え、充実度の自慢話じゃんかって? 違う違う、寧ろ後悔の話だよ


 君と初めて話したのはね、文化祭実行委員会のみんなで暇を持て余してた時。

 好きな曲の話になってさ、たまたま私が好きだって言った曲に君が「俺もそれ好き」って言ってくれたんだよ。その曲はね、世に出てから3年も経ってたし、ブームも去ってたから「未だにあれ聴いてるの? へぇ物好きだねぇ」ってよく言われてたんだけど、まさかの君は同士だったんだよ。


 実はね、今でも聴いてるよ。あの曲が使われた映画のね、彗星がオーロラみたいな光を纏いながら落ちる瞬間。その瞬間にブワァッて色々な感情が押し寄せてくるの。君に会うまでは悲壮感が強かったんだけどね、今は少し甘酸っぱい気分にもなるんだよ。


 ごめんごめん、話が長引いちゃったね。じゃあそのあとの話をしようか。

実行委員会の手伝いでさ、階段装飾用の大きな絵を描いてたでしょう? あの夏休みからね、もうすぐ受験生だからって焦って学校の夏季講習と同時に予備校も行ってたの。

 朝学校行って、予備校行って、その合間にお昼買って食べて、また学校行って実行委員の仕事する。家にかえったらもう20時だったなんて事も結構あった気がする。

 あまりに忙しくて痩せちゃった。君は元から痩せてるだろ? うん、知ってる。けど、心配してカルピスくれたのは嬉しかったよ。ありがとう。


 でもね、あの絵を描いてる時間がすっごく好きだったなぁ。あ、一回、君が後輩に絵具が溶けた水をかけちゃったでしょう。これ以上無いくらい焦ってて、終いには土下座してたよね。

 あまりに面白かったから隣で笑い転げてたよ、私。


 凄く不満げな顔で睨まれたけど、しょうがないじゃん。可愛かったし。かわいい言うなって? 言うよ、何度でも。嫌がらせかって? いいの、私は自分の感性に素直に生きるんだから! 答えになってないって言われても……


 あ、そうそうボランティアでやった学校説明会の時の話も外せないなぁ。お茶を濁した、なーんて事は無いですよ、ええ、まったく。……もう、変なとこは鋭いのになぁ。


 でね、私と2人で会場の入り口で資料を渡す係やってたじゃん。その時に君が変なこと言い出してさぁ……確か「こちら資料になります。って言いながら渡してるとさ、なんか『こちら、請求書になります。』って言いそうになるんだよね」て言ってた。私、本当に言いそうになったんだから! まぁ、さらにそのあと意図せぬ仕返しが出来たから良かったんだけどね。


 私が資料を渡した相手から「あら、この学校に行ってたのね〜! 久し振りじゃない」って言われたけど、相手方の名前が思い出せなくて愛想笑いして誤魔化したんだ。

 君に対処法を聞いたら「お久し振りです、って言っとけば」っていうから次はそうしようって思ってたら、次来たお客さんに君は「こんにちは」じゃなくて「お久し振りです」って言うんだもん。ほんとに知り合いなのかと思ったら相手はキョトンってしてて。横見たら耳が真っ赤になった君が立ってて。あ、こいつ間違えたなって悟った。


 照れる君も可愛いかったよ。今思い出しても3分は笑い続けられるくらいには。


 それから、花火大会に行ったよね! ……みんなで。

 実行委員の仕事してて誰かが「あ、今日花火大会やるんだぁ」って言ったのを皮切りにさ、よっしゃみんなで行こかー! ってなったけど急すぎて4人しか集まれなかったやつ。

 しかも男子は君一人だったよね、可哀想に。いや、ハーレム結成おめでとう、と言うべきかな? …………嘘です、ごめんなさい。


 あ、そういえばその時カキ氷食べてたよね。私ビックリしたんだよ〜、カキ氷食べた後に喉渇いたって言って、甘い液体に色付けしてるだけなんじゃないかってぐらい甘くて有名なコーヒー牛乳飲んだ人初めて見たから。こんなに甘党なやつ居るのかって思った。


 あのあと男らしさを取り戻そうとしたのか君の手の中でバキバキに折れたカキ氷のカップ、キミのことは忘れないよ。え、あれは手が滑っただけだって? そう言うことにしといてあげる。


 あとはね、映画も観に行ったよね! …………みんなで。

 あの彗星の映画を作った監督の3年越しの新作を観に行ったんだ。雨が沢山降るお話だったよね。勿論、その映画に使われた音楽も二人して気に入ってさ、自分ら単純だなって思ったけど本当にいい曲。

 雨が上がって雲がサァって晴れてキラキラした太陽の光が差す、そんな曲。


 ちなみに、観終わった後行ったレストランで子供用の間違え探しに本気になったとこも覚えてるよ。本当に難しくて、なんだかんだ1時間ぐらいやってたかも。その割に君はパパッて見つけちゃうし……才能の差? え、なんか悔しい。


 話が長い?ごめんね、あと二個で終わるから。

 やっぱりあの合宿の事は外せないでしょ。


 特急電車に乗って、海の綺麗な橋で繋がった島まで行ったよね。実行委員で会議するためって言うけど結局水族館行ったり、神社にお参りしたり観光しちゃってた。

 イルカショー見てた時君はずっと真顔だったよね、もしかしてそんなに好きじゃなかった?だったらごめんね。


 朝4時に起きて海辺まで朝日見に行ったの、楽しかったなぁ。

 太陽の光がキラキラ差してるみたいなあの曲をかけながら見たのをよく覚えてるよ。

 夜はちょっと抜け出してもう一回神社にお参り行ったよね。君は知らなかっただろうけど、あの神社はね、縁結びの神様がいる神社だったんだよ。


 最後はね、勿論文化祭の話かな。

 君は装飾品の門を作る局の責任者で、私は全体を統括する実行委員会の副委員長だった。

 門がやっと完成して、1日目が終了して、なんとか中夜祭も成功させて、実行委員会のみんなでひと段落ついてた時だったね。君の姿が見えないと思って私、探しに行ったんだ。


 そしたら一日中駆け回って疲れてるはずの君が門のところに一人居た。手にはドライバーを持っていて、壊れた箇所を一人で修復してた。でも、なんだか足元がフラついてるし、時々座り込んでたからほっとけなくて。結局君の作業する手元をスマホのライトで照らすぐらいしか私には出来なかったけど、一緒に居れて嬉しかった。


 修復が終わってみんなのところに帰ろうとする君を、ちょっと休んで行きなよって半ば強引に引き留めて二人っきりになれた。スマホで5分だけ測って時間が経ったら帰るって約束で。

 お互いに疲弊してて無言の時間の方が長かったけど、幸せだなぁって思った。


 本当はね、ちょっとでも長く居たくて少しタイマー止めてたんだ。ごめんね。


 体育祭で君は足が速くて望まれて選抜リレーを走っていたけど、私は数合わせで走った。

 君は高校から入ってきたけど、私は中学からの持ち上がり。

 君は理系だけど、私は文系。

 君は運動部だけど、私は文化部。

 君と私は違う組。


 違うところが沢山。もういいよってぐらいある。

 でもね、同じところもちょっとはあったんだよ。


 体力測定で君の反復横跳びの回数と私の回数は同じ。運動部の男子と同じって凄くない?

 いつだったか返された実力テストの見せ合いっこした校内順位も同じだった。

 イベントの時の担当機材も同じ、照明だった。

 好きな曲も同じ。

 好きなカキ氷の味も同じ。

 好きな映画監督も同じ。

 大学の第一志望も同じだったよね。合わせたわけじゃないのに。


 それと、同じ文化祭実行委員だった。




 あと一歩が踏み出せなかった。

 すっごく後悔してるよ。


『神様、お願いです。

これ以上僕たちに何も足さず、

僕たちから何も引かないで下さい』

と、あの映画の主人公は言った。


 本当だね。

 そうだったらいいのに。

 もう今更遅いかも。



 でも、

やっぱり言わせて欲しいな。




 何もかもが反対で、


ちょっとだけ同じの君が、




ずっとずっと好きでした。

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