第6話 う○こを漏らしたのは誰だ!?〈出題篇〉 序

 今回はいったん田中から離れて、岡田(初登場第2話)のとある一日に迫ってみようと思う。(別に興味がない人は次の☆★☆までスキップしても大丈夫だよ!)


 岡田の一日は、照りつける太陽の鬱陶しさから始まった。カーテンを開けて寝てしまったため、日光が顔面を直射したのだ。普段は母が布団をひっぺがして起こすので、早く起きてしまったようだ。


 舌打ちをして「ン""ン゛ーーーーーーーンぅ」とゴリラの共鳴のような声で体を伸ばす(ゴリラといえばウホウホだが、実は喉ちんこを震わすような声がゴリラ流の挨拶らしい。ちなみに、胸を叩くのは拳じゃなくて手のひらだ)


 あまり寝てないと逆に目が冴える。階段をドタドタと駆け下りると、リビングに入った。誰もいないリビング。時計を見ると、いつもより一時間早い起床。とりあえず、朝のルーティンを済ませるとする。


 岡田は大の米好きだ。昨晩炊いておいた3合分の米を使って、昼飯のおにぎりを握り始める。具は一つも入れない。米の自然な旨みを楽しむ、それが岡田シェフの流儀だ。


 1合ずつ握り、三つのソフトボールくらいの大きさのおにぎりが出来上がった。今は温かいが、昼にはいい具合の冷や飯になっているだろう。岡田は冷や飯が大好物なのだ。


 さて、岡田はおにぎりをバッグに入れると、朝飯の支度を始めた。昨日の残りもののカレーとお味噌汁をコンロで温め、その間に顔を洗って学校に行く支度をする。親は起こしてくれるだけで、朝飯の準備などはやってくれない。


「あ、しまった・・・」


 うかつだった。米を全ておにぎりに使ってしまったので、カレーライスにならない。”カレー”になる。


「あら?今日早いじゃない」


 そう言いながらピンクのパジャマ姿で登場したのは、母だった。ボサボサの髪に、薄い顔。今さっき起きたようである。


「ついでに私のもカレー入れといて」


 母はトイレに行った。この時、早起きをしてテンション高めだった岡田には、本当に余計ないたずら心が生まれていた。


「いただきまーす・・・って、米は?」


 皿になみなみと盛られたカレー。母はスプーンで白米を探すが、見つからない。流しで新たに米をとぎながら、岡田はニヤリとしながら言う。


「え?だってカレーとは言ったけどカレー「ラ」「イ」「ス」とは言ってないじゃん」


「は?あんたなめとん?なにそれ全く笑えないんだけど。・・・あんたこれ全部食べなさい。あたしがどういう気持ちが分からないでしょ!ねぇ!?あーもうムカツク。あたしずっと見てるからね!さ、早く!」


 母は早口でまくしたてる。空気が凍りついた。予想外の憤怒に、岡田はあっけにとられていた。謝ろうとしたが、母の放つ怒りのオーラは口を挟むのを許させない。


(やってしまった・・・)


 岡田は米をとぐのを中断し、恐る恐るイスに座って、一日経ってどろっとしたカレーを口に運んだ。母のムスッとした顔を見ながらの食事は最悪だった。募る罪悪感と、食べるほどムカムカしていく胃。テレビで星占いをやっているが、岡田のおとめ座は最下位。どうりでこんなことになるわけだ。


 岡田が食べ終わると、母は口もきかずに自室に戻った。こうなった母は主婦なのに2、3日飯を作ってくれない。先が思いやられる。岡田は自責の念に駆られながら、ゆっくりと食器の片付けと米をまたとぎ始めた。


「はぁ~。マジかよ・・・ってもう20分!?」


 時計を見ると8時20分。あと10分で遅刻だ。岡田は急いでチャリに乗り、学校へと漕ぎ出す。そして、学校について駐輪場にチャリを置くと、校舎の時計を見た。あと1分。岡田は走り出した。


 胃が重く、たぷん、たぷんとなっている。走って大地を踏みしめる度にカレーが逆流しそうになった。


「うっしゃー間に合った・・・ハァ、ハァ、ハァ」


 席に着くと同時にチャイムが鳴った。山下先生(第2話登場)は岡田に「セーフだな」と言うと点呼をとる。代謝が良く、ダラダラと流れ出る岡田の汗をまじまじと見ながら、面白そうに左横の席の田中が聞いた。


「今日何があったん?」


「ちょっと親と喧嘩した」


「マジ?なんで?」


「おい、田中、岡田死ね」


 山下先生が真顔で言った。ホームルーム中の先生の話を遮るのは、極刑に値する。


「すみません・・・」






☆★☆






 

 それから1時間目の授業が終わった。男子高校生の休憩時間といえば、友達との談笑だ。岡田も、田中の方を向いて今朝の出来事を話し始める。


「へー、そんなことがあったんじゃ」


「いやまじで今日最悪。おかげで腹の調子が悪いんよ」


 岡田の後ろの席の龍美が二人の会話を聞いて、入ってきた。


「話し変わるんだけどさ、お前らう○こした後さ、う○こ見れる?」


 田中が答える。


「は?う○こした後?・・・俺はきちんとチェックするかな~。固かったり、ゆるゆるだったりしたら食生活直さなきゃなーって思うし」


岡田「俺もちゃんと見るで」


龍美「いやさ、俺う○こ見れんっていうか、見たくないんよね。なんか・・・こう、自分からあんなものが出るのが許せんっていうか、現実を受け入れられんのよ。だから、もううんこ出した瞬間に流す」


「うんこってくされ縁みたいなもんじゃね?臭いだけに」


 田中がニヤニヤしながら言う。この時、岡田の腹は悲鳴をあげ始めていた。おそらく、無理矢理食べさせられたカレーが、消化され始めたのだろう。


「岡田、どうかした?」


 岡田の顔色を見て、田中が聞く。


「いや、大丈夫」


 少しの間我慢していると、痛みが晴れていった。ふぅ、と一息つくが、痛みが引いたのに伴って、ケツの穴にガスが集約されていく。


(あ、これ出したら楽になるやつじゃね?)と思った岡田は、溜まりに溜まって爆発寸前のオナラを、他人に聞かれないように、でもきちんと全部気持ちよく出せるように、腫れ物を扱うような、繊細な気持ちで発射した。


 しかし、放たれたのは気体のそれだけではなかった。緩みきった尻の関門は、あの黄土色の熟れた果実の成れ果てをも垂れ流し、無血開城を宣言したも等しく、ブツを次々と産んでいった。岡田は途中薄々気づいていたが、そんなはずはないという淡い楽観的観測から、数秒の快感に身を委ねてしまっていた。


 スッキリして、恐る恐るケツを撫でる。すると、触った瞬間、固体の何かがねちょっと肌に触れたのを感じた。その瞬間、岡田の身体は硬直し、頭が真っ白になった。そして、田中が発した「いやー俺小3の時漏らしちまって、ドン引きされたw」という言葉で我に返り、つま先から脳天まで電気が走った。


田中「おい岡田、どこいくんだよ」


龍美「三ちゃんトイレじゃない?うんこの話しとったからうんこ行きたくなったんじゃないの?」


田中「あー、なるほど」


 岡田は早歩きでトイレへと向かった。何も考えられなかった。う○こが肌に触れないように、パンツをつまみながら大便の個室へ駆け込んだ。


 誰にも見られることない閉鎖空間に来ると、岡田の頭も稼働しはじめた。


(おいおいおいおいおい、まじかよ・・・なぜこうなった?まさかあのカレーが2時間足らずでもう出てきちまったってのか?・・・いや、まだ分からん!もしかしたら俺の勘違いかもしれない!)


 岡田はベルトを外し、念のためう○こがケツに触れないように屈まずにズボンを下ろした。現実とはいつだってつらいものだ。ましてやこの状況、岡田は自らつらい状況を直視しにいかなければならない。しかし、迷っていても現実は変わらない。敵国「う○こ」に単騎で戦いを挑むような心持ちで、漢岡田は目を瞑ってパンツをずらし、深呼吸するとゆっくりと目を見開いた。


 迷彩柄と太ももに囲まれた深い谷底では、三匹のう○こちゃんが身を寄せ合うようにひっついていた。岡田には、その中の一人が、「こんにちは」と語りかけてきたように思えた。


 岡田は、「絶望した男」のように、剛毛の短い髪に両手を載せた。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイ。終わった俺の人生。これもうどうしようもないでしょ。ハ・・・ハハ・・・俺は一生、文字通りの「糞野郎」として生きていくしかないってことか?みんなにバカにされて、嫌われて、孤独のまま死んでいくしかないんだ・・・ハハハハ)


 下を見ると、う○こちゃんがこちらを見つめていた。「お前も俺のことをバカにしてんのか!」と自分のうんこに叫ぶ。


 しかし、岡田の灰色の脳細胞は、この絶対絶命の状況下でなおいっそう、激しく回転していた。そして、ある一つの仮説が脳裏に浮かび上がる。


(まてよ・・・ここは男子校だ。もし女子がいたらキモイ、死ね、と言われて俺の精神は崩壊し、学校に居場所はなかっただろう。しかし、興味の移り変わりが早い男しかいないここならば、あるいは大丈夫なのではないか?いや、むしろ、嫌われるどころかネタにされ、いじられ、ある意味クラスの人気者になるじゃないか?そうすれば俺が有名になって情熱大陸とかが取材に来た時、逆にいい思い出として語れるんじゃないか?・・・ならば、ここは堂々と行くしかないな。いざ、参る!)


 岡田の顔は自信に満ちあふれていた。自分のアイデンティティが見つかったのだ。もうこれで、自分のことを堂々と「糞野郎です!」と言うことができる。


 岡田は三匹のう○こちゃんたちを引き連れ、悠々と個室の扉を開く。もう少しでチャイムが鳴るだろうから、手を洗って急いで教室へと戻る。教室に入る時は、若干戸惑ったが、意を決して入った。


(大丈夫だ・・・クソ漏らしキャラで俺の高校生活は薔薇色だ!)


田中「それでさぁ、そいつがう○こもらした時なんて言ったと思う?・・・「う○こ漏らすの気持ちいい!」だったんよw」


(こいつらまだウ○コの話しとったんか・・・)


龍美「ええぇぇぇぇ!まじかw!それはワロタ」


 二人はゲラゲラと笑っている。岡田は二人を尻目に、着席した。あまりう○こが肌に触れないように尻を少し浮かせて座った


龍美「お、三ちゃんう○こだったん?」


岡田「ん?うーん・・・まぁ」


龍美「ちゃんと出た?」


岡田「・・・バッチリ」


 たしかにバッチリと出た。パンツに。しかし、自分から「う○こ漏らしちゃったんだよねー」と言うのも何か違う気がする。やはりここは、自然とう○こが発覚されるのがいいだろう。


龍美「ナイスゥ!・・・ってさ、なんか臭くね?なんだこれっ」


(よっしゃぁ!来た来た!)


田中「ん?どこが?」


龍美「いやこっち来てみろって」


 田中が立ち上がり、龍美のそばで臭いをかぐ。


田中「全然臭くねぇよ。どんな臭いだよ」


龍美「えー?マジで?三ちゃんは?」


 ここで岡田が正直に答えてしまうと、逆にアピールしているようになってしまうので、ここはあくまでも漏らしたことを隠している、という設定にしなければならない。


岡田「俺もし、しないぞ。臭いなんて」


龍美「マジで?めっちゃ臭うんだけど。なんかどこかで臭ったことあるんだけどな~」


田中「誰かう○こ漏らしたとか?w」


龍美「まさかぁ。あ、でもうんこの臭いに似てるかも。これ。う゛う゛う゛うううぇぇ。なんかそう考えると吐き気がしてきた。うんこ漏らしたやつとかムリだわ。一生近寄れん。たぶん見る度吐き気がする」


田中「俺も生理的にダメだわ。小学校くらいまでならいいけど、ましてや高校生で漏らすなんてあり得ねー」


(俺の高校生活終わったぁー!)


 2時間目の授業開始のチャイムが鳴った。学級委員の号令がかかり、全員が一斉に起立をする。この時、岡田はとっさにパンツを穴にくい込ませた。う○こちゃん達が穴へと殺到し不快極まりなかったが、地位と名誉のために岡田は、苦渋の決断をした。


龍美「あれ?臭い消えたわ」


田中「お前の鼻が臭かったんだろ」

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男は黙って日常なんだよ! 大天使 翔 @KURAPIKA

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