第5話 大捕り物

「ひん曲がった根性が やつらを結ぶ

 本気でも犯罪    よこしまなこころ

 それでも見てるよ  大きな夢を

 ここにいるよ    ぶっ潰してやるよ

(わかってる)

 簡単じゃない    逆らうだろう

(わかてっる)

 だって、戦いも   仕事

(やるんだよ)

 集まったら強い   チームになってくよ

(きっとね)     勝ち続けて

(We`ll be catch)

 それぞれが好き勝手 やらかしたのなら

 新しい(場所は)  刑務所だね

 それぞれが好き勝手 やったのなら

 絶望を(抱かせ)  ぶち込むだろう

(逃れる夢は捨て去れ)

 最悪の真顔で

(伏して伏して低く) 君らはムショの中で

 

 刑期を待ってろ」




 合法ドラッグの密売人も買う側も始め呆気に取られていた。

 令状を持った刑事たちが歌い踊りながら雑魚たちとはいえ、どんどん討ち取っていく。

 実に、シュールな光景だ。現実感がマルでない。




 なんてのが通用するのも曲が1曲終わる頃まで。

「なんなんだ? てめーらは?」

「だから、言ってんだろ! 歌踊署(かようしょ)の刑事だ!」

「正気か? お前ら? たった7人で、これだけの人数しょっ引けると思ってんのか?」

 確かに、多勢に無勢すぎた。雑魚にかまけている間に、主犯格がへりで逃げるのは簡単そうだ。

「やってみねーであきらめるわけねーだろ!」

「おい、ちょっと相手してやれ!」




 黒部刑事に襲いかかって来たのは、ヘビー級のプロボクサー崩れの男。黒部のパンチはことごとくかわされ、相手の重いパンチは面白いように黒部を捉える。明らかに手を抜いているのが分かるが、確実に黒部を逃げ場のない場所に追い詰めていく。黒部もダメージが溜まっていき、足に来ていて誘導されるがままだ。

 次が、フィニッシュブローと思われた瞬間、ボクサー崩れの男の目に向かってクルミの実が飛んできた。しかし、男は瞬時にその実の軌道は自分の目の前を横切るタダの目くらましと判断して無視して、フィニッシュブローに集中することにした。

 だが、クルミの実が男の目の前に来た瞬間、逆方向から飛んできた鎖の先についた三角形の鉄製の分銅によって、クルミの実は砕かれ、破片が男の目に入り目潰しとなった。

 その瞬間をついて、黒部のパンチが男の顎を捉え、大脳を激しく揺すられた男はその場に崩れ去った。




 古論(ころん)刑事のカポェイラの相手を買って出たのは、合気道の達人だった。

 しかし、お互いに対戦経験がなく、苦戦していた。

 古論の蹴りが相手を捉えそうになると、相手に足を取られそうになるので、古論が足を変化球のように軌跡を曲げてかわす、という一進一退の攻防が続いていた。

 そこで、急に、段菜刑事が身長差に物を言わせて、合気道の男の身体を抱え上げると、闇雲に走り出した。合気道の男は、てっきりそのまま投げにくると思い、対処しようと思ったが、ただ走り続けている。行く手に壁などはなかったはず、どういうつもりだ? と思った瞬間、後頭部に重い一撃が入った。

 古論刑事が2人を追い抜き、待ち伏せして攻撃したのだ。

 合気道の男は、古論を年寄りと侮ったことを後悔しながら落ちた。




 歌踊署の面々が力を合わせて倒しても、次々と怪人のような戦闘員が現れた。

 刑事たちは疲弊し、まさに、主犯格を乗せたヘリが離陸しようとしていた。




 刑事たちが、諦めかけたとき、1機のヘリが急降下してきて、主犯格を乗せたヘリの上空でホバリングし、離陸を阻んだ。

 主犯格のヘリはなんとか、謎のヘリの下から出ようと低空を飛んでみるが、その動きに合わせて謎のヘリも移動するので、やがて諦めて元の場所に戻って着陸した。




 すると。謎のヘリにライトがつき、スライドドアが開いて人が出てきた。

 ヘリには「群馬県警」と書かれ、出てきたのは歌踊署署長そのひとだった。

「私だ! 意外かね? 里子に出された子供が偽名を使うと言うことは珍しくない。私の本名は本間五郎だ!」

 呆気に取られる刑事たち。

「先日は、兄が大変世話になった。礼を言う。この捜査も私のお墨付きとする。そして、私からプレゼントだ。受け取れ!」

 空から7色の光が降ってくる。それは美しい光景。7つの光は寸分違わず、1つずつ7人の刑事たちの下へ落ちていった。

「こ、こりゃあ、一体?」

 刑事長が訊く。

「特殊サイリュウム型警棒だよ。そんななりだが警棒の15倍の強度がある。どうだ? 力がみなぎって来ないか?」

「テンション爆上がりっすよー!」

 鬼津刑事が満面の笑みで答える。

「パーティ3つははしごできるぜ」

 黒部刑事が言えば、

「ああ? 俺は5つ行けるぜ」

 と段菜刑事。

「セーラーなんちゃら全員に勝てそう」

 三田婦警が言えば、

「プリキュアオールスターズと勝負できます」

 と川村婦警。

「こりゃ、四半世紀は若返りますね」

 古論刑事が言い、

「俺は、15年で十分です」

 と刑事長が受ける。

「つまり、まだまだ行けるってこったぁ! よっしゃ! 行けやぁ! 上級国民なんぼのもんじゃあ! こちとら、上州警察だぁ!」

 そのとき、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「おるぁ! 数でも負けてねーから1人も逃がすんじゃねーぞ!」











「で、結局、署長は左遷ですか?」

 三田は不満そうだ。

「まぁ。そういうもんだよ」

 あきらめ顔の古論。

「そう、諦めたもんでもないですよ」

 鬼津刑事がパソコンのモニターを指さす。

 そこには、誰が取ったのか、特殊サイリュウム型警棒での捕り物の映像が映し出されていた。

「なんだ、こりゃ?」

「YouTubeです。ニコ生やツイッターにも上がってて、すごい反響ですよ」

「いや……、だからって」

「まぁ、もう、見守ることしかできないよ」

「そうですね」




【完】

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歌い踊る捜査線 〜5段重ね殺人事件〜 でんでろ3 @dendero3

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