ゲームは、青春。はい、復唱!

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ゲームは、青春。はい、復唱!

 地獄ってヤツぁ、何処にでもある。

 太陽が意地悪くなる夏だったりさ、扇風機しか無い家だったり。

 とにかく2020年の夏も、気温がヒャッホイしていたわけよ。


 エアコン様がいなきゃ、マジで死ぬ。

 こんな時に外で遊ぼうなんて考えるヤツぁ、春先の変質者並にイカれているね。

 コイツは、まず間違いない。


 一学期の修了式が終わった後、教室で「『アレ』も落ち着いたし、今年もみんなで海行くべ!」とか「〇〇日の花火大会に行こう!」とか言っているリア充(笑)共は、きっとしもの欲求に頭がやられたんだ。


 この俺、有馬ありま達也たつやは、そんな馬鹿な事はしない。


 もっと時間を有効的に使う。

 ガリ勉連中の夏期講習も、赤点組の補習も、青春万歳の部活動も、バイトの長時間労働も、恋のすれ違いも無しに、快感MAXの時間を過ごしてやるんだ。


 夏休みっちゃ、そう言うもんだろう?

 課題とか言う化け物は、知ったこっちゃない。

 俺のパラダイス、高二の夏休みにぁ、不要な生き物だ。


「さて」


 鞄の中に荷物も入れたし、教室ここからさっさとオサラバしますかね。俺には、これから大事な用があるんだよ。「戦争遊戯ウォーゲームに必要な物資を集める」って言うさ。

 こんな所でアホ面かましている暇はねぇ。自転車を飛ばす。赤信号には、ちゃんと止まったけどさ。それ以外は、全力でかっ飛ばしたよ。

 

 町のスーパーで物資を集める。


 眠気を吹き飛ばすエナジードリンク。

 保存の利く食料。

 喉の渇きを癒す天然水。


 それらを箱買いして、自分の自転車にフル装備させる。

 まあ、ぶっちゃけ重いけどね。ここのスーパーは家の近所だから、5分くらいで家に帰れる。苦しいのは、最初の1分くらいさ。

 家に帰った後は……俺は所謂一人暮らしだから、「ただいま」も言わないで戦の準備に取り掛かった。


 コンピューターの電源をポチッ、と。その音がいつ聞いても堪らない。

 我が愛機は、スペック増し増しのゲーミングマシーンなのだ!

 そんじょそこらのマシーンとは、わけが違う。

 こいつは、俺の手足を超えた手足なんだ。


「さて」


 戦場の偵察でもしますかね。戦いが始まるのは夜だが、それまでの暇つぶしに指でも馴らしておこうと思った。フリーバトルは、撃たれる方も気楽だしね。血しぶき画面も、今ではトマトの大爆発にしか見えない。

 

 まあ、本番はこんなんじゃねぇけどさ。それこそ阿鼻叫喚、罵詈雑言の雨霰。放送禁止用語が可愛く思えるくらいだ。


「俺は、その方が好きだけど」

 

 スポーツが平和と友好の祭典なら、戦争は破壊と虐殺の祭典。同じ祭りでも、その本質は正反対だ。ゲームの戦争……今はeスポーツなんてもんがあるけど、俺にとっちゃゲームはゲーム。人間の創った、娯楽度MAXの空間に過ぎない。

 

 現実で人をっちゃマズイからね。

 ゲームを創ったヤツぁ、マジで天才だよ。

 

 指が温まったから、ゲーミングチェアに寄り掛かって、さっき買った天然水を飲んだ。

 

 

 決戦の時。

 予選を勝ち抜いてきた猛者達が、己の技量に魂を装填する時刻。

 

 俺も真剣な顔で、それに参加する。戦意の引き金を引いてね、24インチのゲーミングモニターをじっと眺める。


 今回のゲームは、サバイバルだ。広大なフィールドの中で、プレイヤー同士が戦うシンプルなゲーム……だが、今回はちょいとばかり複雑だった。


 ゲームの参加者は、当ゲームが終了するまで当ゲームからログアウトしてはならない。文字で書けば普通っぽいが、参加者にとっちゃとんでもねぇルールだった。


 つまりは、「ずっと戦え」って事。

 24時間、加えて何日間も最後の一人になるまで「戦闘を止めるな」って事だ。

 こんなん、夏休みの学生か、引きこもりのニート、暇を持て余している金持ちにしかできねぇ。

 

 こいつが開かれた当初は、それに対する不満、「ふざけんな!」、「運営、死ね」の言葉が溢れていた。「コイツは、スポーツじゃない。スポーツの名を借りた、戦争だ」ってね。汚い言葉がウジャウジャ湧いたよ。

 

 俺は、それに混ざらなかった。

 ルールがどんなに酷かろうと、運営が「競技」と決めたのなら、それは紛う事なきスポーツ。俺らがどうこう言う資格は無い。

 

 嫌ならやらなきゃ良いんだ。

 予選までは、時間制のある一般的なルールだったんだし。

 

 画面にSTARTの文字が現れる。

 操作キャラの膠着が解かれ、画面の向こうが戦場になった合図だ。


「さて」

 

 気合いが殺気に置き換わる。ここからは、ガチの殺し合いだ。俺の指が、相手の命を奪って行く。倒された相手は、さぞ無念だろう。俺が相手の頭を撃ち抜いた瞬間、優勝へのチャンスを失っちまうんだから。


 悔しい事、この上ない。

 

 俺だったら、絶対に発狂するね。「賞金の1000万円が!」ってさ。金持ち連中は別だけど、学生やニートにとっちゃ大金だろう?


 俺は、そいつを手に入れたい。


 絶対に。


 何があっても。


 見つけた敵を片っ端から撃ち殺して行く。

 このゲームにはトーク機能が付いているから、相手がマイク越しに命乞いをすると、その言葉がPCスピーカーからダイレクトに聞こえてきた。


「や、止めろ」は、まだ可愛い方。

 中には、ゲロみてぇな暴言を吐くヤツもいた。


 俺はそんな暴言を無視して、ゲーム用のコントローラーを淡々と動かしつづけた。


 左の敵をバキュン。


 右手の敵をバキュン。


 こっちの接近に気づかない敵には、後頭部に向かって一発ぶち込んでやった。


 気持ちよさはない。

 ただ、「った」って言う実感があるだけだ。

 金のために人を殺す、その目的を果たすために。

 俺の夏休みは、使われて行く。



 朝になったらしい。

 カーテンの表面が、静かに光っている。


「はぁ」


 疲れ……いや、違うな。

 こいつは、単なる寝不足だ。そこに目の疲れが加わっている。


「くわぁあああ」


 あくびが眠気を誘う。これは、マズイ。寝ちまったら、敵の誰かに殺られっちまう。急いでエナジードリンクだ。


「う、ぐっ、うううっ」


 エナジードリンクを一気。こいつは、かなりキツい。飲みきったのは良いけど、思わずリバースしそうになった。

 

 胸のムカつきを抑え、モニターの画面に意識を戻す。画面の向こうでは、俺のキャラが物陰に隠れていた。

 

 その様子に思わずホッとする。どうやら、敵にはバレていないらしい。


「マジ、鬼畜過ぎるだろう? このゲーム」


 最後の一人になるまで戦う。しかも優勝するには、撃破数も一位にならなきゃならねぇんだ。だから、高みの見物戦法が使えない。

 最後の最後にひょっこり出てきて、生き残った敵を「バキュン」って戦法が使えねぇんだ。我が身を危険に晒しつつ、ガチの無双をしなければ、このゲームには優勝できない。


「こいつは、ガチの戦場だ」


 戦場の兵士達を疲弊させる。


 俺達は、「選手」の名を借りた兵士なんだ。


「よし」


 すげぇ痛いけど、頬を思い切り叩く。これで少しは、眠気も覚めるだろう。コントローラーを弄って、物陰からキャラを動かした。


 周りの連中はたぶん……いや、油断は禁物だな。

 俺の考える事は、他の連中も考える。

 寝込みを襲うのは、馬鹿でも考える戦法だ。


「地道に倒すしかねぇ」


 結局、そこに落ち着く。

 チート万歳の主人公は、だけの特権だ。



 最初に無くなったのは、曜日の感覚。

 次に無くなったのは、時間の感覚で……。

 最後に無くなったのは、「夏休み」って言う意識そのモノだった。


 俺は左手の乾パンを齧りつつ、画面の変化に全神経を使っていた。


 残す敵は、あと一人。撃破数も……たぶん、実力も互角な相手だけだった。そいつを倒せば、すべてが終わる。一応準優勝でも賞金は出るが、「それ」を貰うのは何となく嫌だった。


 賞金は堂々と、一位になって貰いたい。

 ガキみてぇな理由だが、俺にとっちゃ文字通りの意地だった。

 乾パンを食べ終え、自分のキャラをまた動かす。


「敵は、どこだ?」と言った瞬間だ。

 一発の弾丸が、こっちに飛んできた。ギリギリの所で、「それ」を躱す。

 

 俺は慌てて、相手に銃を向けた。相手も、俺に銃を向けている。

 

 俺達は、互いの武器を見つめ合った。

 

 緊張の一瞬だ。

 お互い引く事のできない一発勝負。

 勝敗を握るのは、自分への信頼だ。

 そいつを信じた方が勝利者、このゲームの優勝者になる。

 

 ぜってぇ負けたくねぇ。


 俺達は相手の頭に向かって、銃の弾丸をぶっ放した。


 ……敵の弾丸は、俺のキャラに当たらなかった。発射の前段階までは良かったみてぇだが、最後の最後で焦ったらしく、肝心な標準を狂わせちまったみてぇだ。

 

 相手のキャラが地面に倒れた。何の言葉も無く、だから「WINNER」のアナウンスが、やたらうるさく聞こえた。

 

 俺は、椅子の背もたれに寄り掛かった。

 眠気と疲れ、そこに喜びの混ざった感情が、一気に押し寄せてきたからだ。それこそ、真夏の海みてぇに。海の表面は、宝石みてぇにキラキラ輝いていた。


「おめでとう」の声が、スピーカーから聞こえる。どうやら、ゲームの脱落者達も、俺達の勝負を見ていたらしい。同じ戦場を戦った仲間として、俺の勝利を心から祝っていた。

 

 不思議な気分だ。

 現実の戦争なら、絶対に恨まれるのに。

 ゲームの世界なら、「それ」が友情になる。

 たとえ、自分を倒した敵であっても。


「やっぱ、ゲームを創ったヤツぁ、天才だわ」


 俺は、ゲームの運営会社にコメントを求められた。


「何でも構いません。今の貴方が思っている事を素直に話して下さい」

 

 とは言われたものの、正直すげぇ困った。

 俺にはトークのセンスはねぇし、何より忘れていた意識がふっと蘇ったからだ。


 今日は、8月31日。しかも……時間は、夜の11時間だった。

 夏の終わりが、もうすぐ来る。たった一度しかない、高二の夏が。でも……俺は、後悔していない。こんなに楽しい青春を過ごせたんだから。


 文句なんてありゃしない。

 あるとすれば、仲間への言葉だけだ。


 俺は仲間に向かって、そいつを叫ぶ。


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