1-②.
「やばい、朝礼が始まる……って、あっ、花が!」
彼の後ろにはミニバラやシクラメンなどが入った
「やだ、鉢植えが大変なことに……私も手伝います!」
栞が手伝おうとしたが、彼は下を向いたまま「近づくな!」と
「え、でも、私のせいだし……」
「これは一人でなんとかできるから。それ以上、近づかないで」
栞を見ずに、少年は冷たく
「あの、でも、一つだけ聞きたいんだけど、あなたってもしかして」
「お願いだからこっちに来ないで。
栞の言葉を
彼の指さす方向を見ると、看板と矢印があった。
あまりにも冷たい言い方に栞は言葉の続きを
絶対に彼だと思ったのに、間違いだったのだろうか。
栞は心の中でぐるぐると考えていた。栞の知っている彼は誰よりも優しくて人を傷つけるような言い方はしない。でも、あの美しい瞳を見て、人違いだとは思えなかった。
「ちょっと待って」
ぐい、と
「
目を
手の中のハンカチを見つめながら、栞は思った。
――やっぱり彼だ、と。
来客用玄関から校内に入ると、担任が栞を待ち構えていた。色黒で
「雪間栞さんだね! こんにちは……っておいおい、その足はどうしたんだ? 大丈夫か?」
「ちょっとそこで転んじゃったんです、あはは」
栞はじわりと血が
「こりゃあ保健室が先だな! こっちだ、ついておいで」
担任が人気のない廊下を進んでいく。栞は後ろを歩きながら、手の中のハンカチをぎゅっと
「先生……転んだ時、助けてくれた人がいたんです。同じ二年生だと思うんですけど」
「へえ、どんな奴だった?」
「花の鉢植えを持った、桜色の目をした男の子です」
「桜色……ああ、それは生物部の
吉野葉桜。その名前を耳にした瞬間、身体からふ、と力が抜けた。
やっぱり、葉桜くんだったんだ。
栞は彼の桜色の瞳を思い浮かべた。あの綺麗な目を見間違えるなどあり得ない。けれど、それでも、あまりにも今の彼は違いすぎる。
「彼、人見知りなんですか?」
「ああ、困ったことに無口で誰とも話したがらないんだよ」
誰の話をしているのか分からなくなりそうだった。あの泣き虫だけど誰よりも優しい彼は変わってしまったのだろうか。けれど、手の中にあるハンカチに
会いたいと願っていた――――高校二年生になった吉野葉桜だった。
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