【書籍版】僕の涙がいつか桜の雨になる
犀川みい/ビーズログ文庫
1.
1ー①.
幼い頃の彼はいつも
出会った時も、別れた時も、彼は桜の花びらが
まるで、桜の花みたいな子だった。
1.
九月に入ったとはいえ、夏の
もしもこの気温で学校まで走ったなら、きっと
初めて着るセーラー服。スカーフを
「間に合うかな、遅刻したらお母さんに絶対
今朝、栞は「学校まで車で送ってあげる」と言う母の申し出を断った。
通学路の河道は子どもの
栞の故郷はさくら町という小さな町だ。
どこにでもありそうな、ありふれた名前の町だけれど、その名のとおり町は桜で
そんなさくら町に高校二年の秋、栞は六年ぶりに帰ってきた。小学五年生の頃に
「はあ……どうしよう、会えるかな。会えたら、気づいてくれるかな」
帰り道にすれ
栞は新しい学校のことより、そればかり考えていた。彼、というのは
そして、
宝石みたいに
いつかこの町に帰って来られたら、きっとまた会いたい。そう願っていた相手だった。
歴史を感じさせる
他の生徒たちはずらりと下足箱が並ぶ生徒
栞は
コの字型の校舎は真ん中に中庭があって、右には生徒玄関、左には職員玄関があるが、
きょろきょろしながら歩いて、ふと視線を前方に
「えっ」
それが真っ黒な学ランで、誰かの背中なのだと
「いたた……す、すみません!
栞はすぐに起き上がって、
「本当にすみません! 私、転校生で、来客用の玄関を探して歩いてたんですけど、全然前を見てなかったんです! まさか目の前に人がいると思わなくて……」
「もういいよ、大したことないし」
ぶっきらぼうにそう言うと、彼は顔を上げた。
「でも……え」
ぶつかった少年の顔を、その目を、その瞳の色を見た
――彼は、桜色の瞳をしていた。
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