2-②.
それから放課後まで、栞は
笑いもせず、泣きもせず、
「吉野くんがどんな子かって? さあ、ほとんどしゃべったことないし、分かんないよ。話しかけてもさ、全然会話にならないっていうか、会話してくれる気がないんだよね」
そう教えてくれたのは、前の席に座る女子だった。
「無口っていうか、クラスメイトとあまり関わりたくないように見えるよ。話しかけても会話続かないし、よく分かんない奴だよ」
これは
彼らの言葉は、栞が実際に葉桜を観察していても同じように感じたことだった。
葉桜がどうして人と話したがらないのか、理由は分からないまま、転校一日目は
「話しかけると
栞はぶつくさ文句を垂れながら
この道をずっと上っていくと丘の上にぽつんと吉野家が建っている。
二つの家の間に、町一番と言われている、一本の立派な桜の木がある。栞が初めて葉桜と出会った場所であり、子どもの頃は毎日のように通った遊び場でもある。思い出の場所に六年ぶりにやってきた栞は、子どもの時のように太い木の根を
「良かった、ここから見える景色はおんなじだ」
「ここは私と一緒で何も変わってない」
放課後、葉桜は栞が声をかけても無視してさっさと教室を出て行った。大好きだった葉桜に冷たくされるのはひどく悲しい。葉桜は変わってしまった。離れている間に彼に何があったのか、何も知らないことがもっと悲しかった。
「あ……」
「葉桜くん……じゃない、吉野くん」
「……やっぱり、私のことなんて覚えてないんだ」
***
翌朝、栞が登校すると葉桜はやはり一人でいた。
栞は机に
教室の中では他のクラスメイトたちがいくつかグループを作って楽しそうに盛り上がっている。いかにも運動部らしい
「よう、栞!
ついさっきまでの
「もしかして……
「おお、そうだよ! 久しぶりだな、元気だったか?」
「わー! 本当に久しぶり! 大将くんもこの高校だったんだね!」
栞は
大将もまた、栞にとっては幼馴染みと言える存在だった。大将というのは、本名ではなくあだ名だ。さくら町
昔の彼は体格に物を言わせたいじめっ子で、葉桜をよく泣かせていた。けれど、葉桜があんまり泣くものだから、早々に良心の
「俺もこのクラスなんだ。昨日は
「は……吉野くんから聞いたの? じゃあ、吉野くんって私のことをちゃんと覚えてたの!?」
栞は信じられず、大将に
「当たり前だろ? 俺たち、幼馴染みなんだから」
「だって、葉桜くん……じゃない、吉野くんがあまりにも変わっていたし、全然話してくれないし、私のことなんて忘れちゃったのかと思ってたよ!」
「あー……まあ、あいつなりに努力した結果なんだけど、そうだよなあ、うーん、なんと言っていいもんか」
大将は言いにくそうに口をもごもごさせて、言葉を
「あいつはさ、変わったようでいて、実のところ何も変わってないんだよ」
大将は
私のこと、覚えていたんだ。
嬉しい反面、栞は冷たくされる理由がますます分からなくなった。それでも、もう一度勇気を出して、栞は葉桜に改めて声をかけた。
「吉野くん、昨日はハンカチ貸してくれてありがとう」
栞は綺麗に
葉桜はにこりともせずに受け取ると、すぐに机に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます