2-③.
放課後、後期の図書委員になった栞は委員会の顔合わせに出席していた。
生徒数の多いこの学校の図書館は蔵書も多く、
造りこそ古いが、使い込まれた木製の机は良い味わいを出しているし、
「図書委員の主な仕事は昼休みと放課後の本の貸し出し、
年配の司書
「なんで話してくれないんだろう……」
図書委員会を終えた栞は
「なんだよ、元気ないな、栞」
ぽん、と
「大将くん!」
「今帰りか? ああ、委員会の顔合わせだったな、今日は。俺は部活が終わって帰るところ」
「柔道部だっけ? 似合うね!」
「中学から始めてな。まあ、そんなに強くもないけど。一緒に帰らないか」
「うん! 私、話したいこといっぱいあるよ!」
栞は
「へえ、
「そういや、
「え、夜桜ちゃんが?」
栞はぱっと目を
「今朝、ランニングしていたら偶然会ってさ、栞のことを話したら会いたいって騒いでた」
「そうなんだ、嬉しいな。夜桜ちゃん、きっと
「ああ、あの母ちゃんな。花見の時しか見ないけど不老不死かってくらい変わらないぞ」
「吉野家の皆にますます会いたくなったよ。でも、もう六年も
「分かるさ。俺や葉桜だって栞のこと、すぐに分かったんだから」
栞は大将の言葉にありがとう、と小さく笑った。
「ねえ、葉桜くんって大将くんとはよく話すの?」
「葉桜が嫌がるから学校ではあまり話さないけど。学校の外だと電話したり、一緒に遊んだりとか」
「え、そうなの!? いいなぁ。でもなんで学校じゃ話さないの?」
「まあ……いろいろあるんだよ」
大将は困った顔で言葉を濁した。
「そういや、栞が転校する時、葉桜が見送りに行っただろ? あの後、大変だったんだぜ。葉桜はもう、毎日泣き通しで。この世の終わりみたいな顔でやっと学校に来てたんだ。見せてやりたかったよ」
「今の葉桜くんからは考えられないな」
栞は葉桜の冷たい物言いを思い出して、複雑な表情をする。
「あの頃の葉桜くんは表情豊かで優しかった。引っ越す日も私より大泣きして見送ってくれたんだよ」
「あいつらしい。子どもの頃は栞にべったりだったから無理もないな。お前がいなくなってから葉桜はあいつなりに努力して大分泣き虫がましになっていったんだがな……」
「ましにって、もう治ってるでしょ。大将くんは葉桜くんが変わってないって言うけど、どう見ても変わったよ。私の知ってる幼馴染みの葉桜くんはどこにもいないもん」
「そんなことねえって。根っこは全然変わってないんだよ、本当に。俺じゃどうにでもできないほどにな……でも、栞ならあいつを変えられるのかな。昔から、葉桜の
「それって大将くんじゃない!」
「まあ、そうなんだけど。とにかく葉桜のこと、またよろしく頼むよ。俺には正直、もう荷が重い。あいつを助けてやれないよ」
「何それ。葉桜くんは確かに
「それはそうかもしれないんだけどさ……」
大将はまたしても
桜の下に座り、栞は鞄からハードカバーの小説を取り出す。委員会の後、図書館で借りてきたのだ。ページを
活字を追えなくなって、本を閉じた。
栞は風の音に耳を澄ませる。夕方になると、さすがに風も冷たい。
もうしばらくすると、夕陽は完全に沈んで本は読めなくなるだろう。本を片づけようとしていた時、足音がした。栞が期待を込めて顔を上げると、呆れ顔の葉桜がそこにいた。
「はざ……じゃなかった、吉野くん、こんばんは」
用があってここに来ているんじゃないのかな、と栞は内心思っていた。
けれど、今日もまた、葉桜は何も言わずに去っていく。
「また明日ね!」
栞がその背中に声をかけても、無言のままだった。
葉桜はクラスメイトに対しても言動は冷たいが、あからさまに無視するようなことはしない。けれど、他の人間と比べて栞への対応はどうにも感じが悪い。悪すぎるのだ。
「……私、帰ってこないほうが良かった?」
遠のいていく背中に向かって、呟いた。私を忘れたわけじゃないなら、どうしてそんな態度を取るんだろう。何か
葉桜の姿が見えなくなると、栞は本を鞄に
だから、冷たくされても、無視されても、それでも。
「
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