2.
2-①.
もともと、二人の家は近所にあったので出会うのは必然だった。
幼い栞は
しかし、どうしてか、桜の木からしくしくと泣き声が聞こえてきた。桜も泣くのかしら、と栞が裏へ回ると、太い幹の後ろに男の子が一人
「こんなところで、どうしてないているの?」
「みんな、ぼくをへんだっていうの」
「どこが?」
男の子がおずおずと顔を上げると、栞はびっくりして手の中にあった桜の花びらを落としてしまう。空になった両手で男の子の
「すごい! さくらとおなじいろ!」
興奮した栞は桜の花と瞳を何度も見比べた。すると、見る見るうちに桜色の瞳は
「そんなにへんなの? みんながぼくをへんだっていうの。それで、なかまにいれてくれないんだ」
仲間外れは
「へんじゃないよ、とってもきれい! わたしは、なかまはずれになんかしないよ」
「ほんとう?」
栞は大きく
「わたし、しおりっていうの! あなたは?」
「ぼくは……はざくら」
よろしくね、と栞が笑いかけると、それにつられて泣いていた葉桜も笑った。ぽろぽろ
桜
二人が友達になったきっかけはそんな
***
「……雪間、聞いてるか?」
職員室の
「あ、すみません、ぼんやりしてました」
栞は
「転校して
「保健室で消毒してもらったし、膝は
「二年の、しかも秋に転校だもんな、仕方ないよ。でも、そんなに緊張しなくても大丈夫だ! うちのクラスは気のいい
担任は栞の背中をポンポンと叩く。栞は担任の話に
初恋の人、吉野葉桜は幼少時、気が弱くて泣き虫だった。小学校の高学年になってもそれは変わらなかった。けれど、
それなのに、どうしてだろう。あんな冷たい物言いで、しかも六年ぶりとはいえ幼馴染みの栞に気づきもしないなんて。
栞は自分でも
「さあ、そろそろクラスに移動しようか。自己
担任に連れられて栞は
「みんな、お待ちかねの転校生を紹介するぞ。雪間栞さんだ。小学生の頃までこの辺りに住んでいたそうだ。助け合って仲良くするように。はい、じゃあ、一言どうぞ」
担任に
「雪間栞です! 小学五年生までさくら町に住んでいました。家の都合でこんな時期ですけど、地元に戻ってきました。本を読むのが大好きです! みなさん、よろしくお願いします!」
栞はぺこり、と頭を下げればパチパチと大きな
「雪間の席は
栞が
栞は自分の席に着き、横目で隣の葉桜を見つめる。
何度見ても
険しい顔つきはまるで別人のようだが、きっとぶつかったことで
「さっきはぶつかってごめんね。これからよろしく、葉桜くん!」
栞は努めて明るく葉桜に話しかけたが、葉桜はいっそう不機嫌そうな顔をした。
「
「え……」
栞はびっくりしてすぐに言葉が出てこなかった。
「いや、でも、子どもの頃は」
「授業始まるよ、雪間さん。早く準備したほうが良い」
始業のベルが鳴り、葉桜との会話は
――雪間さん。
自分の名前なのに、葉桜に呼ばれると言いようのない
昔のように下の名前で呼び合うこともできないのか。私のことなど忘れているのだろうか。栞の心の中でそんな不安が大きく膨らんでいた。
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