終 -暗き瞳が視る未来-
総監執務室を後にしたマリアは外で待機していた長身の女性と並んで機構のVIP専用通路を鼻唄を歌いながら歩いていた。目的を果たした二人は現在帰路に就く最中だ。
「アザミ、やはり彼は素晴らしいね。久しぶりだったけど、何も変わらないでいてくれてとても嬉しい。」楽しそうな笑みを浮かべ両手を一杯に広げながら身振り手振りを交えてマリアは興奮気味に語る。
「交渉は成立したのですね。」隣ではしゃぐ少女を横目にただ一言、事務的な確認を行う。
「まったく、君はつれないなぁ。」あまりに素っ気ないアザミの言葉に溜め息をつきながらマリアは答え、さらにつまらなさそうに言葉を続けた。
「成立も何も、彼らは最初からこの依頼を受け入れるしか無かった。どれだけこちらが無謀な要求を突きつけようと、それを断るという選択肢など無かったんだよ。この話を持ち掛けるより前の時点で結末は既に決まっていたのさ。その事は彼にもお見通しだったようだけれどね。」
見た目の年相応といった様子で少し膨れながら答えるマリアの様子を見てアザミは僅かに頬を緩ませる。この表情の移り変わりを見るのがアザミにとっては日々の楽しみの一つであるからだ。
「では、後は彼らが実際に動いた後の結果を待つのみですね。」優しい声でアザミは話しかける。
「そうだとも!私達はただ待っているだけで良い。望む結果はもう手に入ったも同然だ。」アザミの言葉に暗く不敵な笑みを浮かべてマリアが答える。しかし、マリアはその後すぐにいつもの調子に戻って再び鼻唄を歌い始めるのだった。その横を微かに笑みを浮かべた長身の女性が付き添い歩く。そうして二人は通路の奥に消えて行った。
二人の会談からさらに月日が経った西暦2035年のある日。世界特殊事象研究機構により大西洋に浮かぶ例の無人島調査を行う事がレオナルド・ヴァレンティーノ総監より世界に向けて正式に発表された。国際連盟の調査失敗の経緯もあり、メディアは一斉にこの発表を取り上げて報道。次は成功するのか、今度も失敗するのかと言った話題で世間を賑わせることとなった。大西洋方面司令-マルクトに所属する調査チーム【マークת】による現地調査は数か月後に行われる見通しだ。
世界がその調査の行方を見守る一方、国際連盟の最深部であるセクション6では既にその結末を知る少女が余裕の表情を浮かべていた。
全てはただ一つの目的を叶える為。その為に必要な通過点に過ぎない。前回の調査も、今回の調査も、それによってもたらされる結果も何もかも。結末は決まっている。彼は目覚め、彼女は救われ、長きに渡る眠りは終わりを迎える。時計の針は動き始め、そして新たな運命の歯車が回り始める。
「千年を照らし見ようとする者達よ、心に留め置くが良い。汝らの道は全て可能性である。その道行きを間違えてはならない。」
照明が消された部屋の中で黒いゴシックドレスに身を包む美しき花がふと呟く。予言の花と称される少女は、もうすぐ調査隊の彼らがその目で見るものを既に知っている。
暗がりの部屋に輝く金色の花は心地よい感情に包まれながら穏やかな笑みを湛えた。その赤い目に深い暗闇を宿したまま。
-了-(【イベリスの箱庭】 へ続く)
予言の花 リマリア @limaria_novel
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