七
朝日が射して、私たちは朽ちた船の陰に休んでいる。
ここまでずっと背負ってきた
すでに、
追っ手は掛かるまいと思う。女王が私たちを赦したのだから。
その
* * *
「……正しい。何故だ、
「高祖父、
女王が息を飲むのが聞こえた。
「私はそれを、
ならば土の中で
だからすでに、女王の
ややしばらく、言葉はなかった。
無数の竹の息づく夜の底を、高くから満月だけが照らしていた。
ざあ、ざあ、と竹の葉が鳴り巡る。
私は十三代女王
その姿は相変わらず黒い影だったが、満月はもはやその頭から外れて、冠ではなくなっていた。
やがて、押し殺したような声が降ってくる。
「よく分かった。
その娘だけだ。他は掘り出してはならぬ。……そのつもりも無かったであろうがな」
見透かされている。
私は狭穂ひとりを助けるために、あとの二人、あるいは三人を見殺しにするのだ。最初からその心積もりでここに来た。
今すぐ掘り出せば息を吹き返すかもしれない娘たちを。
一人しか抱えて行けないからだ。
そう決めた時点で私には、罪がある。
ならばせめて、やりおおせなければならない。
どこへなりと連れてゆくがいい、と女王は低くゆっくり私に言った。
「我が名にかけて、追っ手は出さぬ。その娘の係累が責めを負うこともない。
ただひとつ、守るべきことがある。
女王の真名を、これ以上誰にも伝えてはならぬ。その娘にも、誰にも。
我が真名、若竹の名を、世に広く知られるようなことがあったならばその時は、
* * *
「だからその名は、言うことはできない。帰ったら高祖父の手記も墨で塗り潰すつもりだ」
私の肩に頭をもたせかけた
狭穂はもう、帰る場所を失った。永遠に。これから先は私がこの娘を守っていかなければならない。
「狭穂」
呼ぶと、はい、と細い声で答える。
妻となるべき愛しい娘の身体を、私はそっと抱き寄せる。
「
私の故郷は美しい所だ。そこが狭穂の新しい故郷になる。狭穂の気に入る眺めの部屋を用意しよう。屋敷からは、山も川も、野原も畑も、海も見える。どんな眺めがいい?」
すると狭穂は、私の肩に額をつけて、夜風のようにこう
「どうか、竹林の見えないところに」
「ああ、きっとそうしよう」
そうして私たちは立ち上がり、森沿いに歩き始める。
あの
遠い遠い昔、
狭穂は
そして、
長い年月の後に
その最後の一葉を見せられた私の驚きは
そこには若き日の
――我が
〈了〉
沙帆媛伝――竹野国の物語 鍋島小骨 @alphecca_
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