第36話 エピローグ
「ねえ、薄力粉ってこれのこと?」
「卵の黄身と白身ってわけなきゃいけないんだっけ?」
「クッキーとビスケットとサブレって何が違うんだっけ? 謎だね~」
やる気になった家庭科部は、何だかカオスなことになっていた。
これから見学に来るだろう新入生に向けて、お菓子を作って配ろうと決まったのが少し前。それから早速調理に取り掛かったのだけど、殆どの部員が初心者だから、なかなか思うように作業が進まない。
「目分量で量らないで。それよりまずレシピをちゃんと見て!」
家庭科部の真のエースである宮部さんが、みんなに激を飛ばす。これじゃ、彼女自身はとても作っている暇などないだろう。僕は少しでも負担をかけないよう、しっかりとレシピに目を通す。
「工藤君頑張って。君だけが頼りなんだから」
そう涙目で訴えられても、クッキーなんて作ったこと無いからどうなるか分からない。これは、僕の女子力がそんなに高くない事がみんなに知られるのも時間の問題なのかもしれないな。
もっとも……
「部長、クッキーにスルメを入れようとしない! お菓子の匂いにつられてきた一年生を勧誘しようって言いだしたのは部長なんですから、真面目にやって下さい」
「真面目だもん。イカ美味しいもん」
この部には、僕以上に問題を抱えている人がいるけどね。白鳥先輩とか、白鳥先輩とか。
イカ入りクッキーなんて出されたら、一年生が可哀そうだ。当然の如くスルメは没収される。
「でも、こんなことして本当に入ってくるのかな?」
「何弱気になってるんですか副部長。私等みんな、お菓子につられて入ってきたようなものですよ。今年の一年だって同じですよ」
「確かに」
毎年そんな理由で入部する人がいるなら、この作戦も効果があるかもしれない。そのためにも何として美味しい物を完成させないと。
すると、スルメを取り上げられてしょんぼりしていた白鳥先輩が、突然嬉しそうな声を上げる。
「おっ、扉の向こうに人影を発見!」
もしかして、新入生が見学に来てくれたのかも? 気が付けば、全員が手を止め、扉に注目していた。
もちろんそれは僕も同じだ。これから入ってくる人が、家庭科部の仲間になってくれるかもしれない。そう思うと何だかワクワクした。
そして、ゆっくりと扉が開かれる。
ようこそ家庭科部へ。変な人ばかりだけど、入ってみたら、きっと楽しくなるはずだから。
完
僕の女子力はそんなに高くない 無月兄 @tukuyomimutuki
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