鯉の餌

「熱した砂を保管して、絶対零度の海底に沈めると一粒につき一回だけ起こるの。空に穴が開いて、アザラシのひげが少しだけ震える。それがとってもかわいいのよ」


 小さな女の子が楽しそうに教えてくれた。彼女はそんなおかしな理をどこの悪い大人に吹き込まれたのだろうか。なぜだか、私にしてやったぞとほくそ笑む人間がいるのかもしれないと考えると腹が立ってくる。


 あの年頃の子ともなれば、まるで鯉のようになんでも呑み込んでしまうのだ。それは、エサがどうかも分からないというのに、パクパクと本当になんでも口から吸収されていく。ただ、彼女がそれが嘘だと気づくには、相当に難しいものである。私に、一度でも世界の法則をひっくり返してあげる必要があれば、それさえできれば、あの子の中の嘘があばけるというのに。


 そうやって悔やんでみたはいいものの、それと同時に、私が嘘であると決めつけたことが実は現実に存在している現象で、彼女が言っていたことの方が本当であるとするならばという仮説にぶつかった。それを実証するには、やはり骨の折れることで、私にはそんな気力や時間がない。


 なぜか、神のみぞ知る、としか思えなくなってしまった。あの女の子にしてみてもそうで、子供という、世界に遍在している混沌とした法則の中から、自分が生きていくのに適した法則だけを抽出する存在が、本物であると断じたのであれば私には何も言う資格もないのだ。


「見て、この石きれい。魔法使いがタマムシに色を与えたとき、その近くにあったものかもしれないわ」


 彼女はまた混沌とした法則を口にした。疲れているのか、私にはそれが嘘であるのかも判断しかねる始末になってしまった。彼女の中の混沌はどんな法則であろうと飲み込んでしまい、真実として消化される。そうしてなんでも飲み込んでしまった鯉は、いずれ滝を登ることで龍になるのかもしれない。

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