ヤシの木が気になること

「君はダンスをやりにきたのかい?」


 そうやってたずねてきたのは、およそダンスとは無縁そうな、いやそれ以前に人ではなくヤシの木だった。そして彼がたずねた相手といえば、まるでダンスに向いていないんだな。なんせぼくは朝食を食べに来たわけで、ラジカセを持っているわけでも、教本を持っているわけでもなく、朝食用のプレートを手に持っていたんだから。


 これまでの人生で得た処世術を用いれば、こういう手合いに関しては無視が正解なんだ。しゃべるヤシの木がダンスをやるかだなんて聞いてくるって話になれば、そんなの楽しい会話になるわけないじゃないか。それに、どうかすれば周囲から見たぼくは、正気を疑われることになるだろうからね。


「それで、君はダンスをやるのかい?」

「やるよ」


 ふいに予期していない声が現れたので思わず振り向いてしまった。すると、そこには子供がいて、ヤシの木と親しそうな笑顔を向けている。相手が子供となれば話は別だ。どうかすればこれは、幼児向け番組の構図が出来上がっているのだから。


「どんなのを踊るんだい?」

「ぼくはジルバを踊るのさ」

「そいつはいいね、こいつはわしからの選別だ」


 ヤシの木はそう言うと、体を揺らして実を子供に与えた。地面に落ちた衝撃で、実にはちょうどいい亀裂が入り、子供はストローをどこかから取り出すと、おいしそうに飲んでいた。

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