たぶたぶ

 街灯の上しか歩けない夜の男は、その性を悲しみながらも家にたどり着いた。


 彼の家には、緑と赤と黄色の水玉が自由にうごめいている壁紙が貼られていて、その家を訪れた人は、恐怖を感じなければいけなくなっていた。それはまるで、恐怖を感じることが義務であり、それを果たしてようやく解放されるように聞こえてしまう。いや、そうなのだ。そこに一度足を踏み入れてしまったのであれば、義務をなたさなければ再び外の空気を吸うことは許されないのだ。


 彼に街灯の上を歩かなければいけない義務を与えたものは、彼のあらゆるものにそうやって義務を与えた。一年に一回は忘れられていたことを思い出され、結局は放置されなければいけない鍵や、小指にぶつからなければいけないテーブルの脚、二回以上飲み物をこぼされなければいけないテーブルクロス。それらはすべて義務を与えられており、それが遂行されない場合、一人で生きていかなければいけなくなるのだった。


 まるで、生き物のように扱われるのだが、もちろん彼らは家具でしかないので、自ら食事をとることもできなければ、口を利くこともできない。だがしかし、終われると思い意識を落としたその少し後、彼らは再び男の家で居を構え、義務を遂行しなければいけなくなるのだった。

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