ついつい

 後ろ指刺されてしまったあとでは、顔が赤くなるのは当然のことだ。なんでおれがこんな恥をさらさなきゃならないんだか、わけが分からん。


「ぼく、君が好きそうな特技ができるんだ。ぜひとも見てほしいな。君もよく喜んでくれただろう」


 そう言って、見ず知らずの奴がいきなりおれの靴を舐める真似をしたかと思うと、犬の物まねを始めやがった。それが仲間内での話だったならまだしも、会社の人間の前で始めたってなれば話は別だ。あいつにおれが何をしたって言うんだ。たしかに娘にはいい年して口調の悪いおっさんだとか言われるけどな、だからって人様に迷惑かけたりする真似はしたことねえ。


 ともすれば、なにか恨みを買うようなことをしたのだろうか。いや、分からん。狭い世界で生きてきたから、それほどに迷惑をかける人間もいなかった。なら、どうしたことか。


「ねえ、でも、面白いって思いませんか?ぼくはこういうのが面白くってよくやりますし、他にも見ず知らずの人の後にずっとついて行ったり、そんなことが面白いんです。申し訳ないとは思いますよ、でも、娯楽を止めることができないのです」

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