きみのためなら

「どうして、植物は枯れた後にすぐに倒れてしまわないんだろうね。すぐに倒れてしまって、種を落として、腐ってしまえれば、土に栄養を与えることもできるだろうし、次の種だって十分に備えることができるだろう?」


 彼はときどき、こうして思い付き次第にたずねてくることがある。昔なじみだから慣れたけど、そのせいで彼が後ろ指をさされていたことも記憶に新しい。


「また変なこと言って、そんなのどうでもいいことじゃない」

「ぼくにとってはどうでもよくないんだ。ぼくという人間はそうなっているみたいなんだ」


 またそんなことをして。自分を客観視しすぎてしまって、まるでどうなってもいいみたいな振る舞いをしたり、我慢をし過ぎたり、見ていて不安になることばかりする。そして、それもいけないことだからと否定して、否定する自分すらも否定して、彼は彼を見つめる彼によって常に思考の堂々巡りをしているんだ。メタ思考が悪循環を起こして、彼の中での意志選択は、決定されたあとすぐに否定される。だからいつも不安定で、自分を取り囲む物皆の流れを理解すれば、ようやく正しい選択ができると思い込んでいる。


 それは間違いだって教えてあげたい。あなたはただ自己評価が低すぎるあまり、自信が持てていないだけなんだって、それさえどうにかすれば、きっと前に進めるんだって言いたい。


「でもそうね、きっと、守ってあげたいからじゃないかしら。自分が根を張る足元で生きているさらに小さな命たちが、日光にさらされ続けて干からびてしまわないように、自分が最後まで粘りに粘って、日陰を作ってあげようとしているんじゃないかしら」

「なるほどね、そうして、守った彼らにも自分たちの次の世代が生きていくための手助けをしてもらって、そうやって命はつながっていくんだね」


 嬉しそうに納得してくれた。本当のところは知らないのだけど、彼が想像しうる内で、できる限り優しい解釈をしてくれたらと思う。わたしは自分がめんどくさい人間に付き合うお人よしであると自負しているのだけど、仕方ないじゃない、特別な人に対して、わたしという人間はそうなってしまうみたいなんだもの。

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