ラッキーチャンスのはずなのに
赤い月が雲の合間から顔を出した頃、一人の酔いつぶれた男が千鳥足で林道へ迷い込んだ。
男は強く吹き付ける風を浴びながら、まるで自分の家にいるように安心しきっている。林道では山賊に襲われる人も多く、もしも男がシラフならこんな愚かな真似はしなかっただそう……。
そして今夜、血に飢えた凶暴な存在が近くで放たれ、今か今かと獲物を狙っていた――。
祭壇に蝋燭、三角形の旗、線香、鈴、それから供物として餅米、桃の木でできた剣などを配置した道場で、ワンおじいさんが絶えず呪文を唱えている。
行方知れずの兄さんキョンシーをおびき寄せるための呪術である。
俺は、ユーユーさん達とともに村中の警備に当たっていたちょうどその頃、兄さんキョンシーは林道で見つけたその獲物の首筋にかぶり突き、エネルギーを吸い取っていたんだ。
「う、ううぅうう」
首元を絞められ苦しむ男の顔は恐怖で血の気が引いていた。
そのとき、兄さんキョンシーがピタっと動きを止めた。
そして、何かに吸い寄せされるかのように、獲物を粗雑に置き去り、移動し始める。
――トン、トン、トン、トン……。
後に残された男は、そのまま気を失い、うつ伏せのまま動かなくなった――。
「ねえ、ユーユーさん、お札を剥がされた兄さんキョンシーは人を襲うだろうか」
俺たちは、二チームに分かれて走り回った。俺は、普段なら嬉しくて小躍りしそうなんだけど、ジャンケンでユーユーさんと組むことになった、もちろん今は小躍りなんかできそうにない。
キョンシーはむやみに自分から人を襲ったりはしないんだが、誰かに攻撃を受けたり時間が経つに連れて徐々に凶暴化していくという特性があるんだ。
だから、さっき俺たちと争った兄さんキョンシーも相当興奮していただろうから、人を襲ってしまってもおかしくない。俺は、兄さんを人殺しになんてしなくなかった。
「わからないわ……でも、キョンシーに理性や生前の記憶はないっていわれているから、イオだってきっと……」
「もし俺らが誰よりも先に兄さんキョンシーを見つけたら、兄さんに勝てるかな」
兄さんは強かった。増してやキョンシー化によってパワーも増幅されている。ワンおじいさんがいれば話は別だけど、俺とユーユーさんが合わさっても、兄さんと互角にやり合うことなんてできないだろう。
「それでも、誰かが襲われそうになっていたら、やるしかないのよ」
ユーユーさんの言う通りだ。やるしかない。もし俺がやられたとしても、村の人とユーユーさんのことは何としても守らなければ。
俺が気を引き締め直したそのとき、一瞬だけ、吹いていた風が止んだ。
なんだ?
俺は真っ赤な月が照らす夜道に人影を見つけ、警戒した。
――トン、トン、トン。
「いた……」
兄さんキョンシーの影。
まだ小さいが、微かに聞こえる足音に合わせてその丸い影が僅かに上下している。
「道場に向かっているのかな、ワンおじいさんの引き寄せの術が効いているんだ」
「そう、かもね」
俺たちは、構えた。
兄さんキョンシーは、俺が想像していたよりも速く俺たちの元へ近づいてきた。
「前と後ろで挟み撃ちにしよう、俺が先に行って後ろを取るね」
「わかった」
俺は、心の中で、「よし!」と気合いを入れて走り出した。俺の急な動きを、向こうも察し、俺を標的に決めたようだ。
「兄さん、大人しくお札を貼らせてくれ!」
俺はそう叫んで、兄さんキョンシーの脇を潜り、後ろを取ろうとしたのだが、相手の動きは俊敏で、後ろに回り込む前に攻撃を仕掛けてきた。
組み手が始まる。
キョンシーの鋭い爪に引っ掻かれるとやっかいだ。屍毒に侵させぬよう、十分用心しながら戦わないといけない。しかし、俺の攻撃はなかなか当たらない。兄さんキョンシーに弾かれた腕や脚は相当のダメージを食らいジンジンと痛む。
そのとき、ユーユーさんが加勢し、兄さんキョンシーに蹴りを入れる。
当たった!
兄さんキョンシーは足を取られ、一本の棒のまま地面に倒れ込んだ。
「やった」
しかし、すぐさま驚くべきジャンプ力で立ち直り、今度は標的をユーユーさんに替えて襲ってきた。
「ユーユーさん! 危ない!!!」
俺は兄さんキョンシーを全速力で追いかけ後ろから羽交い締めにしたが、そのときにはすでにユーユーさんは兄さんキョンシーの手中にいた。
「くっ」
ユーユーさんの体は瞬時に反応し、毒爪を免れたものの上から振り下ろされたその鋭い爪によって事もあろうにユーユーさんの上衣が大きく引き裂かれた。
に、兄さん、なななななななんてことを!!!!
動揺する俺を余所に、戦闘モードに入っているユーユーさんは、露になった際どい胸の膨らみを気にする素振りを見せず攻防を続けている。
お、俺も応戦しなければ……。
持てる力を振り絞り、ユーユーさんが兄さんキョンシーの額にお札を貼るまでは、絶対に羽交い締めを解いてはいけない。
俺は振り払われそうになっても必死に踏ん張って堪え続けた。その瞬間、ふわっと兄さんキョンシーから漂ってきた臭い……。
兄さん、血を吸ったのか……!?
誰かを、殺めてしまったのか??
くそ!
くそ!!
油断すると、こっちの首筋もすぐにでも噛み付かれる!
兄さんはまるで暴走する野獣だった。兄さんキョンシーの注意が幾分、俺の方へ移りつつあった。ユーユーさんは何度もキョンシーに飛ばされながらもそのチャンスを逃さなかった。
「えい!!!」
…………。
「……くっ」
俺の首筋に、兄さんキョンシーの牙が食い込んだのと、ユーユーさんがお札で兄さんキョンシーの動きを封じたのと、どちらが先だったろう。
俺は痛みの衝撃に耐えながら、兄さんキョンシーの抵抗がすっと消えるのを感じた。
「ジン!!!」
お札を貼られた兄さんキョンシーは立ったまま眠ったように動かなくなった。
一緒に力の抜ける俺の体……。
ああ、いい気持ち。
ユーユーさんの膝枕……。
しかも、目を開けろ!!
開かない。
頑張るんだ!!!
ほら、ぼんやりとだけど、このアングルだと見える……。
ユーユーさんの、ピンク色の……。
〜〜〜〜〜〜〜〜
?? 桃剣って ??
桃の木には魔除けの力があるとされている。そのため、剣以外にも道士の道具には桃の木が使われていることが多い。桃の剣以外にも、桃の枝でキョンシーをぶつと大きなダメージを与えることができる。
また、解毒作用として桃の葉、ライチーの葉が効果ありとされている。
?? その他、キョンシーの弱点は ??
キョンシーには動物の血、なかでもニワトリの血が効果的であり、血が皮膚につくと反応し皮膚を溶かしてしまう。
そのため、お札の呪文は動物の血を墨に混ぜた筆で書かれ、また桃剣を血に浸して使うとキョンシーの体に突き刺さるようになる。
また、餅米にはキョンシーの毒を吸い取る力があるため、供物にしたり、法術に用いることが多い。法術に使う場合の一例として、餅米をそのままキョンシーにぶつけると爆弾のように爆発する。また、キョンシーになりかけた人を清めるための薬の材料としても使用する。
その他、強い光や鈴の高い音も苦手なので、キョンシーの動きを封じるために利用することがある。
?? キョンシーはおしっこを嫌う ??
妖怪や悪霊の類いには、つばやおしっこを嫌うものが多く、キョンシーも、特に子どもの尿が苦手とされている。
キョンシーって死語なんだろうか、世代じゃないけどテ○テ○が死ぬほど可愛いので似たような話を書く。 小鳥 薊 @k_azami
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