心さえ蝕まれ、それでも生きた影の少年

影の少年は死ぬことを望んでいた。周りが死ぬことを褒め、推奨する世界で彼は心の拠り所さえないまま日常を死と隣り合わせの毎日で生きていた。
空虚な日常は彼の心を蝕み、死を選ぼうとした。だが無くなったのは数本の指。残りは綺麗なまま残った。
そしてある日ラジオで流れる降伏宣言……。
これは登場人物の亡くなった祖父が書いた物語だった。
戦争で私の曽祖父は指を失った。死ぬまでそのことをひ孫だった私には言わず、「事故で切った」と誤魔化していた。
母方の祖父は沖縄戦でアメリカ軍の捕虜にされた。軍兵に取り囲まれた時、公園には牛と人間の死体がゴチャゴチャしていたそうだ。
死と隣り合わせの毎日を生きた人々の生き方にはどこか暗い影があり、生き方や生活に闇を置いていくだけだった。
死は楽ではない。かと言って生も楽ではないと言われたら、そうではないと思う。
人生楽あり苦あり。私たちは死ぬまで先人の決めた時間の中で生き、年を重ねていく。
それまでに後悔できる幸せを得られるようになりたい。改めて生きる決意をさせられる物語だった。

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