第11話:幼馴染との関係を突っ込まれる。


 俺が教室に入ると、わいわいと賑わっていた空気が一変してざわざわと色目気始めた。覚悟していなかったと言えば嘘になるが、それにしても噂になるのが早くないか?


「オッス、純平。お前もようやく腹を括ったのか? 校内一のイケメンと幼馴染の関係からようやくステップアップか?」


 登校しただけですでに午前の授業を終えたくらいの精神的疲労を感じた俺に気楽に陽気に声をかけてきたのは腐れ縁の悪友であり親友でもある男。


「……おはよう、テツ。別に腹を括ったとか、ステップアップとか、そういうのじゃ全然ない。いつにも増して弥生が突拍子もないことを言いだしことが原因だよ」


 男の名前は谷川原哲郎たにがわらてつろう。通称テツ。


 この厳つい名前に反することなく、長年バスケをしてきたことで培われた筋肉質のごつい身体に両サイドを刈り上げた髪型をした所謂野性味に溢れるワイルドなイケメンで、実際に女子人気は高い。


 ちびの俺とは180度違う世界に住んでいる人間のはずだが俺とは何故か気が合って、気付けば十年近くの付き合いになっていた。


「……なんだよ、違うのか。俺はてっきりお前が杜若かきつばたに告白してゴールインしたのかと思ったんだが……純平、本当に……そういうわけじゃないのか?」


 神妙な顔つきで尋ねてくる理由はわからなくもない。親を除けば、テツは俺が弥生のことを好きなことを知っている唯一の存在だ。


 ことあるごとに早く告白しろと好き勝手に煽ってくるのだが、そんな度胸が俺にないことはこいつが一番よく知っているはずなのに、どうして俺が弥生に告白したと思うのだろうか。


「違うって。本当に告白してゴールイン出来ていたら俺はこんなに疲れているはずないのだろう? もしそうなら俺はその日のうちにお前に電話しているよ」


「そりゃそうなんだろうけどよ……そもそも、週明け初日に仲良く手を繋いで登校して来たらそういうことがあったって思うのは当然だろう? 俺の知らないところ・・・・・・で超ヘタレ純平がついに行動を起こしたと思うのが普通だろう?」


「ヘタレ言うな。自覚していることを他人に指摘されることほど心を抉ることはない」


「うるせぇ。ヘタレにヘタレと言って何が悪い、このヘタレ。さっさと告白しろ。そして付き合え。いや、もういっそのこと一生杜若と添い遂げろ。この歩く糖尿病患者精製機が!」


 見せつけられる側の気持ちを少しは考えろよ、と怒りを込めた一言を付け加えたところでチャイムが鳴って、担任教師がやって来た。


 俺がヘタレだというのは自分がよく知っている。


 今の弥生との関係に居心地の良さを感じていて、それが変わってしまうことが怖いので中々一歩を踏み出せない。


 だが、時間というのは待ってはくれない。否が応でも決断して行動に移さなければいけない時は必ず来る。


 俺は朝から憂鬱なため息をついた。



「というわけで! 迎えに来たぞ、純平! さぁ一緒にご飯を食べようじゃないか!」


 そんな悶々としながら午前の授業を終えた俺の前にジャージ姿の弥生が颯爽と現れた。額に残る汗がきらきらと光っていて、鬱陶しく張り付く前髪をかき上げる姿などはまさに画面から飛び出してきたイケメンアイドルだ。現にクラスの女子たちは黄色い悲鳴を上げている。


「……一緒に食べるのはいいけど、今日は・・・なんも用意してないぞ?」


「そうだったな……よし! では購買に行こう! たまには菓子パンでも買って屋上でのんびり食べるのも悪くない!」


「うん、悪くないな。悪くないんだけど着替えなくていいのか?」


「構わない! さぁ、ちんたらしていたら昼飯抜きになってしまうぞ! それは御免こうむりたいから急ぐぞ!」


 ずかずかと我が物顔で教室に入ってきた弥生はそのまま俺の手を掴んだ。弥生の顔には笑みがあり、その可憐さにドキッとした。しかもその頬にほんのり紅がさしていた。


 俺と手を繋いだくらいで照れるのだろうか。俺は十分嬉し恥ずかしいで熱く火照っているのを自覚しているが、果たして弥生も同じ気持ちなのだろうか。


 答えの出ない悩みに悶々としながら、俺は弥生に引かれて一緒に購買へと向かった。

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イケメン美女な幼馴染と両想いになりたい人生でした 雨音恵 @Eoria

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