第10話:幼馴染と登校する
弥生と恋人繋ぎで登校するのは、俺にとっては至福の時と言っても過言ではないのだが、ここで一つ大きな問題がある。
俺と弥生が指を絡めて手を繋ぐ、いわゆる恋人繋ぎで登校したらどうなるかということだ。根本的な話とか言わないで欲しい。切実な大問題なのだから。
片やショートカットがよく似合い、男よりも男からしい立ち振る舞いと可愛らしい眩しい笑顔を兼ね備え。宝塚の男役のトップスターにも匹敵するほどの凛々しい美貌を持つ王子様女子と。
片や一般高校生の平均身長より5センチ以上小さなちびっ子なくせに愛嬌はあまりなく、むしろ目つきが鋭いから可愛いというより怖いという印象を持たれる俺とではつり合いは取れない。だがなぜか親友からは顔立ちについてはお墨付きをもらっているし、彼曰く
―――純平は自分で思っているほど怖くないから。むしろ庇護欲そそる系男子だからもっと自信持て―――
と言われている。
それはさておき。つまり何が言いたいかって言えば。
男女問わず超絶的な人気を誇る美少女と普通かそれ以下としか認識されていない俺が仲良く手を繋いで登校すれば、憎しみとか怨念とか呪いと言ったこの世全ての悪意が込められた視線を向けられるのは必至だ。
だから俺はちらほらと電車組の生徒が増えだす頃を見計らい、そっと弥生から手を離した。恋人(仮)の設定を学校中に知らせる必要はないと思ったからそうしたのだが、
「……っあ。どうして……?」
なに、その声悲し気な声は。しかも目尻を下げて寂しそうな表情で俺をじっと見つめるのは止めてくれませんか。なんだから俺が悪いことをしたみたいじゃないか。
「やっぱり……純平は私とは手を……繋ぎたくないんだな……しゅん」
「わかった! わかったからそんな声を出すな! 俺が極悪人みたいじゃないか!」
しゅん、て口に出すのは漫画とか小説の中だけの話だと思っていたが実際声にして聞いてみた感想としては罪悪感が尋常ではない。だから俺は、半分はやけくそで、残りの半分はまた幸福を味わえることの喜びで、再び弥生の手を取った。
そこから先はるんるん気分の様子の弥生に身を任せて、俺はこの先に待ち受ける恐怖に心臓を縮こまらせながら学校に向かう。
すれ違う生徒たちの驚きと奇異の視線に耐えきってようやく到着したのだが、それでも弥生は俺の手を離そうとはしなかった。さすがに校内で堂々と恋人繋ぎで歩くのは俺の精神衛生上宜しくないから解放して欲しい。ほら、周りを見てみろ。俺に対する憎しみの声が聞こえてくるだろう?
「
「めっちゃ笑顔な先輩、可愛い……」
「照れてそっぽ向いてる柚木先輩もツンデレしてて可愛い……」
「やっとか、やっとなのか……くそっが。じれったいんだよ」
あれ、なんか予想と違うんだけど。憎悪というよりむしろ微笑ましいものを見たような、満開の桜を見て感慨に浸っているような視線を感じるんだけど気のせいか。
「むぅ……残念だが純平。ここでお別れのようだ。寂しいか? 寂しいよな? 私は……寂しいぞ?」
弥生のクラスは2年1組。学年での成績上位者30名で構成されている選抜クラスだ。対して俺は2年4組。学力的には可もなく不可もなくの普通クラス。進級するタイミングで弥生と同じクラスになるために実は一生懸命勉強したのだがあえなく撃沈。この密かな努力を知っているのは親友だけだ。
「はいはい。俺も寂しいよ。寂しいけど早く教室に入れ。そろそろチャイムが鳴る。俺も自分のところにいかないとまずいんだよ」
「そうかそうか。純平も寂しいか。その言葉を聞けただけでも私は嬉しいぞ。では、昼休みには迎えに行くからな! 一緒にランチとしゃれこもうじゃないか! ではな!」
そう言って弥生は教室の中に入っていった。俺はその背中を見送ってから踵を返して自分の教室に向けてトコトコと歩いた。
そこでふと、弥生の最後の言葉を思い出す。
あいつ今。一緒にランチとか言ってなかったか? しかも俺の教室に来るとも。
嬉しいけど、教室内であいつと飯を食うのは恥ずかしくて死ぬ。
俺は頭を抱えながら、どうするべきか親友に相談することにした。
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