気持ちの良い裏切り

 人間転送装置、魂や主観の在処、地球生命体説、重症患者の仮想世界での延命。
 それぞれの話題はSFを読む人間からすれば、もはや骨董品レベルに見慣れた話だ。おそらく、これらを多少改変して解釈したところで評価されるSFは書けない。そして、この作品はそれらをある一種の捨て駒や踏み台として利用し、最後に提示される人工知能の定義という、これまた使い古された話題で終わる。
 改めて流れのみを簡単に書くと、非常につまらなそうな作品だが、実際に読んでみると全く違うのはすぐにわかる。
 既存の話題をうまく組みわせ、最後に気持ちよく裏切ってくれる。ショートショートとしてこれ以上ない完璧な構成で、文章力も高い。脱帽だ。
 執筆お疲れ様でした。