首無し地蔵

ぬーの

まだ帰れない

じゃあ次は俺が夜コンビニへ行けなくなったわけを話そうか。おい笑うなよ、そんな顔してとかいうな。確かに俺はコワモテだがハートは乙女なんだぜ。


若い頃はそりゃ怖いもの知らずで馬鹿ばっかりやってたよ。その時も夜更けにさ、仲間の一人が岐阜県の〇〇墓地がやばいって話をしだしてな、なら見に行ってみようぜって即行動だよ。


車三台で出かけてったんだけどさ、近くまではナビで行けたがその先がわかんなくなっちまったんだよな。その時点でビビりの安田なんかはやっぱ帰ろうぜとか言ってたが黙らせてやったよ。


そんでしょんべんもしてーしイライラしながらそのへんを流してたらコンビニ見つけたんだよな。あー地元のやつならわかんだろっつってそこ寄ったんだよ。


しょんべして煙草買いがてら太った店員にきいたんだがな、そいつそのへんに住んでるくせにしらねーって言うんだよな。目も合わせずさ。なんだこいつと思ったがまあ仕方ねえ、自分たちで探すかってなってたんだが、イートインコーナーによぼよぼのばあさんがいてさ。こいつなら知ってるだろと思って。ほら、年の功とかいうやつだよ。


そんで俺はその婆さんに道をきいたんだけどさ、ききながら思ったよね。なんでこんな深夜に婆さんがひとりでコンビニにいんだ?てさ。妙に化粧が濃くてさ。真珠のネックレスなんかしてるし、社交パーティーの帰りみたいに着飾ってやがる。


ばあさんは俺の顔をじっとみるとさ、何も言わずナフキンを引き出してボールペンで道を書いてくれたんだな。


まっすぐ行けばつく、それが婆さんの唯一の言葉だったな。どんな声だったかは今じゃ思い出せないけどさ、やけにはっきりとした発音だったと思うよ。


それから俺らは田舎の一本道を三台並んで婆さんに言われた方へ走ってった。俺らの車が真ん中だった。


けどさ、どんだけ進んでもどこにもたどり着かねえんだよ。明かりもないしまわりは何も見えねえ。そしたら安田がなんかぶつぶつ呟き始めてさ。やめろよっつってもきかねーの。


そんときさ、いきなりエンジンとまったんだよ。意味わかんねえと思って、新車だったし、買ったばっかだし。俺はそろそろうんざりしてきてたね。


とりあえず後ろのやつらが来るの待とうと思ってしばらくおのおのスマホいじってたな。やけに静かだった。そんで俺、耐えられなくなって、あいつら遅くね?つって。すぐ後ろ走ってたやつら全然こねーの。だから前と後ろのやつらにそれぞれ電話したらさ、もう着いてるぞとか言い出すんだよ。どこ行ってんだよお前らって言われてさ。は?だよね。一本道だぜ?俺が真ん中走ってたわけ。抜かされるようなとこはなかった。


そんとき気づいたんだよ。車がとまってるとこ、廃校の裏だったんだ。なんかぞっとしたよね。別に明かりが見えたとかじゃねーんだけどさ。ほんで反対側を見たらさ、あれがあんだよ。首無し地蔵。まあこれを見に俺ら来たからさ、あんのは知ってたけど、こんなとこにもあんだって。


なんか慌ててエンジンかけたらかかったからさ、Uターンしてとりあえずコンビニまで戻ったんだよな。


そしたらだよ、コンビニの手前くらいに看板出てやがんの。〇〇墓地はこっちって。それが婆さんが教えてくれたのと真逆なわけ。あんのババアと思って笑ったよね。


それからすぐに他の奴らのとこついたよ。きいたらあいつらまっすぐ来ただけだって言ってたね。


さあやっとついたと思って、俺ら心霊写真撮るために写真撮りまくった。けどなんも写んねえの。やっぱデジタルじゃ撮れねえのかねえ。


そんで一通り満足して白けてきたし帰ろうかって振り向いたらさ、ここにも首無し地蔵がありやがんだよ。ビビったね。だってさっき見たのはよく見る大きさの地蔵だったけどさ、こっちにあったのは二メートル越えのやつだったから威圧感がやべえの。


そこでまた撮影会始めるわな。なんですぐ気づかなかったのかとか考えなかった。その時さ、安田が急に白目向きやがって、何ふざけてんだと思ったら泡まで吹き出してさ。そもそも演技とかできるやつじゃねーし、尋常じゃねー感じだったから俺ら急いでそこから離れたんだ。


墓地から離れたら安田はすぐに気を取り戻したけどな、コンビニで婆さんに会ったことすら覚えてねえの。その後のことはまったく。


それでその日は帰ったんだけどさ、仲間のやつらは本物の馬鹿だから、次の日もっかい行ったんだよな。俺や安田はもううんざりだったから行かなかった。


そしたらこっちは寝てるっつのに、そいつらから深夜に電話かかってきたんだよ。


うぜーと思いながらいちお出るよね。開口一番うるせーんだよ。何言ってるかわかんねえ。婆さんがとか、学校がとか、なんか叫んでる。墓地行ったんじゃなかったのかって聞いてもな、なんか要領を得ないことばっか言いやがる。だから俺は電話切って寝ちまった。


あれが最後だったな。


そいつら、その日からみんないなくなっちまったんだよ。


気になってさ、俺はひとりでもっかいその墓地まで行ったんだ。コンビニまで行って、看板に従ってな。そりゃ流石にちょっと怖かったよ。そんでさ、着いてから気づいたんだ。あの墓地に首無し地蔵なんてないってこと。


慌てて写真見返したけど、そこには地蔵なんて写ってねえの。写ってねえんだ。いや、写ってた。あの婆さんが、遠くの方にちっちゃく、写ってたんだ。

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首無し地蔵 ぬーの @makonasu

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