ククリナイフ

飽き性な暇人

第1話

「た、頼むから殺さないでくれ!」


 恐怖に満たされた声が闇夜の街に響き渡る。

 その発生源は俺の目の前にいる小太りの商人だ。商人は膝をついて手を挙げている。その額には冷や汗がついている。

 その商人の目の前には、くの字に曲がったククリナイフを持った黒のローブの青年がいる。

 その俺は手に持っているナイフを商人の首に突きつけている。商人の声は聞こえているはずだが、笑ったままで、商人に耳を貸さない。

 その俺の様子に商人は歯を軋ませる。


「わ、わかった! とにかく、そのナイフを降ろしてくれ!」


 すると今回は無視せずに、俺は口を開いた。


「お前は人々から不正に金を騙し取り、国民の生活を脅かした。お前のせいでどれだけの国民が死んだと思う?」


「わ、わからない! だが、申し訳ないことをしたと思っている。この通りだ、許してくれ!」


「許しを請うべき相手は俺じゃない。死んでいった二六五二人だ」


「だったら、どうすれば......」


 はぁ。


 俺は深いため息をつく。


「お前が死ねば同じところに行けるだろう。そこで許しが出るまで土下座でもしておけ。もっとも、許すか許さないかは彼ら次第だがな」


といって商人の首の皮を薄く切り裂く。

 切り裂くて言っても血が出ないほどだ。だが、商人は俺の細かな行動に逐一反応している。危うく首の血管を切りそうになるので動かないでほしい。


「頼む! 命だけは、命だけは助けてくれ! 思えにどんなものでもやる! 金か? 女か? 欲しいものはなんでもやるからそのナイフを降ろしてくれ!!」


「悪いがそれはできない。だって、降ろしたら抵抗するだろ?」


 青年は商人の怖がっている様子を楽しむように笑い続けていた。


「反撃したら、殺してもいい! 頼む、頼むから!!」


 その言葉を聞き、数秒黙っていた。だが、俺はニタァ笑い、再び口を開いた。


「何か怪しい動きをしたら殺す」


「ああ、わかった! それでいい!!」


 俺はその返事を聞くと同時にナイフを首元から降ろした。


「......かかったなァ!」


 そう言って俺の頭を狙って拳銃を突きつける。


「そのナイフを捨てて、手を上げろォ! 」


 そうしなければ打つぞと言わんばかりに引き金の金具同士がぶつかる音が鳴る。

 俺は今まで見せていた笑顔を顔から消した。

 黙って言われた通り、手の中にあったククリナイフを闇夜の中に投げる。そして、両手をあげる。

 俺の一挙手一投足に合わせるかのように金具の音がなっているが、俺はそんなの御構い無しに行動する。


「そのまま後ろを向け!」


 すると後頭部に少しの衝撃と冷たい感触が生まれた。


「ふっ、はっはっはっはっはっ!」


 ここまで来て、自分の優位な立場に確信が持てたのか、笑い声が聞こえる。


「なぁ、今の気分はどうだ? 自分が押さえつけてた相手に自分が押さえつけられる気分はよォ!?」


 俺は何も答えなかった。


「なんとか言ってみろよォ!!」


 そういって拳銃をさらに強く後頭部に当ててくる。

 ここでようやく俺は口を開いた。


「相手にやってきたことは自分に必ず返ってくる」


 俺の言葉が意外だったのか、商人の動きが止まる。が、すぐに後ろから汚い笑い声が聞こえてきた。


「あ? そうだよな、そうだよなァ!? 今の思がそれを表してるかぁ!!」


 と、変なところで言葉が途切れ、鈍い音がした。

 だが、俺には聞き慣れた音だ。何が起こったかわかる。


「だから妙な動きを見せるなって言ったんだが、バカだなぁ」


 そう言って、振り返ると商人の後頭部にさっき投げたククリナイフが刺さって死んでいた。

 俺はその死体からナイフを引き抜き、血を払った。


「でも、こっちの方が血が飛ばないしいいかもな」


 そんな独り言を言いながら、暗闇へ向かった。

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ククリナイフ 飽き性な暇人 @himajin-akishou

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