ジェンガドミノばらばら殺人事件
ぎざ
時間軸 補完計画
俺は失念していた。
俺の名は髭宮 正午。警始庁捜査一課の刑事だ。
『キョウキの密室』事件が解決してから、すぐに鳴楼館に行くような描写をした後で、『「最高の祭り」殺人事件』を解いたような描写をしてしまったものだから、時系列的におかしいことになってしまった。
つまり、俺は『キョウキの密室』から鳴楼館に行こうと思ったけれど、急に事件の捜査要請がかかりUターンをして、『「最高の祭り」殺人事件』に向かった、と。
このように修正していかなければならない。
と、そういうことなので、俺が今から解く物語は、時系列的には『キョウキの密室』と『「最高の祭り」殺人事件』の間のことだと理解してもらいたい。
カクヨム神社なんてまだ行ったことも聞いたこともないね。なにそれ。
通報があった現場はボードゲームを作っているオフィスだった。
被害者の名前は
言葉がばらばらに並べられていても、思わず読んでしまう。
「無事」「幹部」「ロック」「最高」「備蓄」「巧まずして」というカードが並べられていた。
幹部や備蓄はわかるが、「巧まずして」ってなんじゃ。
いつもグーグル代わりに小早川を使っているが、この現場には小早川はまだ到着していないようだ。小早川の代わりに、同僚の件田が頭に包帯を巻いてやってきていたので、奴に聞いた。
「『巧まずして』と書いて、『たくまずして』と読む。意図していない形で、とか、偶然に、のような意味の言葉だ。そんな言葉も知らないのか?」
一言多いのが、奴の敗因だ。死因にならないことを祈ろう。
「被害者は死ぬ間際、しきりに『時間が……時間が無い……』とつぶやいていたそうだ。締め切りに追われていたんだな。締め切りというプレッシャーで人を殺す人も世の中にはいるらしいからな。そんなもの、破ってしまえばいいのに」
件田は他人事のようにそう言うが、案外近くにいるかもしれない。
俺は何も聞かなかったことにした。
「だが、その被害者の一言はある真実を表していたんだ」
件田は現場のホワイトボードに勝手に文字を書き加えていった。
おい、現場保存をしろって。
「現場に残されていたカードの言葉を全てひらがなにするんだ。すると、『ぶじかんぶろっくさいこうびちくたくまずして』となる。被害者が『時間がない』とつぶやいていたのだから、文字通りここから『じかん』を無くしてしまえばいい。するとどうだ。『じかん』と『ちくたく』、ついでに最初の『ぶ』も『無』いことにしてしまえば……」
『ぶじかんぶろっくさいこうびちくたくまずして』
↓
『ぶろっくさいこうびまずして』
↓
『ブロック最後尾まずして』
「となる! つまり、ドミノブロックの最後尾に何かあるってことだ!!」
件田は自らの推理通りに現場のドミノを荒らす。
当然、何も見つからない。
だから現場保存しろって。冴樹嬢に嫌われるぞ。
すっごいこじつけでよくこの中から文章を導き出したな。
ほーん。なるほどね。
しかし、ドミノの最後尾には何もなかった。
ということは、その読み方では間違いなのだろう。
俺は正当な手段と真っ当な推理方法でいつも推論を立てる。
まずは鑑識に現場の写真を見せてもらうことにした。
鑑識に見せてもらった写真は、さっきみたテーブルの上の状況と少し違っているようだ。
『無事』『幹部』の部分は帽子で隠れていて、最初の『無』の文字しか見えない。
『備蓄』の文字も、被害者の指で隠れていて『蓄』の文字しか読めなかった。
『巧まずして』のカードはジェンガのブロックで『巧』の文字が隠されていた。
そこでピンと来たのだ。
なるほどね。
件田よ。
ダイイングメッセージとは、誰でも読めないと意味が無いのだよ。
◆
「謎は全て解けましたよ。現場に残されていたカードを見てください」
俺はホワイトボードに『無事』『幹部』『ロック』『最高』『備蓄』『巧まずして』と書いていく。
現場保存しないと冴樹さんに怒られるぞ! と件田が何か言ってるが、全てあいつに罪をなすり付けるので問題ない。
「鑑識の写真を見てくれればすぐにわかるが、ところどころ文字が隠されているな。隠されていない文字をそのまま読むと、『無』『ロック』『最高』『蓄』『まずして』。続けて読むと、『ブロックさいこうちく、まずして』つまり、『ブロック再構築、まずして』と読めるんだ!!」
俺は熱血塾講師のように赤々とホワイトボードの該当箇所を丸く囲む。
テーブルの上でブロックを再構築するようなものと言えばなんだ?
ジェンガだ!!!
俺はテーブルに行き、積み上げられているジェンガをばらばらにした。
中に何か重要な手掛かりが…………。
…………。
ない。
中は空っぽだった。
そもそも、ジェンガの中に何か隠しておけるスペースなど無いに等しい。あれば横から見ればすぐにわかるのだから。
ちょうどその時、鑑識の冴樹嬢が到着したとの知らせを受けた。
やばい。
俺は自身の最高速度で、現場のばらばらになったジェンガを、現場写真を見ながら一分のすきもない完璧な形に再構築した。隣で件田も同じように乱れたドミノを現場写真のように並べて見せた。
その間、0.5秒。汗が流れる時間など無かった。
しかし俺の方が一枚うわてだった。ホワイトボードの隅にこっそりと「くだんだ」と文字を書き加えていたのだから。
件田は謂れのない(と言っても最初にホワイトボードに手を加えたのは自分なので、弁解の余地はない)疑いに悪戦苦闘すること必至。
俺は、さっき受けたカクヨム神社での殺人事件に向かおうと、すぐにこの現場を後にした。
Uターンにつぐ、Uターンだ。
事件が俺を待っている。時間に遅れてしまうのは忍びない。
俺は通報があったカクヨム神社に急いだ。
鳴楼館はまぁ……、まだ事件は起こってないみたいだし、何日か遅れても誰も文句は言わないだろう。
もし文句を言うくらいなら、初めから「いついつまでに来ること!」と締め切りを作っておいてほしいものだ。一応俺も刑事の端くれ。締め切りは守る。
ボードゲーム事務所で起きた事件は、カクヨム誕生祭が終わるころにひっそりと、容疑者が自首して幕を閉じたという。
まさか、「最高」と「最後尾」を掛けた事件なんて、そうそう起きないよなぁ。
なんて考えながら、俺はカクヨム神社へ急いだ。締め切りと、法定速度を守って。
完
ジェンガドミノばらばら殺人事件 ぎざ @gizazig
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