第7話 ミキ、十五才だと主張する
「女神さまに……会えるんですか?」
思いもよらぬ提案に思考が一度止まってしまった。だって、神様だよ? それって会える存在なの? あー、頭がこんがらがってきた。
「と、言われているだけなんだけどね。でも、会ったことがある、という人は確かにいるんだよ」
へぇ、そうなんだ。でもその言い方だと望みが薄そうだなぁ。とはいえ、両親がどうなったのか、私がなぜここにいるのかの疑問に答えてくれるのは女神さましかいないのは間違いなさそう。少ない可能性とはいえ、聞いてみる価値はあるはず。
「どうしたら、女神さまに会えるんですか?」
「お、乗ってくれたね」
「とりあえず聞いてみないとわからないじゃないですか。それに、可能性があるから提案したんでしょ?」
組長の言葉にそう返すと、驚いたような顔をされた。な、なに?
「ミキちゃんは、まだ幼いのにしっかりした考えをしてるんだなぁ……」
「幼いって……私、十五ですよ? そんなに幼くないです」
失礼な。ムッとして答えると、組長だけでなく、シュートさんやマコトまでええっ!? と大きな声で驚いたからこっちの方がビックリして肩を震わせた。何よー?
「う、嘘だ。それはいくらなんでも嘘でしょう!? こんなに小さくて細っこいのが十五なわけねーですっ」
「い、いやぁ、さすがに十五は……え、本当なのか? ミキ」
マコトは人のこと絶対に言えないからね!? でもシュートさんまで……ちょっとショックだ。この髪型がダメなのかな。でもポニーテールは普通だよね?
「……いくつだと思ってたんですか」
「いや、十才いくかいかないかくらいかと」
「七才くらいでしょう。むしろ、ここら辺に住んでる七才児の方がよほど大人びてやがりますからね?」
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃない!? 酷いっ! 確かに日本人は諸外国の人に比べて幼く見られがちだとはいえ、これは酷い。
「ええい、うるさいです! 誰がなんと言おうと私は十五才ですっ! 子ども扱いしすぎないでっ」
だからハッキリと言ってやった。子ども扱いに関しては、実際まだ子どもな部分があるのは認めるのでやめろとまでは言わなかった。自覚はあるのっ。
それに身体が小さくて細いのはずっと寝たきりだったから仕方ないの。食も細かったし、それが原因なだけだもん。健康な体でご飯もしっかり食べれば、これから一気に成長するはずなんだから。ふーんだ。
「ご、ごめんごめん。そうだよね、ミキちゃんは体が弱かったんだから小さいのも仕方ない。これからはちゃんと、十五のレディとして対応するから」
「……わかってくれるならいいです」
まだその反応に納得はいってないけど、話が進まないからそれで良しとする。シュートさんとマコトは後で覚えておいてよね!
「えーっと、女神さまに会う方法だったね。それを説明するには、まずザムラーがどういったものなのかを教える必要がある。ミキちゃんは、知らないだろう?」
「えっと、そうですね。何かを集める人、っていうのは聞きましたけど」
組長はこことは違う世界から来た私のために、知らないってことを前提に話を進めてくれるみたいだ。素直にありがたいよ。私もこれからは迂闊に知らないことを口走らない方がいいよね。さっきみたいに変な反応されちゃうもん。わからないことはこっそり調べるか、ここにいる事情を知ってる三人に聞くことにしよう。
「そう、ザムラーってのはマナストールを集める者たちのことだ。彼らの収集を手助けするために設立されたのがここ、ザムラー組合なんだよ」
そうだった、マナストールって言ってたっけ。シュートさんも同じことを言っていたよね。でもまず、マナストールっていうのは何なのか。
「ああ、マナストールがわからないか。簡単に言うと、宝玉だよ。半透明のキラキラ輝く丸い石。それがマナストール。その成分をいくら調べてもわからない、いまだに謎の多い石なんだ」
へぇ、宝石みたいなものかな? 成分がわからないって、なんて神秘的な。それをみんなが集めてるってことか。綺麗だから、ってわけじゃなさそうだけど……。
「マナストールの種類は全部で五つ。赤、青、黄、緑、白の五色。これを五つ集めて女神の祭壇に捧げると、女神さまから特別なギフトを与えられる、と言われているのさ」
「特別なギフト……女神さまから、ってことはもしかして」
組長の説明を聞いてハッと顔を上げると、ニヤリと笑う組長と目が合う。優男風なので悪い感じには見えないけど。
「そう。ミキちゃんも、マナストールを集めてみないか? そうして祭壇に捧げれば、女神さまに会えるかもしれないよ」
なるほど、ここに話が繋がるのね。えーっと、まとめると、私は自分がここに来た理由と、両親の元にいた私の亡骸がどうなったのかを知りたい。そのためには女神さまに会うしかない。そして会うためには、五つの宝玉を集めて祭壇に捧げなきゃいけないってことね。うん、よくわかった!
「組長……それを言い出す気はしてたがな、そう簡単にに言うな。ぬか喜びになるだろうが」
じゃあ集めます、と言おうとしたところで、シュートさんの不機嫌そうな声が組長に向けられた。組長よりよっぽど怖そうだ。ほんと、組長って呼び方どうにかならないかな? 私の中のイメージがどんどん崩れていく……。
「ぬか喜び?」
そんなことより言葉の内容の方を気にしないとね。シュートさんの言い方だと、集めるのは難しいって聞こえたから。でも、難しいのは覚悟してるよ? 手助けする組合まで出来るくらいなんだから、成功率が低そうだっていうのも、予想はつくし。
「ミキには悪いんだが……ここは自警団の一人としてしっかり伝える必要がある。無茶をさせて、危険にさらすわけにはいかないからな」
「危険なの……?」
私の小さな呟きを拾ったシュートさんが重々しく頷いた。う、そうかぁ。危険もあるのか。しかも、シュートさんの強張った表情からして、その危険さがただ事じゃないのが伝わるよ。
「成功例など、過去に一度聞いたことがあるだけだからな」
「えっ、そんなに成功率が低いの!?」
もはや幻じゃない、それ? 組長、詐欺ですか? チラッと組長を見ると、サッと目を逸らされた。むむ。
シュートさん曰く、マナストールを集める者たちは本来の仕事をしながら、趣味で夢を追っているような者たちなんだとか。宝探しをしているみたいなものだもんね。その過程で得た素材を売ったり、依頼を受けることで生活費を稼いでるから、むしろ宝探しの方がついでなんだって。
「見つけられればラッキー程度の活動をしてるのがほとんどで、本気で見つけてやろうと活動している者たちはごく僅か。それもかなりの実力者ばかりになる。そんなヤツらでも長年、最後の一つがどうしても見つけられないと苦戦しているんだぞ」
だからまだ子どもで、この世界のことをあまりわかっていない私に軽々しく勧めるな、とシュートさんは話を締め括った。なるほどねー。そりゃあシュートさんもそう言うわ。難易度が高すぎるもん。
けどね、それはそれ。これはこれだ。
「でも、そうしないと女神さまには会えないんでしょ?」
結局、私の望みを叶えるためには、そうするしか道はないってことだ。難易度のことなんか、組合の長である組長が知らないわけないもの。でもそれを提案したんだ。組合に加入させるためっていう打算もあるかもだけど。
「いくら可能性がほとんどないといっても、それしか道がないなら、やるよ。私」
どうせ、もう終わっていたはずの人生なんだもん。それどころか、自由に歩けて、話せて、走れるようにもなった。
両親の元から去ってしまうことになっていたら、それは本当に心苦しいし、見知らぬ世界に不安はあるけど……でも、この身体を与えてくれた女神さまには感謝してるんだ。ずっとずっとやりたくてもやれなかったことが、これから出来るかもしれないんだもの。本当は、胸がワクワクでいっぱいなのだ。パパやママは、白状ものだって怒るかな?
「目標があった方が、生きるのも楽しそうだし! 私、やってみたい組長! どうしたら私もザムラーになれるか教えてください!」
迷うことなんてない。やりたいと思ったことは、生きているうちにやらなきゃ損だから! それに、目標があった方が助かるし。だって、この世界で好きに生きろと言われてもどうしたらいいかわからないもん。
だから私はにっこり笑って組長にそう言い放った。
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