第3話 ミキ、少年と出会う
門番のシュートさんの後に続いて、私も一歩、町に足を踏み入れた。なんというか、日本の町とは別物な感じがする。
だって舗装はされているけど基本的に地面は学校のグラウンドみたいな砂で、コンクリートのようなものは見当たらない。建物も石やレンガ造りだ。グラウンドも、数えるほどしか実際に見てないけど。よくテレビで見た外国の町並みとか、アニメで見たことのあるような素朴な風景っていうのかな。こういう場所、本当にあるんだーってマジマジと見てしまう。
そしてもっと驚いたのが、カラフルな髪と瞳の色だ。道行く人たちが様々な色を持っていて本当に驚いた。緑や青い髪や瞳でものすごい違和感。むしろ黒髪黒目な私の方が浮いてそうな勢いだ。あ、同じ色合いの人もいる! どことなくホッ。シュートさんは金髪碧眼だからあまり違和感はなかったんだけど……そっか、死後の世界はカラフルだったんだ。新発見である。
「見えてきたぞ。あの建物がザムラー組合だ。俺たちは仕事柄そう呼称するが、みんなはギルドって呼んでる」
「ギルド……」
物語やゲームで聞いたことがあるかも。なんだか自分がファンタジー世界に迷い込んだような気分でよりワクワクする! 案外、本当にファンタジーな世界に転移してたりして。なーんてね。都合が良すぎるかー。軟弱な私がこんなに動けるわけないもんね。はぁ。
そうこうしている間に、ギルドの入り口に到着。シュートさんがまるで友達の家に入るかのように気軽にドアを開けて入っていく。私もドキドキしながらそれに続いた。
「よう、アリサ。組長いるか?」
「組長!?」
シュートさんはそのまま受付らしきカウンターまでズンズン向かい、そのままそこにいる桃色の髪の優しそうなお姉さんに声をかけた。でもその中の単語に驚いて聞き返しちゃった。
「ああ、気にしなくていいぞミキ。ここの組長とは酒飲み仲間だからよ」
「そ、そうですか」
たぶんだけど、組長っていうのはこのギルドのトップとか、そういう立場の人なんだろうことはわかった。でもほら、言葉の響き的に怖そうなイメージがあったからビックリしちゃったんだよね。え、怖い人じゃないよね? そっち系の人じゃないよね?
「もしかしてその子のことですか? 本当にシュートさんは面倒見がいいですね」
アリサ、と呼ばれた受付のお姉さんは、おっとりと微笑みながらそう言い、私に目を向けた。柔らかそうな髪もふんわりしていて、本当に優しそうな印象。そしてとっても美人さんだ。目元のホクロが大人っぽさを演出してる。こんな大人のお姉さんになりたかったなぁ。
「ミキさん、というのですか? 大丈夫ですよ。このシュートさんは、貴女のように困った人を見かけると無視できないお人好しなんです。自立出来そうだと判断するまで、世話を焼いてくれます。少々、お節介ですけどね」
「おいおい、一言余計じゃねぇか? まぁ否定は出来ないけどな」
アリサさんにそう紹介されたシュートさんは、金髪を手で掻き上げながら苦笑を浮かべた。そっか、やっぱりシュートさんはいい人なんだ。人からもそんな評判を聞くと信憑性が増すよね。声をかけてくれたのがこの人で良かった。
「ああ、組長でしたね。今はまだ手が空かないそうです。もう半刻ほど過ぎてから二階の組長室へ来てくれ、とのことです。そこの待合いソファで休憩してから行ってはどうでしょう」
「お、ありがとな。じゃあそうするわ。ミキ、こっちだ」
仕事が早いなぁ、アリサさん。クスクス笑いながらも連絡はちゃんとしてたんだ。いつの間に? 美人な上に仕事も出来るなんて憧れちゃう。
シュートさんがそのまま軽く手を上げてその場を去ろうとしたので、私は慌ててアリサさんにペコリと頭を下げてお礼を言った。顔を上げると驚いたようにこちらを見ていたアリサさんだったけど、すぐにニコリと微笑んで、困ったことがあったらなんでも言ってね、と優しい言葉をかけてくれた。親切!
「ミキはちゃんとお礼が言えるんだな」
シュートさんが私をソファへと座らせながら褒めてくれる。挨拶はしっかりと、って両親に言われていたからね。お世話になった看護師さんやお医者さんにいつもきちんとお礼を言っていたから、そういう癖がついているのだ。えへん。
「少し詰所の方に連絡を入れてくる。すぐ戻るから、ここで待っていてくれないか?」
「わかりました」
私のせいで仕事を中断してしまったからだよね、きっと。お仕事仲間に連絡を入れるのだろう。なんだか申し訳ないなぁ。
「いい子だな。何かあったら大声を出すんだぞ。まぁ、ここならアリサの目が届くから安全だと思うが」
でも、その子ども扱いはやっぱりやめてほしい。いくら天国への門番さんだからって。ぷくっとほっぺたを膨らませて抗議した。
「私、そんなに子どもじゃないですよ? 一人で待てます!」
「ははは、そうか。それはすまなかったな。じゃ、行ってくる」
その笑い方は絶対悪いと思ってない! 本当にいくつだと思われてるんだろう? 確かに私は同年代の子に比べて小さいし、病気だったせいで細いけど……でも、今の身体はこれでも私が絶好調だった時の体型と同じくらいだから、そんなに子どもっぽくは見えないと思うんだけどなぁ。白い肌だけど、青白くもないし。
あ、あの子くらいの年齢に見られているかも。ちょうど今、ギルドに入ってきた赤い髪の少年。何の気なしに目に飛び込んできたからそう思ったんだけど……その綺麗な容姿に思わず目を奪われてしまう。
赤、というかワインレッドと言った方が正しかったかも。とにかく綺麗なその髪は、カラフルな髪の人ばかりの中でも一際目立っているように思えた。他にもあの子を見てる人がいるから、ここでも目立つのかもしれない。そして、大きなアーモンド型の、青紫の瞳。つり目がちでキツそうな印象ではあるけど、とにかく綺麗。ずっと見ていたくなるような瞳だ。まるで宝石みたい。
でもなんか……不機嫌そうだ。眉間にシワが寄ってるし、目付きは鋭いし。目だけでキョロキョロとギルド内を見回しているのも何だか怖い。美少年なのに、もったいないなぁ。
何か、探してるのかな? 困ってたりするだろうか。シュートさんだったらきっと声をかけるだろうな。
「あの、何か困ってる?」
思い切って声をかけてみた。だって、困ってるなら助けになりたいもん。人生、助けてもらうばっかりで何も出来なかったから、死後の今くらい、やれることがあるならやりたいのだ。
「……」
声をかけられたことに気付いたのだろう、少年はその鋭い目を私に向けた。無言で。それから私の頭から足先までジロジロと眺めてくる。美少年に品定めされている……!? 顔が整ってるからか、妙に怖いんだけど!
「あの……?」
どうにも居心地が悪くてそう声を出すと、少年はそのまま何も言わずにふいっとそっぽ向いて立ち去ってしまった。な、なんなの? 今ジロジロと見てたのは何だったの? 私じゃ役に立てないと思ったの?
むむーう! 確かに私はチビだし細っこいし、何の役にも立たなそうだよ。実際、人の役に立てた覚えのない人生だったよ。でも、そんな態度はないじゃない? 断るにしても一言くらい言ったっていいのにっ。それに、こんな私でも人に優しくすることと、人の話を聞くこと。この二つだけは自信があるんだぞー?
「ま、待って、そこのボク!」
だから意地になって呼び止めてしまった。名前を知らないから、そこのボク、だなんて呼び方になっちゃったけど。すると、少年はそのままピタッと立ち止まった。あ、待ってくれた、と安心したのも束の間。
「だ、だ、誰がボクですか! 子ども扱いするんじゃねーですよ!! オレはもう十七ですっ!!」
顔を真っ赤にしてそう叫ばれてしまったから、驚いて動きが止まってしまった。え、あ、えっ!? 十七!? 私より、年上!? だって、どう見てもこの子は十才くらいでしょう? 大きく見積もっても十二才くらいだもん!
「って……あーーーーっ!! 嘘でしょうーーーっ!?」
驚きに脳内パニックになっていると、少年が再び叫んだのでさらにビックリ。そしてそのまま頭を抱えて蹲ってしまったものだからさらにさらにビックリだ。え? どうしたらいいの、この状況?
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