第4話 ミキ、組長に会う
ギルド内がシン……と静まり返った。みんなが彼に注目している。えー? 私、どうすればいいの? 悪いことはしてないよね? 心配になったから声をかけただけだし、ちょっと、その、引き止め方が失礼だったのは悪かったなって思ってるけど。
そんなことを考えながらオロオロしていると、少年は勢いよく顔を上げ、キッとこちらを睨みつけてきた。ひえっ。
「お、お前のせいで運命が決まっちまったじゃねーですか! なんで! よりにもよって! こんな何の取り柄もなさそうな子どもなんですかね!? いや、待てよ? もしかしたらものすごいポノフィグだったりするんですか? そうでしょう、そうに決まってますよねぇぇぇ!? じゃなきゃこのオレの同行者とは認めらんねーですからねっ!?」
「えっと、あの、え、えぇ……?」
ものすごい剣幕でなんだか色々と捲し立ててくる少年になすすべはなく、ただひたすらその勢いに圧されている私。なんなのぉ? シュートさぁん、アリサさぁん!
「おい、こら。女の子相手に何やってんだ小僧」
「シュートさん!」
内心のヘルプが届いたのかたまたまなのか、シュートさんが少年の後ろ襟ぐりを掴んで私から離してくれた。こ、怖かったぁ。しかし、少年の勢いは止まらない。矛先が私からシュートさんに変わりはしたけど。なんかすみません。
「誰が小僧ですかって! オレは十七だってんですよ!」
何度聞いても十七という発言に首を傾げてしまう。シュートさんの発言からみても、もっと幼く見えたのは私だけじゃなかったってことだね。
「ほー、だとしたら余計に大人気ない行動するな! ……って、お前、マコトか。
しるべ? 魔導師? シュートさん、この子を知ってるみたいだ。すると、マコトと呼ばれた少年はバッと掴まれていた手から逃れ、服装を整えながらシュートさんを睨み上げつつ口を開く。
「そうですよ。わかったなら気安く触らねーでもらえませんかねぇ? オレは今! この! 子どもの! 話を聞いてんですよ!」
どこまでも偉そうな少年だぁ。あと、私はそこまで子どもじゃないのに。
「え、と。話、とは?」
でも用があるというなら聞こうと思うよ。元々、話しかけたのはこっちだし。
「何か困ってそう、というか探し物でもしてるのかなって思ったから声をかけたんだけど……何かあったの?」
そう、それが全ての始まりだったんだよ。なのに突然叫び出すからー。
「探し物してましたよ。というか、品定めしてました。だというのに、それを台無しにしてくれやがったのがお前ですよ! どーしてくれんですか!」
「む、さっきから聞いてればー!」
なんだか段々ムカムカしてきたよ? こんなに偉そうな子、物語やテレビドラマにしかいないと思ってたけど、本当にいるんだ。言われっぱなしなのは嫌!
「心配して声をかけただけなのに! さっきから訳の分からないことばっかり! 文句を言うならちゃんと説明くらいしてよ!」
「なっ……!?」
言い返されるとは思ってなかったのか、少年は口をパクパクさせている。ふぅ、やっと黙ってくれた。私はこれ幸いとばかりに続けて叫ぶ。
「何か事情があるんだとしても、教えてくれなきゃ謝ることも出来ないよ。ねぇ、私が貴方に何をしたっていうの? たくさんの人の前で怒鳴りつけられたんだもの。私にはそれを聞く権利があるっ!」
スッキリしたぁ。よし、言いたいことは言えたぞ! ……それにしても、こんなに大きな声で叫んだのに、私の心臓は悲鳴も上げないし、咳き込むことさえない。なんて素晴らしいの……! 感動っ!
「あっはっは! ミキの言う通りだな! マコト、今回はお前さんがどう見ても悪いぜ。ちょうどいい。今から組長のとこにいく予定だったんだ。マコトも来い」
「なんっ……いや、いいでしょう。せっかくですから組長にも話を聞いてもらいます」
「お、やけに素直じゃねぇか」
「オレは大人ですからね!」
ほら、さっさと行きますよ、と赤い髪をサッと揺らしながらマコトは先に行ってしまった。なんで彼が主導権を握ってるんだろう。シュートさんが、小僧扱いしたことを根に持ってやがるな、と苦笑い。まぁ、子ども扱いされて嫌って気持ちは私にもわかる。でも、あの子はすぐにプンプンしすぎだと思う。そんなに怒ってばっかりで、疲れないのかな。
「ミキ、アイツはマコトって言ってな。ここらじゃ有名な魔導師なんだ」
「魔導師?」
マコトから少し距離を取ってついて行きながら、シュートさんが小声で教えてくれる。
「そう。ポノフィグが有能でな。持て囃されたり利用されたりで、結構色んな目に遭ってる。だからあんなに捻くれてるんだが……悪いヤツじゃないと思うんだ。あんまり関わったことはないから、実際はわかんねぇけど」
ポノフィグ……そういえば、さっきあの子も言ってたなぁ。何のことなんだろう。とりあえず、あの子が色々と良くない経験をしてきたっていうのは伝わった。そっか、だから刺々しいんだね。そう思えるシュートさんも本当にいい人だ。
「ま、話は聞いてやってくれ。それでどう返すかはミキ次第だけどな。性格は悪いが手は出さないヤツだ。そこは安心していい」
「わかりました」
とりあえず、事情くらいは知りたいから、話を聞くことに否やはない。むしろとことん聞いちゃうもんね。グッと両拳を握りしめていると、クスッとシュートさんが笑う。
「それにしても、見事な啖呵だったなぁ。大人しい子かと思ってたが……ミキ、お前さんなかなかやるな」
「そうですか? 思ったことを言っただけですよ?」
「……考え方がマコトよりずっと大人だな」
アイツには言えねぇけど、とシュートさんは呟く。あぁ、また自分を子ども扱いするなって怒りそうだもんね。ぜひ、黙っていてくださいね!
「組長、シュートです」
ギルド内にある階段を上り、二階の廊下を歩いて突き当たりにあるドアの前で、シュートさんはノックの後にそう声をかけた。どうやらここが組長室らしい。何度聞いても組長っていう言葉の響きに慣れない。どうしよう、サングラスをかけた傷だらけの厳つい人が出てきたら。内心で少しビクビクとしたけど、まぁ一度死んでるし、と思えば何も怖くない気がしてきた。気が大きくなってるなぁ、私。
「ああ、入ってくれ」
すると、部屋の中から穏やかな男の人の声。声だけなら優しそうだなぁ、そう思いながらシュートさんに続いて部屋に入った。マコト? シュートさんより先に入って行ったよ。この子の神経もだいぶ図太い。
「待たせて悪かったね。ん? マコトくんじゃないか。私が聞いていたのはシュートと女の子だったはずだけど……もしやそれがマコトくん?」
「オレは! 男です!!」
部屋に入ると早速、組長と思しき人が声をかけてくれた。眼鏡をかけたひょろっとしたおじさん、というのが第一印象だ。声も見た目も優しそうな雰囲気でホッとしたよ。……グレーの髪があちこちはねてて、服装もダラっとしてて……ちょこっとだけ、だらしない、かな? 仕事が忙しいのかもしれない。
「ははは、そうだよねー。女の子みたいだけど男の子だもんね。知ってるよ」
「組長っ!」
あー、でも油断はならなそうな、曲者感があるかも。マコトが手の上で転がされている感じがあるもん。知り合いっぽいなぁ。
「組長、こっちがミキだ。あんまりマコトで遊ぶなよ」
「ごめんごめん。気付いてたよ。だってマコトくんはいちいち反応してくれるから面白くって」
「人で遊ぶんじゃねーですよ!」
なんというか余裕のある大人って感じだ。あと遊び人っぽい雰囲気。でも嫌な感じはないなぁ、お茶目な人なのかも? いじられる側からすると迷惑なのかもしれないけど。ぼんやり考えごとをしていると、組長がスッとこちらに顔を向けた。私は反射的に姿勢を正す。
「ミキちゃんだね。初めまして。私はこのザムラー組合ココラ支部の組長、ミトだ。君は迷子なんだって?」
組長はそう言いながら手を差し出してくれた。……けど、組長のその緑の目を見ていたら、何だか全てを見透かされたかのような気分になって、私はブルリと身体を震わせてしまった。
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