05 レンには魔道士より向いている職業があると思う

 コイロノ山麓の農村地帯に出没し、農作物や家畜に被害をもたらすモンスター達。


 それらを食──じゃなかった、討伐するための算段はついた。


 この集落の長であるマクワさんを混じえて作戦を練り、さっそく今晩罠を張って敵をおびき寄せることになったのだ。




 最初のターゲットはデーオス。

 食欲旺盛なデーオスは、葉菜類が大好物だそうで、強い警戒心を抱きつつも罠に近寄ってくるだろうとのこと。

 そこで、逃げ足の速いそいつをレンが予め仕掛けておいた魔法陣で絡め取り、足を封じたところを討つという作戦だ。


 大型で力の強いイノラには、好物の子牛を囮にしてその周囲に深い溝を掘り、イノラがはまったところを俺やリーナが斬りつける。


 そして、集団で田畑を荒らすギリザモンについては罠を仕掛けるのが困難なため、出没したら尾行して奴らのねぐらを突き止め、昼間のうちにそこを攻撃するのが効果的だという結論に至った。


 というわけで、マクワさんや集落の人達にも手伝ってもらい、日没までにデーオスとイノラのための罠を仕掛けることになった。



 ☆



 俺とリーナがマクワさん達と溝を掘っていると、「オホンッ! オホ、オホッ」と妙な咳払いが聞こえてきた。

 見ると、少し離れたところでレンがこちらをチラ見しながら、地面の上に新聞紙大の紙を広げている。


 そう言えば、一流魔道士を自称するあいつの魔法を俺はまだまともに見たことがない。

 一体どんな風に魔法陣を描くのだろうと興味が湧き、俺は掘りかけの溝から出てレンに歩み寄った。


「なあ、レン。魔法陣ってどんな風に仕掛けるんだ?」


「おや、一流魔道士の僕の腕前を見たいのかい? そんなに言うなら仕方ないなあ、駆け出しで素人同然の君の後学のために、特別に見せてあげてもいいけど」


「こっちの気を引こうとしてたのはお前の方じゃねえか。ムカつくからやっぱいいや」


「ちょ、ちょっと待てよ、ユウト! 君が見たのはこれだろ? 我がルシュデミカ社オリジナル “誰でも簡単・魔法陣テンプレート” っ」


 くるりと背を向けた俺に向かって、レンが大声で呼び止める。


「超簡単なテンプレート?」


 どうしてもそれを見せびらかしたいらしいレンの思惑に敢えてのってやると、奴は嬉しそうにこくこくと頷いた。


「そうっ。これがあれば、複雑な魔法式を詠唱で表現する必要がないんだ。テンプレートの決められた枠内に必要最低限の魔法文字を書き込めば、あっという間に魔法陣が完成するのさ。ほら、こんな風に」


 そう説明するレンが取り出したのは、一本の羽根ペン。


「ちなみに、これもうちの家で扱ってる商品なんだ。この羽根ペンで魔法文字を書くと、魔力が三割増しになる」


 広げた紙にあらかじめ印刷されている魔法陣に、レンが奇妙な記号を書き加えていく。

 最後の一文字を書き入れると、赤いインクがにわかに光を帯び、完成した魔法陣が紙の上に浮かび上がった。


「タンプリング」


 レンがそう唱えながら魔法陣の抜け出た紙を引き抜くと、浮かび上がった魔法陣はルビーのように赤い輝きを放ちながら三メートルほどの円に拡がった。

 それからゆっくりと地面に落ち、あたかも土の上にプリントされたかのようになった。


「へええ……これが魔法陣かあ。生まれて初めて本物を見た」


 足元に広がる魔法陣を見回しながら感嘆の声を漏らすと、レンがイケメンのくせに妙にムカつくドヤ顔をして胸を張る。


「どうだい、この美しさは芸術品そのものだろう? モンスターの放つ魔気を察知して発動し、モンスターを魔法陣の内に閉じ込めるという効果を与えたのさ。普通ならば魔法陣を作り出すためにはクソ長い詠唱をマスターしなくちゃいけないんだけど、この “誰でも簡単・魔法陣テンプレート” と “パワーアップ羽根ペン” があれば、完璧な魔法陣がこんなに簡単にできちゃうんだ」


「どこぞの猫型ロボットのひみつ道具みたいなネーミングだが、確かにすごく便利そうな商品だな」


「一流魔道士の僕がパーティメンバーに加わってやったことに改めて感謝するんだな!」


「いや、これは道具がすごいんであって、お前の実力はほとんど関係ないだろ!?」


 一流魔道士なら、便利な道具なんかに頼らず、クッソ長い詠唱をスラスラ唱えて魔法陣を出せるはずじゃないのか。


 さっきのデモンストレーションは結構上手くやってたし、こいつは魔道士よりもテレビショッピングの実演販売の方が向いてる気がするよな。

「これだけの機能がついて、お値段なんとっ!」みたいなノリでさ。

 無駄にイケメンだから、画面映えはするだろうし、お茶の間の主婦に結構人気出るんじゃないだろうか。


 そんなことを考えていると、ガラガラと車輪の回る音が耳に入ってきた。

 マクワさんちから荷車を借りて出かけていったおかんが戻ってきたのだ。


「集落を歩き回って、色んな道具をぎょうさん借りてきたでー!」


「おかん、お疲れ!」


 荷車に積んだものを運ぼうと歩み寄ると、荷台には大鍋がいくつも載せられていて、他にも出刃包丁やら大きなまな板やらが積まれている。


「狩りの準備は進んどるか? こっちは準備万端やで!」


「ああ、間もなく罠も完成だ。日没に間に合ってよかったよ」


 こうしてクエストとその後のグルメパーティの準備は着々と進み、夜が更ける頃、俺達は罠のすぐ傍にある納屋に身を潜め、モンスターの来襲を待ち構えたのだった。


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異世界ライフ with おかん ~俺のチートアイテムは、まさかの『うちのおかん』だった~ 侘助ヒマリ @ohisamatohimawari

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