04 サムライの修行にも息抜きは必要だ

「さあ、新たなるグルメパーテーへ、レッツらゴーや!」


〈金の謝恩日〉の朝。

 俺、おかん、リーナ、レンの四人のパーティは、ギルドから内々に紹介を受けたモンスター狩りのクエストを遂行すべく、パウバルマリの村を出た。


 行き先は、この村から東に馬車で半日ほど行った場所にあるコイロノ連山。

 最近その連山から多くのモンスターが人里へ下りてきては、畑を荒らしたり家畜を襲ったりするという。

 山麓には、村とも呼べないような小さな集落が点在しているそうだが、やはりその辺りも魔王城移転の影響を受けているということなのだろうか。


 人里への出没が確認されているモンスターは三種類。


 リーナの見立てでは、人里でおいしい思いをしたモンスターは山奥へは戻らずに里の周辺に潜んでいるだろうから、見つけるのはさほど困難ではないはず、クエストは二日ほどで遂行できるだろうとのことだった。




「──というわけで、一旦解散! 後で現地で落ち合おう」


「ええっ!? ちょっと待ってよ、リーナ! “最強のパーティメンバーかっこユウトを除くかっこ閉じ” がせっかく集結したってのに、いきなり解散ってどういうこと!?」


「今回もお前はに乗っていくんだろう? 私は例によって乗り合い馬車でコイロノ連山へ向かうつもりだ」


 ゴテゴテと派手な成金馬車を前に踵を返したリーナを引き留めようと慌てるレンだが、もちろんリーナも俺もそんな悪趣味な馬車で移動するつもりはない。


 ってか、カッコ内の本音をわざわざ口に出すような奴の馬車になんて、頼まれたって乗るつもりはないけどな!



 もっとも、クエストとはモンスター料理を楽しむ遠足であるという位置づけのおかんは、乗り心地快適なレンの成金馬車に今回も乗せてもらう気満々のようだ。




 そんなわけで、俺達パーティは集合して早々に二手に分かれ、現地へ向かうことになったのだった。



 ☆



「ユウト、毎回私に付き合ってもらってすまないな。本当はユウトもレンの馬車で快適に移動したいんじゃないのか?」


 コイロノ方面へ向かう乗り合い馬車に揺られながら、リーナが気遣わしげに俺を見上げる。


 前回のクエストで乗ったドゥブルフツカ行きの馬車は、目的地がフルーツ狩りで人気の観光地ということもあり満員だった。

 しかし、コイロノ方面行きのこの馬車は、片田舎に用事のある人は少ないのか、乗客もまばらだ。


 村を出て程なくすると悪路となり、サスペンションの悪い乗り合い馬車では尻が痛くなってくるし、同じ半日でも自動車での移動なんかよりずっと疲労が溜まる。


 それでも俺は他意のない笑みをリーナに見せて答えた。


「俺にとっては、クエストの一つ一つが、魔王と戦うための経験と資格を得るための修行なんだ。移動だって修行のうち。多少の困難や苦労を感じながらの方が気が引き締まるってもんさ」


「そうか……。さすがはニホンから来た救世主だ。移動の段階からすでに修行とみなして精神を鍛えているとは」


 リーナが翡翠色の瞳に尊敬の念を込めて見つめてくる。


「ま、まあ、日本はサムライの国だからな……っ(?)」


 急に照れくさくなって訳の分からない返しをしてしまったが、リーナはそれを追及することなく、ごそごそと膝にのせたリュックの中を探り出した。


「そういえば、おばあちゃんが道中のおやつにと、乾燥モーカを練り込んだクッキーを持たせてくれたのだ。オカンさんには悪いが、先にこっそり食べてしまおう」


 凛とした美貌にいたずらっぽい笑みをのせたリーナが、クッキーの覗いた紙包みを両手にのせて差し出してくる。


 移動も修行のうちだと言ったばかりできまりが悪いが、リーナのそんな愛らしい笑顔を前にすると、二人きりの移動も悪くないなと思ってしまう。


「……まあ、修行にも息抜きは必要だよな、うん」


 頬をかきかきそう言い訳すると、俺はリーナの差し出した紙包みに手を伸ばした。



 ☆



 俺達に宿を提供してくれるのは、コイノロ山麓で農業を営むマクワさんだ。


 マクワさんが長を務める集落は、山麓に点在する集落の中でもモンスターによる被害が大きいそうで、つい一昨日もイノラという大型のモンスターに子牛が襲われたばかりだという。


 悪目立ちする成金馬車が停まっているのを目印にマクワさんの家を訪ね、先に到着していたレンとおかんと合流。


 初老のマクワさんご夫妻にシビ茶と菓子で歓待を受けつつ、早速モンスター狩りの作戦を練り始めた。


「討伐対象のモンスターは、群れで現れるギリザモン、大型で凶暴なイノラ、それから警戒心が強く食欲旺盛なデーオスの三種で間違いないですね、マクワさん」


「はい。いずれも現れるのは夜間が多いのですが、ギリザモンは白昼堂々と集団で野菜を強奪にくることもあります。イノラは単独行動ですが何しろ攻撃性が高く、農夫ではとても太刀打ちできません。デーオスは比較的大人しいモンスターですが、逃げ足が速く、追い払ってもしつこくやってきては畑を荒らすので手を焼いているんです」


 シビ茶をすすりながら、俺達四人はマクワさんの話を聞いた。


 なるほど、人里に被害を及ぼすモンスターにも、色々な特徴があるんだな。


 話を聞いた上で想像するに、ギリザモンは猿、イノラは熊、デーオスは鹿に近い気がする。


 まあ、ここは異世界だし、相手はモンスターだし、実物はもっと不気味だったり凶暴だったりするんだろうけど。




 未知のモンスターの姿を頭の中に思い描き、それぞれの狩りの仕方をイメージしようとする俺。


 その時、俺の横で、じゅるりとヨダレをすする音がした。


「いっちゃん食いでがありそうなんはイノラやな! けど、逃げ足の速いデーオスは脂身が少なくて引き締まった赤身の肉質が美味そうや。ギリザモンっちゅうのは小型そうやけど、数がおればそれなりに満足感のある食い方ができるやろなあ」




 我がパーティの大賢者であるおかんの頭の中は、狩りの仕方ではなく、すでに調理方法についての作戦でいっぱいになっているらしかった。




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