第19話 戦争とは効率である

作戦の骨子は決定したので、あとは動き出すだけである。


杉花粉の飛散をシミュレーションする班はサガミくんがやるだろう。


杉害虫を集め、杉を枯らすウイルスを開発する班は必然的にミナトさん。


杉を弱らせる農薬を改良する班は引き続きクロキくん。


杉害虫と杉ウイルスを運搬するドローンの仕様を検討する班はトオノくんが中心になる。


組織の理念と資金を提供するリーダーはヒマリが努める。


しかしこうしてメンバーを並べてみると、ほんと危ないスキルを持った連中が集まってるな

まるでテロリストだ。


「と、なると俺の仕事は…?」


組織が動き出せばお役ごめんで自由の身かも、などと一瞬思ったのだが甘かった。

むんずと襟首をつかまれて


「ソウタさんはマネジメントよ!幹部なんだから!」


と、テロリストの頭目は仰るのだ。


マネジメント。カタカナにすると格好良く響くが、小さな組織におけるマネジメントは、ともすると全体のサポートであり体の良い雑用係と勘違いされる向きもある。

しかし、せっかく経済学部で学んだわけなので少しは前向きで理屈っぽくマネジメントに取り組みたいところではある。

わかりやすく言い換えると、ミナトさんにいいところを見せたい。


「と、なるとマネジメント担当としてはスケジュールを立てたいね」


「杉絶滅のスケジュール?できるだけ早くよ!」


などとテロ集団の親玉兼スポンサー様は無理を言うのだが。


「まあ、そうなんだけど。例えば作戦の実施前にテストはしたいだろ?ぶっつけ本番で失敗して、怪しい薬品とウイルスを積んだドローンが人家にあるところに墜落したあげくに警察にでも届けられたら目も当てられない」


「…それはイヤね。革命とゲリラは警察に見つからないようにしないと」


何よりも避けたい事態は事件化と犯人が発覚することである。

実行リスクを最小化するためには、時間をかけて作戦を練り上げ準備を怠らないことしかない。


「つまり少なくとも杉ウイルスを撒くドローンのテストは必須なわけだ。それも人目がつかないところがいい。たぶん最初は屋内でテストして、それから屋外でもテストすることになる。雨とか風とか気象条件を変える必要もあるんじゃないか?」


「全天候テストっすね。それは必要っす」


「作戦地域と似た植生のテスト地域が必要になりマス。そこはシミュレーションの結果次第デス」


「ウイルスちゃんと虫ちゃんが外でどのくらい生存できるのか、それはテストしたいわね」


「風速と農薬の散布の関係もシミュレーションしたいです」


理系連中からは実験したい、との強い要望が上がってくる。

ものは作っただけでは思い通りに動かない、という体験が身にしみているのだろう。

マネジメントの仕事とは、そうした現場の感覚を経営の言葉に直して経営者に伝えることである、と教授は講義で言っていた気がする。


「…と、いうわけで少なくともテストの日程と場所と環境設定は目標として決めないといけない」


「そうなるわね」


ヒマリがうなずいたので、とりあえずマネジメントは機能していると言ってもいいだろう。


「あとは費用だね。動き出すとなると物品の購入も必要だろうし、足のつかないものをとなると時間がかかることもあるだろうし」


「予算ね。そこは大事ね」


もう一つ、マネジメントとしては導入したい概念がある。


「ヒマリがどこまで金持ちかは知らないけど、わりとお金はかかるはずだし無駄にはできないよね。俺としては指標が必要だと思うんだ」


「指標?」


指標。キーパフォーマンスインディケーターとかケーピーアイとか呼ばれるやつだ。

でも英語が嫌いだから指標と呼ぶ。


「そう。1円あたりどれだけ杉花粉を減らせるか。杉花粉減少/円レート。略してSGY。単位時間あたりの減少を重視するならSGT。TはTimeの略」


「それくらいわかるわよ! うーん。でもそうね、指標はいいアイディアだわ。さすが経済学部!」


「ヒマリもそうでしょ。まあ、授業でというよりは教授が上げてた参考文献に載ってた話なんだけど」


お金は大事。だけど投資はもっと大事。

戦争とは人をどれだけ効率よく殺すかを競う実験だ、という言い方を歴史の教師が高校の時に話していた覚えがあるが、その意味で杉花粉絶滅戦争の遂行にあたっては、SZZ団はできるだけ効率よく札束を燃やしつつ杉を枯らさなければならないのだから。


※時節柄、ウイルスを用いた作戦が不味そうなのでコロナがひと段落するまで停止します

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杉花粉絶滅作戦 ダイスケ @boukenshaparty1

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