【16-9】手違い 3

【第16章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (16章修正)

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 ノーアトゥーン郊外の名もなき砦・B――反乱軍に討伐軍、そして帝国軍まで入り乱れた戦闘も終わりを迎えようとしていた。


 黒鳶色とびいろの髪の青年は、ふらふらと戦場を彷徨さまようばかりになった。


 これまで、ミーミルが演出してきた数多の戦場――勝利の裏には、帝国軍の将兵軍馬によるこのような惨状が広がっていたことだろう。


 「救国の英雄」だの「神の如き用兵」だの――彼の大仰な枕詞まくらことばは、帝国将兵たちの屍山血河しざんけつがの上に築かれてきたものだ。


 周囲がはやし立てるなか、ミーミルは冷静だった。むしろ、妙に冷めた視線で自身を見つめていた。神であれば自身の選択を悔やむようなことはなかろうに、と。


 時に対立し、時に認め合った勇敢な将軍たち。

 

 時に行動を共にし、親しんでくれた若き将校たち。


 総司令官の兵馬の進退の甘さにより、それら多くの者たちが命を落としていった。


 彼らを愛していた家族たちの悲哀は、遺体すらなき墓場に向けるほかなくなった。


 だが、遺族の慟哭どうこくは、帝国とて同じであろう――。



【13-21】悲報

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【13-24】後備え 下

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【14-10】風花 上

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【11-11】maidin mhaith cutie ①

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 名声の虚しさ、采配の腑甲斐なさ、軍人としての業の深さ――。


 それらもまた、ミーミルが湖畔の邸宅から立ち上がることを、最後まで躊躇させたのだった。




 爆風に煽られながらの行く宛なき徘徊も、終焉しゅうえんが訪れた。崖によって、行く手を阻まれたからである。



 ――もう、疲れた。

 退役大将は小さくため息をつくと、感覚の残る非利き手左手で、ホルスターから拳銃を抜いた。


 そして、焦げ茶色の側頭部に、ゆっくりと銃口をあてた。



 ところが、トリガーに最後の力を注ごうとした刹那せつなのことである。ミーミルは身体ごと再び跳ね飛ばされた。今度は砲弾の風圧ではない何かに――。



 黒鳶色の髪を揺らし、奈落の底へ落ちていくミーミル――その黒ずんだ瞳は、崖の淵で敬礼をする副司令官をとらえていた。彼は泣いていた。


 どうやら、スカルド=ローズルは、総司令官を崖下に突き飛ばしたようだった。


「どうか、どうか、落ち延びてくださ……」

 副司令官の慟哭どうこくは、総司令官には最後まで届かなかった。彼は敬礼したまま爆風に消し飛んでいった。






【作者からのお願い】

「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533


宜しくお願い致します。



「航跡」第1部は、あと少しだけ続いていきます。


ミーミルにいままで本当にお疲れ様でした、と伝えたい方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「手違い 4」お楽しみに。


「……いま試射している砲弾はどこのヤツだ」


「ルクタ社製のN32号です」

副官のキイルタ=トラフはファイルを紐解き、上官の質問に即座に応じる。


馬上の紅毛の青年参謀は舌打ちすると、焼き菓子で眼下を指して口を開く。

「不発弾が多すぎる。こんな不良品しか造れんようじゃ、うちでは採用せんと担当者に伝えとけ」


トラフは感情薄い表情のままうなずくと、ルクタ社の資料に大きく✖印をつけた。

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