素晴らしき名作でもあり、とんでもない問題作でもある。

主人公は敬虔な牧師です。
しかし、日本から来たという『妖狐』と出会うことにより、彼は変わってしまいます。

愛する妻がいながら、美しい妖狐に心を奪われてしまう主人公。
甘い言葉にそそのかされるように、彼は禁忌を犯します。

異種の者と交わる背徳感。
罪悪感を抱えながらも、沸き上がる欲望を持て余した彼は妖狐との関係を繰り返してしまいます。
そして、ついには取り返しのつかない禁忌へと手を染めてしまいます。

それらの一連の展開は流れるように自然で、その場面を目撃しているかのような迫力があります。
物語の設定はドロドロしているように思いますが、作者の筆力ゆえに、背徳感・欲望・葛藤でさえ美しく表現されています。

とくに妖狐の裸体の描写は肉感的で美しく、その妖艶さは芸術的ですらあるほどです。また、鍾乳洞内の地底湖や、妖狐の瞳など、細部の描写ひとつひとつも美しいです。


構成力も目を見張るものがあります。
冒頭に言及のあったソドムが物語の後半にも出てきて、この作品が旧約聖書をベースとして書かれていることを改めて思い出すシーンでは、ハッとさせられます。

主人公は最後に『とある選択』をしますが、それは彼が敬虔な聖職者であったからこそ。
ただの肉欲に溺れる者ではなく、彼が敬虔であるからこそのクライマックスは、とても皮肉に感じました。

興味を引く題材、最後まで読ませる筆力、そして皮肉の効いた展開。
どれをとっても素晴らしいです。
「これはまさしく名作だ……」と思い、手に汗を握りながらじっくりと読み進めました。

しかし、とある部分に書かれた文字に目を疑いました。
例えていうなら、そう――『ちくわ大明神』のような唐突さがそこには存在していました。
なぜ、よりによって『ここ』に『これ』を持ってきたのか。
物語を読み終えたあと、私はしばらく呆然としてしまいました。
どうしてこうなった?


繰り返しますが、この作品は間違いなく『名作』です。
そして同時に、とんでもない『問題作』でもあるのです。

みなさんはどう感じるでしょうか。
気になったそこのあなた! ぜひお試しください!

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