第200話「ご主人様とチート嫁による『双子島バカンス大作戦』(後編)」

 僕はセシルたち『意識共有マインドリンケージ・改』で事情を伝えた。


 ついでに『そっちの島にも妖精がいるはず。見つけたら話をしてみて』と言っておいた。


 セシルからは『わかりました。リタさんとラフィリアさんが「話をつける」とおっしゃってます』って返信があった。メッセージには、セシルの知る妖精の情報も付け加えてあった。


 妖精はめったに姿を現さない希少種きしょうしゅで、魔法に長けている。身体が小さく、体力もないことから、他の強い種族の加護を受けることで身の安全を図ってきた。地竜の加護を受けていたのもそういう理由からだろう、って。


 よそ者には厳しいけど、友だちになったら裏切ることはない。


 そういう義理堅い種族だって、セシルのメッセージには書いてあった。


「とりあえず『問題が解決したら、その後は僕たちの邪魔をしない』ってことでいいかな」


「わかったー」


 僕と妖精レーンは、そんな約束を交わした。


 僕たちが敵じゃないことがわかったのか、彼女の表情も柔らかくなってる。


「……あなたたちは悪くないのに、きついこと言ってごめんなさい」


「わかってくれればいいよ」


「でも姉と会えない状態で、あなたたちがいちゃいちゃするのを見るのはつらいから、邪魔する」


「そこは妥協だきょうしないんだ……」


「妖精は、言ったことは守ることにしているから。嘘は、つけないから」


 融通ゆうずうのきかない種族のようだった。


 そういえば地竜と僕たちの関係について話すのを忘れてた。


 ……まぁいいか。問題を解決してからにしよう。


「というわけだけど、みんな、手伝ってくれる?」


 僕はアイネ、イリス、カトラスに聞いた。


「もちろんなの。お姉ちゃんは、こんな障害に負けないの」


「イリスは全力で問題解決いたします。時間を無駄にはできません」


「困ってる方がいるなら、ボクが手を貸すのは当然でありますよ」


 3人とも、やる気になっていた。


 僕たちは妖精レーンの案内で、島の洞窟どうくつに向かった。


 行き止まりでレーンが呪文を唱えると、その先に通路が現れた。


「この呪文がなければ入れないはずなのに……どうしてスライムなんかが来たのかしら……」


「どこかで呪文が漏れたんじゃないかな?」


 僕だって『意識共有マインドリンケージ・改』でメモって、セシルに送ってあるし。


「発音が特殊だからねー。ここを開けるのは、魔法にけた種族だけよ」


「それなら安心だ」


 閉じ込められたらセシルとラフィリアに来てもらおう。


 僕たちは通路に入り、歩き出した。


「この通路は、隣の島につながっているの」


 宙に浮かびながら、妖精レーンはつぶやいた。


「昔は、愛を交わしに来た古代エルフが使っていたの。誰にも見られずに、隣の島に行けるから、夜にこっそり会うにはちょうどいいものねー」


「なるほど」


 僕はうなずいた。


 なぜか後ろで、「びくっ」って気配がした。


「だけど今は、巨大スライムが通路をふさいでる?」


「そう」


「そのスライムがどこから来たのか、心当たりは?」


「わかんない。私、ずっと眠ってたんだもん」


 妖精はまゆをつくり、地面の下で眠るらしい。


 だから、眠っていた間のことはわからない。


 彼女が目覚めてからは、この通路を開けた者はいないそうだ。


「まずは僕が行って見てみるよ」


 僕はみんなに告げた。


「相手がスライムなら、レギィの『溶液生物支配スライムブリンガー』で話ができるからね。イリスは念のため、ここで退路を確保しておいて。カトラスはその護衛。アイネは僕と一緒に来てくれるかな」


「了解いたしました」「わかったであります」「うん。ついてくの」


 僕たちは入り口で2手に分かれた。


「それにしてもすごいな……古代エルフの技術って」


 石造りの通路は、表面がほのかに発光してる。


 古代エルフがほろんだ今も問題なく稼働してるようだ。もちろん、あちこち苔が生えたりはしてるけど。


「シロちゃんを拾った『きりの谷』も、古代エルフと魔族が作ったんだものね」


「それだけの技術があったのに……滅んだんだよな」


 僕とアイネは顔を見合わせた。


 ふたりの間を飛び回りながら、妖精レーンは、


「私の記憶によると、古代エルフはすごい心配性の種族だったかなー。あらゆる危機を予測して、それこそ寝ないで対策を立ててたそうよ。この島も、星がよく見えるから領地にしたらしいよー」


「『星を読む』だっけ。そんなので未来がわかるのか?」


「私は動きを古代エルフに報告していただけ。読み方なんてわかんない」


 妖精レーンは、ぷくー、っとほっぺたを膨らませた。


「確かに、未来なんかわかるわけないよな」


「ほんとにわかるのなら、古代エルフは自分たちの滅びも回避できたはずなの」


 だよね。


 結局、古代エルフは滅んだ。


 レプリカのラフィリアと、その姉妹を残して歴史から消えていった。


 ブラック労働上等の種族だったらしいけど、なんでそんなに心配ばかりしてたんだろう。


「──しっ。この先にいるわ」


 曲がり角に来たところで、レーンが唇に指を当てた。


 僕たちは足を止めた。


「レギィ。角の向こうにスライムがいる。いけるか?」


『むろんじゃ。発動──「溶液生物支配スライムブリンガー」』


 魔剣状態のレギィはスキルを起動した。


 


『────ずもも。もももももももも』




 通路の向こうで、なにかが震える音がした。


「どう? レギィ。話はできそう?」


『……いや。この先にいるスライムは、心を閉ざしておる』


「心を?」


『我の「溶液生物支配スライムブリンガー」をレジストしておるのじゃよ』


「となると古代エルフの使い魔──『エルダースライム』か?」


『あるいは、同等の力を持つ者。されど心を持たぬ道具であろうな』




『エルダースライム』は高い知能を持つ、人造の魔物だ。


 以前、港町にある僕の家に居座ってたのを、話し合って出て行ってもらったことがある。そのときは魔力源として、ラフィリアの汗が必要だったけど。


 でも、レギィの『溶液生物支配』で会話できないとなると……別種と考えた方がよさそうだな。




『……ずも。ずもももももも』




 巨大スライムは、角の向こうの通路をふさいでいた。


 身体は紫色。動きは、まったくない。


 身体を触手みたいに伸ばして、上下左右の壁に張り付いてる。




「あの通路の下に、私とお姉さまが触れ合うための部屋があるのー」


 妖精のレーンは言った。


「ここに居座られたら、私たちは使命を果たすことができない……子どもを増やすことも」


「レギィ、質問」


『なんじゃ。主さま』


「あのスライムを『エルダースライム』と同じやり方で追い払えると思うか?」


『無理じゃろうな』


「というと?」


『奴からは意思をまったく感じぬ。仮にエルフ娘の下着を与えたとしても、らうことすらせぬじゃろう』


「ただの障害物って感じか」


『誰かがここに捨てたのかもしれぬな』


「迷惑な話だね」


『まったくじゃ』


「まったくなの」


 僕とレギィとアイネはうなずきあう。


 それから、僕はセシルにメッセージを送った。


 向こうのみんなは、やっと妖精さんを見つけたところだった。これから洞窟に向かうところだそうだ。


 僕は「洞窟にはまだ入らないで」と伝えておいた。




『エルダースライム』は強い。


 イルガファの家に居着いていたあいつも強かった。『溶液生物支配スライムブリンガー』は通じないくらいの抵抗力を持ってた。暴れれば家を揺らすくらいの力が強かった。


 まともに戦うのは得策じゃない。




 ここは、弱体化コンボを使って、物理的に排除しよう。




「レーンはそのへんに隠れてて。なんとかやってみる」


「わ、わかりました」




 僕は魔剣レギィを、アイネは『はがねのモップ』を持って走り出す。




『ももももももももも?』




 巨大スライムがこっちを見た──ような気がした。


 ここまで近づいても、レギィの声には応えない。本当に、心を持たない道具なのかもしれない。だったら……このまま追い払うしかない。


 僕とアイネのスキルが通じるか、やってみよう。




「空振り3回『遅延闘技ディレイアーツプラス体調変化斬りコンディション・チェンジャー』!!」




 伸びた『魔剣レギィ』の刃が、巨大スライムの身体に傷を付けた。


 同時に『体調変化斬りコンディション・チェンジャー』の効果が発動。ルーレットが回り出し、現れた人型レギィの手が、叩いて止める。


体調変化斬りコンディション・チェンジャー』は、抵抗力レジストの強い相手にも通りやすい。ただし、レジストされる分だけ、効果は弱くなる。


 狙いは「くしゃみ」か「かゆみ」だけど……今回はなにが出るかな。








 るるるるるるる……ぴこ。






 ルーレットが止まった。


 表示されたのは……えっと。




「『──寒気さむけ?』」




 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるっ!!




 巨大スライムが震え出した。


 さらに、壁に張り付いてた触手が引っ込んで、身体が縮んでいく。




「そうだよなー。寒いと、身体が縮こまるもんな……」


『主さま。もっかい「溶液生物支配スライムブリンガー」を使ってもよいか?』


「いいよ。やってみて」


『了解じゃ! 発動「溶液生物支配スライムブリンガー」!!』




 巨大スライムは寒気をこらえるのに全力を出してる。


 その分、抵抗力が弱まってるはずだ。




『──効いたぞ。主さま。少しだけ、言葉を伝えてきたのじゃ』


「なんて言ってる?」


『「わが主は、古きものの遺産を調査する」と』


「──わが主って?」


『意思を持たぬスライムじゃからの。主人の名前など知らぬようじゃよ』


「まあいいや。レジスト能力が落ちたのなら──アイネ、お願い」


「了解なの!」


 僕はもうひとつの島にいるセシルたちにメッセージを送る。洞窟の入り口から離れて、って。


「必殺! 『魔物一掃LV2』!!」




 すぱーんっ!




 アイネのモップが、縮こまったスライムを叩いた。


 普通ならエルダースライムは『魔物一掃LV2』で吹き飛ばせない。


 でも今は、『体調変化斬りコンディション・チェンジャー』で抵抗力が弱まってる。その上レギィの『溶液生物支配スライムブリンガー』がスライムの動きを止めてる。この状態なら──






「立ち去って魔物さん! この島は──なぁくんとアイネが……触れ合う場所──だからっ!!」




 アイネが叫び、一気に『はがねのモップ』を振り抜いた。






 ひゅーんっ!





 効いた。


 アイネの『魔物一掃LV2』が、巨大スライムを吹っ飛ばした。




『──ずももももももももも────っ』




 スライムは円形の通路の中を、ひゅーん、って感じで飛んでいく。


 そして──




『送信者:セシル


 受信者:ナギさま


 本文:こっちの島の洞窟からスライムさんが飛び出してきました! リタさんがそのまま蹴っ飛ばして、さらに横向きにしたラフィリアさんの「竜種旋風」が──』






 ばっしゃ────んっ!!






 通路の向こうから、巨大な水音が聞こえた。


 スライムを無事に、海まで追放したらしい。




「…………あの、みなさま」




 妖精のレーンが言った。


 言葉遣いが改まってた。




「みなさまは、勇者さまですか? それとも地竜さまのお使い?」


「ただの知り合いだよ」


「ぐ、具体的には!?」


「竜に認められた者で、竜のお父さんで、竜の最期をみとった」


「み、みみみみみみみとった竜とは!?」


「地竜アースガ──」


「うわあああああああああああああああっ!!?」




 あれ?


 妖精レーンが、ふるふると震えだした?




「わ、私は竜の身内になんという無礼なことを……。あ、姉と会えずにいらだっていたとはいえ、木の枝をぶつけようとするなんて! 落とし穴に落とそうとするなんて! ひらに、ひらにいいいいいっ!」






 ぶんぶんぶんぶんぶんっ!


 ごんごんごんごんごんっ!






 レーンは部屋の中に迷い込んだ蜂みたいに、飛び回ってぶつかって転がってる。




「し、知らぬこととはいえ──っ! なんてことを。なんてことをおおおおおおっ!」


「いいよもう。レーンの事情はわかったから」


「いいえ!」


 レーンは、きっ、と、顔をあげた。


「竜の身内の方々なら、むつみ合う場所を提供するべきー!」


「「『……むつみあうばしょ?』」」


「ここですよー!」


 彼女が指さしたのは、通路に空いた大きな穴。


 滑り台のような斜面があって、その下に地下空間があるのが見える。


「私と姉さまは、そこでふれ合い、分裂しているのです。さらにこの島は、むつみあう人や亜人に幸せな効果を与えるのです! あなたがたは、身も心もひとつにするためにいらっしゃったのでしょう? どうか、その場所をお使いください……」


「…………えっと」


 確かにまぁ、そうなんだけど。


 そこまではっきり言われると……むちゃくちゃ照れくさい。


 横を見ると、アイネも真っ赤になって胸を押さえてる。横目で僕を見て……そっと、手を重ねてくる。


「なぁくん……」って、小さくささやくのが聞こえる。続いて聞こえたのは「ひとつ、わがままを言っていい?」って言葉。僕はそれにうなずきかえす。


 アイネが、僕の手を引く。胸の革紐かわひもを外して、魔剣レギィを床の上に下ろす。


 レギィは抵抗しない。「ふっふーん」って、なにもかもわかったような声が聞こえる。僕はセシルにメッセージを送って、イリスたちと合流するように告げる。それと、今日はみんな、自由行動ってことも。


 セシルから帰ってきたのは「わかりました。お着替えを準備しておきます」って言葉。


 それをそのままアイネに伝えると、僕と握りあう手が震え出す。


「セシルちゃんに──みんなに、一言だけ伝えて」


「いいよ。なんて言えばいい?」


「……機会を逃さない……はしたないお姉ちゃんを許して、って」


 僕は言われた通りにした。


 僕とアイネは通路に空いた穴の前に立つ。そこから先は滑り台。


 足を踏み出すと、ゆっくりと僕たちは地下空間に滑り降りていく。


 数秒後、僕たちは地下の広間にたどりついていた。


 中央に湖があり、まわりを柔らかい草の地面でかこまれた空間だった。壁がほのかに発光していて、薄暗い中でも、互いの姿がよくわかる。顔を上げると、僕たちが滑りおりてきた通路が、かちゃん、と閉じるのが見えた。妖精レーンがその上で叫んでいるのが聞こえた。朝になったら開きます、って。そこはそういう場所だから、と。


 その声が聞こえなくなってから、僕はアイネの方を見た。


 メイド服姿の『お姉ちゃん』は、湖の側に立って、まっすぐに僕を見ていた。


「あのさ、アイネ」


「待って、なぁくん」


 僕の言葉をさえぎって、アイネが地面に、ぺたん、と座った。


 それから深々と、僕に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい、なぁくん。アイネはなぁくんに内緒にしてることがあります」


「内緒にしてること?」


「うん」


 そう言ってアイネは、腕につけた『食の腕輪』に触れた。


「実は──」


「『ホーンドサーペント』の肉には、『おとこのこ』を元気にする効果があって、アイネはそのことを隠してた。それはバカンスに来てから僕に食べてもらって……僕が確実に、アイネと──するため、ってこと?」


「──っ!?」




 ぼっ。




 アイネの顔が真っ赤になった。


「し、知ってたの!? なぁくん? え? うそ。どうして!?」


「『海竜ケルカトル』が教えてくれた」


「わ、わわわわわわわわっ。や、やだやだ。やだぁ!」


「ちょ、アイネ!?」


「そ、そんな。全部なぁくんにばれてたなんて。アイネが、恥ずかしいこと考えてたの、ご主人様が知ってたなんて。アイネが──えっちなお姉ちゃんだって、ばれてたなんて。知らなかった。知らなかったの。恥ずかしいの……わわわわわっ」


 アイネは顔をおおってしまった。


 すっごく恥ずかしがってるけど……なんだか、新鮮だった。


 いつもパーティの『お姉ちゃん』として、みんなのことを考えてくれてるアイネが、今は普通の『おんなのこ』になってる。


「あのね。アイネ」


「……うぅ」


「僕はずっと言ってるよね。無理して『お姉ちゃん』しなくてもいいって。したいことはしたいって言ってもいいってこと」


「だ、だって、アイネはパーティのお姉ちゃんなの。それが……みんなより先に、ご主人様と『したい』なんてこと……言えないの」


「だから、自然と僕がそうしたくなるようにしたかったってこと?」


 僕の言葉に、アイネはこくん、とうなずいた。


 そっか。だったら──


 僕はアイネの肩に手を載せた。


「──本当のことを言うと、実は僕はもう『ホーンドサーペント』の肉を食べてる」


「……え?」


「そんなわけで、僕はアイネが望む状態になってる。このままだと、落ち着いて眠ることもできない。だから、アイネ……その……お願い」


「……そ、そうなの?」


「ご主人様を疑うの?」


 ふるふる、と首を横に振るアイネ。


 もちろん僕は、まだあれを食べてない。でも、そういうことにしておこう。


 アイネには『お姉ちゃんスピリット』がしみついちゃってるから──今だけでも、僕の手で、それを休ませてあげないと。


 それに……アイネにここまでさせて、僕が尻込みするわけにはいかないから。




「……と、いうわけだから、アイネ」


「…………はい。ご主人様」




 アイネは覚悟を決めたように、服のボタンをはずしはじめた。


 息がかかるくらい近くで、僕の服のボタンを。




「……そういえば、朝までここから出られないんだっけ」


「そういうシステムみたいなの」


「途中で体力が尽きたら、ごめんな」


「大丈夫なの」




 アイネはそう言って、僕に頬ずりした。




「『ホーンドサーペントの干し肉』を、こっそりメイド服の中に隠しておいたから」




 さすがだ。お姉ちゃん。










 それから僕たちは、湖でお互いの身体を洗った。


 島に来てから、色々動き回ったから、意外と汗をかいてた。僕とアイネは時間をかけて水をかけあって、きれいにした。


 そうしながら僕はアイネに『結魂スピリットリンク』の方法についても、伝えた。『能力再構築』で繋がって、僕がアイネをモニターする必要があるって言ったら、あわてて「そ、そんな必要ないの……」と言って、自分の弱点と、してほしいことと──僕にしてあげたいことを教えてくれた。


 けど、やっぱり『結魂スピリットリンク』はしたいみたいで──




「……か、覚悟したの」




 って言って『能力再構築』でも繋がることを納得してくれた。








 それから、どれくらいの時間が経ったのかは、よく覚えてない。


 覚えてるのは、アイネが、とても素直だったことだけ。




 やがてアイネが眠りについて、それから僕も草の上で目を閉じた。










・一定時間以上の『魂約』──条件クリア。




・一定時間以上の魔力的結合──条件クリア。




・一定時間以上の、互いを完全に信頼した状態での抱擁ほうよう──条件クリア。




・一定深度以上の精神的な結びつき──条件クリア。








結魂スピリットリンク』の成立により『結魂スキル』に覚醒かくせいしました。








 うとうとした意識の中、僕はそんな声を聞いていた。








・ソウマ=ナギ




真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー




『意識共有・改』の上位版。


 メッセージがメールではなく、チャット式になる。


 ご主人様と奴隷が見ているものを、動画としてそのまま送信できる。


 また、ご主人様が望めば、現在の奴隷の状態を周辺状況込みで表示することが可能。具体的には、奴隷本人とまわりの状況を、動画として受信できる。


 送信可能距離は、『意識共有・改』と同じ。


『改』と『真』は同時起動して、自由に切り替えができる。






 ……『意識共有』の最上位版か……。


 すごいな。会話するみたいにメッセージが送れるんだ。


 動画も送信可能なら、戦ってる魔物の情報とか、攻略法を一瞬で伝えられるな。すごいな……。








・アイネ=クルネット




『お姉ちゃんの隠れ家』




 建物や洞窟内に結界を作り出すことができる。


 結界内は常に適温に保たれる上に、灯りと、水道とコンロが完備されている。


 魔物の攻撃を防ぐ力はないが、敵が接近するとセンサーで知らせてくれる。






 これがアイネの『結魂』スキルだ。


 こっちもすごいな。持続時間は半日だけど、結界内で快適生活が送れる。


 家や洞窟──ある程度の閉鎖空間に限定されてるのは、魔力消費を抑えるためか。


 さすがお姉ちゃんだ。


 これで『働かない生活』に大きく近づいた……かな。








「……なぁくん」


「どしたの、アイネ」


「…………はしたないお姉ちゃんは、嫌?」


「むしろ好きだよ」


「ん。じゃあいいの」




 僕たちは顔を見合わせて、笑った。


 そうして、身体をくっつけたまま、眠りについたのだった。










 ──────────────












 ──ごとん。




 頭上でなにかが開く音がして、僕は目を覚ました。


 目を開けるとアイネの顔があった。幸せそうな表情で、僕の顔をのぞきこんでる。


 僕の頭の下にはやわらかい感触。間違いなく膝枕ひざまくらだ。


 そういえば……初めて会ったときも、アイネは僕にひざまくらしてくれるって言ったんだっけ。


 なんだか、懐かしいな。


「……お、おはようなの、なぁくん」


「……おはよう、アイネ」


「…………」


「…………」


「ア、アイネ、服は?」


「う、うん。目を覚ましてすぐ、なぁくんを膝枕したら、動けなくなっちゃって……」


 アイネは照れくさそうに、目をそらした。


 とりあえず僕たちは昨日と同じように、湖で身体を洗って、服を着ることにした。


 通路からは、縄ばしごが下がってた。


 頭上から妖精レーンの声がした。古代エルフの遺留品です。これで上がってきてください、って。僕とアイネは順番に、齢を経た縄ばしごを伝って、通路に登っていった。


 通路には、みんなそろってた。


 セシルもリタも、イリスもラフィリアも、レティシアもカトラスもいる。


 通路の真ん中でふわふわと浮かんでるのは、妖精レーンと、ピンク色の髪の妖精だった。おそらく、それがレーンのお姉さんだろう。


「助けていただき、ありがとうございました!」


「妹に代わってお礼を申し上げます。リーンです!」


 2人の妖精は交互に頭を下げた。


 僕もアイネもおじぎを返す。結局、いろいろあったけど…………この島でアイネの願いを叶える、って目的は達成した。それでいいかな。


「さてと、じゃあ、バカンスを楽しもうか」


「……は、はい。ナギさま」「……そうね」「……いりすもさんせいでしょう」「ですねぇ」「……」「……」


 ……うん、みんな赤くなってるね。


 そうだよな。僕とアイネがこの下でなにをしてきたのか、みんな察してるだろうから。


「「どうぞ。この島で自由に楽しんでください!」」


 不意にレーンとリーンが声をそろえて、叫んだ。


「古代エルフにとって、ここは『むつみあう島』として有名だったのですから」


「この島にはひとつ、大きな特長がありますから」


 特長?


 僕が不思議そうな顔をしたのに気づいたのか、ふたりの妖精はぴん、と指を立てて──




「「この双子島には古代エルフにより『男女が愛を交わしても、子どもはできない』という魔法がかかっているのです!!」」


「「「「「「…………へー」」」」」」




 セシル、リタ、アイネ、イリス、ラフィリア、カトラスが声をあげた。


 そのシステムは『古代エルフ』がこの地に残した遺産だとか、先のことを考えずに愛を交わしたい恋人たちには都合のいい場所だとか、対象は亜人と人間限定とか、古代エルフは心配性で子どもを作るのにも慎重だったとか、女の子同士でこどもが作れる妖精なら問題ないとか──


 妖精レーンとリーンが話し続けるのを、僕たちは微妙な顔で聞いていたのだった。




「まぁ、それはそれとして、バカンスは普通に楽しもうよ」


 僕は言った。


 とりあえず、そういうことになった。





 最後に、通路を出るとき、アイネが僕の手を握って、


「……あのね、なぁくん。お願いがあるの」


 そう言って、小さな声で、僕の耳に色々なことをささやいた。


 アイネは、自分の夢について、すべてを話してくれた。パーティのみんなの子どもの面倒をみたいこと。そのために必要なことについて。




「だから──」


「うん。わかった」




 僕たちは、バカンスが終わったら、もう一度──って、約束を交わした。


 お互い真っ赤になった顔を見合わせて、それから、みんなの後を追いかけたのだった。








 


──────────────────


今回覚醒したスキル


真・意識共有マインドリンケージ・トゥルー


 意識共有の上位版。メールではなく、チャットで奴隷とお話ができる。

 さらに動画送信機能があるため、他人が見ている魔物の生態や情報などを、詳しく観察できる。ログも残せるので、とても便利。

 ご主人さまだけが使える機能として、奴隷の状態を第三者視点で見ることができる。奴隷の方でも「許可・不許可・ご主人様が望むなら……」の選択肢ができるので、一応は安心。



『お姉ちゃんの隠れ家』


 快適空間を作り出す結界スキル。

 大きさは、大部屋ひとつ分くらい。

 使用できるのは周囲を壁などで囲まれている場所に限られるが、これは魔力消費を抑えるため。いわゆる「断熱をしっかりしないとエアコンの電気代がかかる」という理由から。

 結界内は暖房と水道とコンロが完備されている。煙は普通に出ていくので、お料理も安心。

 ただ、結界そのものに防御能力はないので、戦闘には使えない。

 なお、結界内は防音にすることもできます。

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異世界でスキルを解体したらチートな嫁が増殖しました  − 概念交差のストラクチャー −(WEB版) 千月さかき @s_sengetsu

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