重すぎたラブレター

@toshiyo-f

ファーストコンタクト

 メケメケ星を旅立って100万年が経とうとしていたある日、ピッポは100万光年先に青く煌めく惑星を発見した。地球である。


 ピッポはメケメケ星と良く似た水が豊富な惑星発見に生命体存在の可能性が浮かび、好奇心を抑えきれなかった。我々と同じような知的生命体が存在するならば交信出来るかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、何を伝えるべきか考え始めた。


「知的生命体が存在するか確かめるには素数を送って反応を見るべきか?いや、やはり最初は絵が良いかな?でも感覚が同じとは限らないから友好のつもりでも違う意味になってしまうかもしれない。虹色を並べてみるとか……同じように色が見えるか分からないか。どうしたら良いんだ?」


 ピッポは悩んだ。愛らしいハートマークが心臓を寄越せと読まれる可能性だってある。悩みに悩んで一万年が経過してしまったある日、宇宙船のアラームが鳴った。折り返し地点に到達し、帰還しなければ動力源が尽きてしまう限界地点だった。未知の可能性を秘めた青く煌めく惑星を目の前にしながら背を向けて帰らなければならないなんて!報告するのに100万年もかかってしまうのだから、その間に惑星が消滅してしまったら2度とお目にかかれない!


 平均寿命500万年を考えても帰還して再び宇宙船に乗せてもらえるとは思えなかった。今戻っても、もう片道分しか生きられない。悩んで悩んで悩み抜いて、ピッポは科学者としての死を決意した。帰還できなくても、何かを成し遂げて死を迎えたい。宇宙生命体との接触を夢見た日から、宇宙研究には心血を注いできた。もし交信出来たなら、あの惑星に降りられる可能性もある。もし我々の惑星のような環境が揃っていたなら、帰還する方法も後で考えられるかもしれない。ピッポは惑星との交信に希望を見出だしていた。


 戦闘を想定した船ではないので攻撃されるような事は避けなければならない。メケメケ星でも住む地域によって言語が違った為、言語に依らないメッセージが良いだろうと考えた。歌は?歌詞が分からなくても何となくイメージは伝わらないか?そうだ、音楽だ!種族の違う動物もうっとりするようなメロディーなら警戒されてもいきなり攻撃されるような事は避けられるだろう!ピッポはこれまで聞いた音楽をあれこれ思い出しながら早速、曲を書き始めた。


 こんな事ならもっと沢山の音楽を聞いておくべきだった。言葉や人種を超えて共有出来るなんて言語より優れた文明じゃないか。死を覚悟するまで気付けなかった自分の愚かさを悔やみながら、家族と観た思い出の映画を振り返った。ぎこちないデート、初めて手を繋いだ日、新しい命が宿った日、家族の増えた食卓、騒がしくも楽しかった日々。家族を思う感情が津波のように押し寄せ大声を上げて泣いた。そして食事も忘れて狂ったように作曲に取り組んだ。


 一万年が経った頃、ピッポの曲は聞く者全てが魂を揺さぶられ感涙する程の出来栄えになっていた。メケメケ星で開花していたなら歴史に残る名作曲家になっていただろう。これが私の家族にも届けられたなら……そうだ、どうやって届けるか考えなければ!ピッポはあらゆる文献を調べ、原子の固有振動を音階に分けてメロディーにする方法を思い付いた。


「加速器で地球へ飛ばそう!」


 電磁誘導を利用して極限まで加速させ、地球へ向けて発射する準備が整った。このまま帰還する予定は無くなったので使えるものは全て使った。宇宙史が変わるかもしれない歴史的瞬間に緊張しながら、未知への夢と希望を胸にピッポはボタンを押した。


 実験は成功した。


 加速器に原子がメロディーに合わせて放出され、極限に達した原子が逆回転した原子と衝突、放たれたエネルギーはブラックホールを生み出しピッポは宇宙船ごと飲み込まれた。ブラックホールは辺りのブラックホールを引き寄せ衝突。膨大な重力波を撒き散らし、弾き出された加速器は全宇宙に向けてメロディーを発し続けた。魂のメロディーに包まれながら強烈な重力波は太陽と地球の距離を水素原子と電子の距離まで縮め、宇宙は一度小さくなった。そして引き寄せられたあらゆる天体が衝突を繰り返し、圧縮されたエネルギーが凄まじい衝撃波となって全宇宙に散らばっていき、散らばった天体がまた別の銀河に降り注ぎ衝突を繰り返しながら宇宙は膨張を続け既存の銀河は全て消滅し、衝突によって生まれた新たな天体が新たな銀河を形成していった。



 こうして新しい宇宙が誕生した。




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