第18話 試練の結果

「このまま待っていても、何も変わらんか……」

「シュバルツ君?」


 四方を壁に囲まれ、閉じ込められていた、シュバルツとエルデだったが、ふと、シュバルツが言葉を発した。

 エルデが疑問に思っていると、シュバルツは虚空から、漆黒の剣を取り出した。


「シュバルツ君? まさか……」

「ああ、少し下がっていろ」


 シュバルツは、壁に向かって、大きく剣を振るった。すると、壁は砕け散り、シュバルツは、そこから身を乗り出した。


「まったく、強引すぎやしないかい?」

「始めから、こうしておけばよかったのだ」


 エルデもその穴から、出て、二人は、顔を見合わせた。


「さて、リリー達を探すとしようか?」

「ああ、今度壁があったら、我が破壊しよう」

「ぶ、物騒だなあ……」


 使い魔達は、主人を探すため、動き出した。





「さて……」


 リリーは、杖を下しながら、呟いた。


「うん……」


 ララティナも、それに合わせて、杖を下した。


『どうしたのだ? 急に杖を下して』


 すると、頭の中にタイムスの声が響いた。

 その声を聞いて、ララティナとリリーは、笑い合った。


「ふふふ」

「ははは」

『何がおかしい?』


 笑う二人に、タイムスは、少し声を荒げながら、そう呟いた。


「あんたの言う通りにしたんじゃない」

『なんだと』


 リリーは、自身満々な顔で、笑っていた。


「あんたの言った試練の内容って、戦うことと、生き残った者のみ、試練の合格を認めるってことでしょう」

『ああ、その通りだ』

「なら、今のこの状況が答えよ」

『ほう、それはどういうことか、説明できるのか?』

「あんたの言った通り、私とこの子は戦ったわ。そして、二人とも生き残った。あんたの言ったことに、勝敗なんてなかったもの」

『ふ……ふはははははははは』


 リリーの言葉に、タイムスは笑い出した。

 その笑い声は、先程までと打って変わり、柔らかい口調になっていた。


『ふむ、良いだろう』


 すると、二人の目の前に、一人の魔物が現れた。

 魔物は、全身が白く、顔には、目だけがあった。背中からは、鳥のような羽が生えている。

 そして、最も特徴的なのは、その左肩だろう。その左肩には、一から十二までの数字が円形に描かれた物がついていた。


「私がタイムスだ。魔女の試練、時の魔術の護り手だ」

「時の魔術、それが禁術な……なんですか?」


 ララティナの質問に、タイムスはゆっくりと頷いた。


「その通り、時の魔術は、禁術なのだ。まあ、そうは言っても、魔女が使うことなどできんのだがな」

「それって、どういう意味よ?」

「ふむ、とりあえず、最初から話すとしよう。いや、その前に、彼等を招待しようか」


 タイムスがそう言うと、部屋の戸が開かれた。


「ララティナ!」

「リリー!」


 すると、それを見た二人の使い魔が、部屋に入ってきた。

 二人は、タイムスを認識すると、少し驚いたが、すぐに構えをとった。


「おっと、構えを解いてくれ。私は、最早、お前達に危害を加えるつもりはない」

「なんだと?」

「なんだって?」

「シュバルツ、もう大丈夫みたいだから」

「エルデも、構える必要はないわ」


 二人の主人の言葉で、使い魔達は、構えを解いた。

 そして、何があったかという説明を受けて、使い魔達は納得することができた。





「まず、魔女の禁術とは、名の通り、使うことが許されない魔法だ」


 タイムスは、四人に対して、説明を始めた。


「そもそも、これらの魔術は、古来にとある魔女によって、誰にも使えないように封印されているのだ」

「封印ね、どうしてそんなことを?」

「危険すぎるからという理由だったはずだな」

「それって、解けることはないんですか?」

「それは、ないさ。術者が亡くなってから、実に、遥かなる時を超えても、その魔法がとけていないのだからな」


 タイムスは、懐かしむように、目を細めながら、そう言った。

 ララティナは、きっとタイムスはその魔女の使い魔だったのではないかと、推測した。


「その魔女ってのは一体何者なの?」


 リリーは、単純に興味があった。そのような優れた魔女がいたなら、知っておきたいと感じていた。


「何者……か。きっと、お前達も聞いたことくらいはあるだろう」

「聞いたことがある? まさか!」

「ああ、そうだ。始まりの魔女だ」

「始まりの魔女!?」

「それって、あの!?」


 タイムスの言葉に、ララティナとリリーは驚いた。

 始まりの魔女とは、魔女の始祖ともいわれている偉大な人物だった。

 当然、二人もその人物に関する逸話は知っていた。


「よく、知っているようだな。最も偉大な魔女であるから、当然といえば当然か」

「その始まりの魔女の封印が、今まで続くなんて、一体どんな魔法なのかしら……?」

「うん、すごい魔法だよね」

「まあ、その話はいいのさ。問題は、お前達だ」


 タイムスが、手を掲げると、空中に紙が現れた。

 そして、その紙は、丸まり、ララティナとリリーの手の中に納まるのだった。


「それは、試練合格の証だ。ついでに、他の試練のヒントも示してある」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、感謝しておくわ」


 二人が、それぞれ感謝の言葉を口にすると、タイムスは、戸の方を指さした。


「さあ、ここから出るのは、簡単だ。屋敷の構造は、通常通りに戻っている。すぐに、帰るといい」

「は、はい。色々と、お世話になりました」

「さっさと帰りましょう」


 こうして、二人はディヴランの町へと帰還した。





「今日は大変だったね」

「まあ、でも、試練を突破できたから、いいんじゃない」


 ララティナとリリーは、宿にてそんな会話をしていた。

 お互いに、タイムスからもらった紙を確認すると、次の試練のヒントが書かれていた。


「ヒントは、雪……?」

「それなら、北に向かうべきね……」

「その、リリーちゃん。一緒に行ってくれる?」

「え?」

「これからも一緒に旅してくれる?」

「……」


 リリーは考えるような仕草をした後、


「しょうがないわね」


と、ララティナの提案を受け入れてくれた。


「本当は、リリーもそう言いたかったんだよ」


 エルデが言うと、いつも通り、リリーが怒る。


「うるさい! あんたは余計なことしか言えないの!?」

「あはは、二人とも、いつも通りだね……」


 ララティナとシュバルツ、リリーとエルデ、二組の見習い魔女と使い魔達の旅は続いていく。

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見習い魔女ララティナ 少女と漆黒の鎧の冒険譚 木山楽斗 @N420

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