第18話 試練の結果
「このまま待っていても、何も変わらんか……」
「シュバルツ君?」
四方を壁に囲まれ、閉じ込められていた、シュバルツとエルデだったが、ふと、シュバルツが言葉を発した。
エルデが疑問に思っていると、シュバルツは虚空から、漆黒の剣を取り出した。
「シュバルツ君? まさか……」
「ああ、少し下がっていろ」
シュバルツは、壁に向かって、大きく剣を振るった。すると、壁は砕け散り、シュバルツは、そこから身を乗り出した。
「まったく、強引すぎやしないかい?」
「始めから、こうしておけばよかったのだ」
エルデもその穴から、出て、二人は、顔を見合わせた。
「さて、リリー達を探すとしようか?」
「ああ、今度壁があったら、我が破壊しよう」
「ぶ、物騒だなあ……」
使い魔達は、主人を探すため、動き出した。
◇
「さて……」
リリーは、杖を下しながら、呟いた。
「うん……」
ララティナも、それに合わせて、杖を下した。
『どうしたのだ? 急に杖を下して』
すると、頭の中にタイムスの声が響いた。
その声を聞いて、ララティナとリリーは、笑い合った。
「ふふふ」
「ははは」
『何がおかしい?』
笑う二人に、タイムスは、少し声を荒げながら、そう呟いた。
「あんたの言う通りにしたんじゃない」
『なんだと』
リリーは、自身満々な顔で、笑っていた。
「あんたの言った試練の内容って、戦うことと、生き残った者のみ、試練の合格を認めるってことでしょう」
『ああ、その通りだ』
「なら、今のこの状況が答えよ」
『ほう、それはどういうことか、説明できるのか?』
「あんたの言った通り、私とこの子は戦ったわ。そして、二人とも生き残った。あんたの言ったことに、勝敗なんてなかったもの」
『ふ……ふはははははははは』
リリーの言葉に、タイムスは笑い出した。
その笑い声は、先程までと打って変わり、柔らかい口調になっていた。
『ふむ、良いだろう』
すると、二人の目の前に、一人の魔物が現れた。
魔物は、全身が白く、顔には、目だけがあった。背中からは、鳥のような羽が生えている。
そして、最も特徴的なのは、その左肩だろう。その左肩には、一から十二までの数字が円形に描かれた物がついていた。
「私がタイムスだ。魔女の試練、時の魔術の護り手だ」
「時の魔術、それが禁術な……なんですか?」
ララティナの質問に、タイムスはゆっくりと頷いた。
「その通り、時の魔術は、禁術なのだ。まあ、そうは言っても、魔女が使うことなどできんのだがな」
「それって、どういう意味よ?」
「ふむ、とりあえず、最初から話すとしよう。いや、その前に、彼等を招待しようか」
タイムスがそう言うと、部屋の戸が開かれた。
「ララティナ!」
「リリー!」
すると、それを見た二人の使い魔が、部屋に入ってきた。
二人は、タイムスを認識すると、少し驚いたが、すぐに構えをとった。
「おっと、構えを解いてくれ。私は、最早、お前達に危害を加えるつもりはない」
「なんだと?」
「なんだって?」
「シュバルツ、もう大丈夫みたいだから」
「エルデも、構える必要はないわ」
二人の主人の言葉で、使い魔達は、構えを解いた。
そして、何があったかという説明を受けて、使い魔達は納得することができた。
◇
「まず、魔女の禁術とは、名の通り、使うことが許されない魔法だ」
タイムスは、四人に対して、説明を始めた。
「そもそも、これらの魔術は、古来にとある魔女によって、誰にも使えないように封印されているのだ」
「封印ね、どうしてそんなことを?」
「危険すぎるからという理由だったはずだな」
「それって、解けることはないんですか?」
「それは、ないさ。術者が亡くなってから、実に、遥かなる時を超えても、その魔法がとけていないのだからな」
タイムスは、懐かしむように、目を細めながら、そう言った。
ララティナは、きっとタイムスはその魔女の使い魔だったのではないかと、推測した。
「その魔女ってのは一体何者なの?」
リリーは、単純に興味があった。そのような優れた魔女がいたなら、知っておきたいと感じていた。
「何者……か。きっと、お前達も聞いたことくらいはあるだろう」
「聞いたことがある? まさか!」
「ああ、そうだ。始まりの魔女だ」
「始まりの魔女!?」
「それって、あの!?」
タイムスの言葉に、ララティナとリリーは驚いた。
始まりの魔女とは、魔女の始祖ともいわれている偉大な人物だった。
当然、二人もその人物に関する逸話は知っていた。
「よく、知っているようだな。最も偉大な魔女であるから、当然といえば当然か」
「その始まりの魔女の封印が、今まで続くなんて、一体どんな魔法なのかしら……?」
「うん、すごい魔法だよね」
「まあ、その話はいいのさ。問題は、お前達だ」
タイムスが、手を掲げると、空中に紙が現れた。
そして、その紙は、丸まり、ララティナとリリーの手の中に納まるのだった。
「それは、試練合格の証だ。ついでに、他の試練のヒントも示してある」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、感謝しておくわ」
二人が、それぞれ感謝の言葉を口にすると、タイムスは、戸の方を指さした。
「さあ、ここから出るのは、簡単だ。屋敷の構造は、通常通りに戻っている。すぐに、帰るといい」
「は、はい。色々と、お世話になりました」
「さっさと帰りましょう」
こうして、二人はディヴランの町へと帰還した。
◇
「今日は大変だったね」
「まあ、でも、試練を突破できたから、いいんじゃない」
ララティナとリリーは、宿にてそんな会話をしていた。
お互いに、タイムスからもらった紙を確認すると、次の試練のヒントが書かれていた。
「ヒントは、雪……?」
「それなら、北に向かうべきね……」
「その、リリーちゃん。一緒に行ってくれる?」
「え?」
「これからも一緒に旅してくれる?」
「……」
リリーは考えるような仕草をした後、
「しょうがないわね」
と、ララティナの提案を受け入れてくれた。
「本当は、リリーもそう言いたかったんだよ」
エルデが言うと、いつも通り、リリーが怒る。
「うるさい! あんたは余計なことしか言えないの!?」
「あはは、二人とも、いつも通りだね……」
ララティナとシュバルツ、リリーとエルデ、二組の見習い魔女と使い魔達の旅は続いていく。
見習い魔女ララティナ 少女と漆黒の鎧の冒険譚 木山楽斗 @N420
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