第17話 迷いし館

「さて、上まで来たのはいいけど、ここは動いても大丈夫なのかしら?」


 階段の上で、リリーがそう言った。


「確かにそうだね。でも、流石に冷やしながら歩くのは厳しいし、できれば動けて欲しいなあ」


 意を決して、ララティナは、その場を動いてみる。すると、巻き戻ることなく、先に進めた。


「よし、ここからは大丈夫そうだよ」

「そのようね」


 そう言いながら、リリーもララティナに続いた。


「さて、シュバルツ君、僕達も行こうか」

「ああ」


 使い魔達が、見習い魔女に続こうとしていた時だった。


「え?」

「あれ?」


 先程、ララティナとリリーが通ったはずの道がなくなり、壁になっていたのだ。


「壁が……急に?」

「うん、全然気づかなかったよ……」


 二人が驚いていると、壁の向こうから声が聞こえた。


「ララティナ、聞こえるか?」

「リリー、大丈夫?」


 シュバルツとリリーの声だった。二人は、壁に近づき声をあげた。


「シュバルツ、聞こえてるよ」

「エルデ、私達は大丈夫よ。そっちはどう?」

「こっちも大丈夫さ、だけど、この壁はおかしいよ」

「ああ、こちら側から見ていたが、現れたことすら認識できなかった」


 シュバルツの言葉で、二人はこの壁が恐ろしいものであると理解できた。


「とにかく、私達は先に進んでみるね」

「ええ、そっちもどこか行ける場所がないか探してみなさい」

「ああ、ララティナ、気をつけるのだぞ」

「リリーも、ララティナちゃんと仲良くね」


 こうして、ララティナとリリー、シュバルツとエルデの二組に分かれることになった。





「さて、シュバルツ君、どうしようか?」

「ああ、とにかく辺りを散策してみるか……」


 シュバルツとエルデは、壁の前で作戦会議をしていた。


「そうだね。周りの部屋はいくつかあるけど、手分けして探すかい」

「いや、今の状況、何があるかわからん。単独行動は避けるべきだろう」

「なるほど、流石だね」


 エルデは、シュバルツの判断を頼もしく思った。この状況で、冷静な判断をできるのはありがたかった。


「いやあ、君とはいい友達になれそうだ」

「我はそうは思わん」

「おや、振られちゃったね」

「貴様には、からかわれそうだからな」

「あはは、あれはリリー専用だよ」


 エルデは笑いながら、否定していた。


「まあいい、とにかく探索に取りかかるぞ」

「うん、いいだろう。行こうか」


 二人が歩き出そうとした、その時だった。


『待つのだ……』


 二人の頭の中に、声が響いた。男のような声だった。


「何者だ!」

「一体どこから!?」


 その答えは、すぐに出ることとなった。なぜなら、二人の目の前にある者が現れたからだ。

 その者は、全身を黒いローブで隠し、顔には仮面がついていた。


「我が名は、タイムス。この館の主とでもいうべきか」

「館の主だと? 一体のつもりだ?」

「何のつもり? 勝手に館に入ったのは、そちらだろう」

「あはは、確かにそうだね。だけど、この館は普通じゃないんだろう?」


 シュバルツとエルデは、警戒し、戦闘の構えを取ったが、タイムスはそれを見て、声を大きくしながら笑った。


「ふはははは、お前達が私に勝てると思っているのか?」

「何が言いたい?」

「僕達を舐めないでもらおうか」

「別にお前達を侮るつもりはない。なぜなら、私にとっては、いかなる者も等しく下なのだからな」


 タイムスは、そう言うと、その場から、消え去った。

 シュバルツとエルデが驚いていると、後ろから声が聞こえた。


「このように、簡単に後ろがとれるのだ。まったく、恐れる理由はないのだ……」


 その声に、二人が後ろを向いて振り返ると、そこにタイムスはいなかった。

 そして、再び頭の中に声が響いた。


『お前達は、ここから動いてはならない。故に、閉じ込めさせてもらおう』


 次の瞬間、シュバルツとエルデの周りは、壁によって塞がれてしまった。


「何?」

「また、まったく認識できなかった。一体、何が起こっているんだ」


 使い魔達は、動きを封じられてしまった。





「何も……起こらないね」

「この館、あの仕掛け以外は何もないのかしら」


 ララティナとリリーは、館の内部を探索していた。

 しかし、特に何も見つからず、何も起こらなかった。

 そのため、二人は一度使い魔達と別れた場所に戻ろうと思っていた。


「あれ?」

「うん? 確かにこっちだったわね」


 だが、先程まで道があった場所に、壁が現れていた。


「また、この現象ね。面倒くさいったらありゃしないわよ」

「このままじゃ、どうにもならないね」 


 そんな風に、悩んでいると、二人の頭の中に声が響いた。


『お前達……』

「え? 何?」

「一体、誰かしら、勝手に人の脳内に……」

『ふふふ、我が名はタイムス。この館の主とでもいうべきか』

「主ですって! 一体なんつもりかしら?」

『まあ、落ち着くがいい。私こそが、魔女の試練の試験官だ』

「魔女の試練! そんなまさか!」

「やったじゃない! ここが当たりだったわ」


 ララティナとリリーは声をあげて喜んだ。


「けど、待って、この声の言っていることが本当かどうかわからないじゃない」

「え? 確かにそうかもしれないけど」

『まあ、待て、今から、お前達には、ある一つのゲームをしてもらう』

「ゲーム? 一体何をするの……?」

『まず、お前達の近くにある部屋に入ってもらおうか』


 そう言われた二人は、数秒の思考の後、近くの部屋に入った。罠かもしれないが、どの道自分達にできることはなかったからだ。

 部屋は、広い部屋であったが、なんの変哲もない部屋に見えた。本棚やベット、机や椅子などがある一般的な部屋だった。


『今からお前達には、ここで戦ってもらう』

「え?」

「なんですって!」

『ふふふ、生き残った者のみ、試練の合格を認めてやろう。さあ、さっさと始めるのだ』


 ララティナは、困惑してしまった。

 目の前の見習い魔女は、数日とはいえ、ともに仲良く過ごした者だ。


「リリーちゃんと、戦うなんて……」

「……杖を構えなさい」


 しかし、リリーは、杖を構えていた。


「リリーちゃん!?」

「私達は、見習い魔女よ。試練を突破するのが目的じゃない。あんたとは、数日過ごしたけど、試練より優先しようとは思わないわ」

「リリーちゃん!? そんな!」


 リリーの言葉に、ララティナはショックを受けた。まさか、リリーにとっては、自分と過ごした時間など、意味がないものだというのだろうか。


「さっさと構えたら、どうなのかしら?」

「私は……」


 その時、ララティナは、リリーの目を見ていた。

 そして、その目を見て、決意をすることができた。


「わかった、戦うよ、私」

「そう、それで良いのよ。かかってきなさい」


 ララティナも杖を構え、戦闘に備える。


「さあ、行くわよ! 光の矢よ!」


 リリーが杖を掲げると、空中に光の矢が現れ、ララティナに向かってきた。


「くっ! 光の壁よ」


 ララティナは、それに対して、杖を振るい、周りを光の壁で塞いだ。

 光の壁に、光の矢が当たり、爆発する。


「なるほど、中々、やるわね。なら、これはどうかしら」


 リリーが杖を振るうと、部屋にある椅子が、今度はララティナに向かってきた。


「くっ!」


 これには、ララティナも、同じ手で対抗した。ララティナは、ベットを引き寄せ、盾とした。


「は! 防御ばかりね! それじゃあ、私を倒せないわよ!」


 リリーは、さらに、追加して、机を操った。


「くっ! 光の壁よ!」


 ララティナは、光の壁を張りながら、衝撃に備えた。

 その直後、ベットが砕けて、その破片がララティナに降り注いだ。


「ううっ!」


 ララティナの光の壁が、破片を弾いていった。


「さあ! どんどんいくわよ」

「リリーちゃん……」


 二人は、睨み合いながら向かい合っていた。

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