第16話 館の仕掛け
「さっき、階段を上ったはずだったよね」
「ええ、それは間違いないわ」
「何かあるのかもしれないねえ……」
三人は、互いに顔を見合わせた。
「私が、もう一度行ってみるね」
そう言って、ララティナは階段を上っていった。他の二人も、確かにそれは認識していたはずだ。
「あれっ?」
「なっ……」
「僕達も見ていたはずなんだけどね」
しかし、ララティナは、階段の下に戻っていた。
「この階段がだめなら……」
ララティナは、箒を出して跨った。そして、地面を蹴り、飛び立った。
「うん?」
しかし、ララティナは地面に戻っていた。どうやら、階段が原因ではないらしい。
「だめだ……」
「原因はわからないけど、行けないのなら、仕方ないわ。別の場所を調べましょう」
「うん、そうだね」
「他の部屋でも同じようなことが起こらなければいいけどね」
リリーは、周囲を見渡すし、右手側の扉を指さした。
「あの部屋に行ってみましょう」
そう言って、リリーは一歩踏み出したはずだった。
「なっ……」
しかし、リリーは場所を移動できておらず、その場に戻っていた。
「動けていない……?」
「扉にもいけないみたいだね。じゃあ、こっちなら、どうかな?」
エルデは、入り口の方向へ向かっていった。しかし、やはり、移動することはできていなかった。
「こっちも無理か、変な話だけど、閉じ込められたみたいだね」
「冗談じゃないわ。こんな、部屋でもなんでもない場所に、閉じ込められるなんて」
「とにかく、原因を調べないといけないね……リリーちゃん、私が階段を上るから、それに合わせて、魔法をなんでもいいから放ってくれないかな」
「え? それは、いいけど」
そう言って、ララティナは、階段を上っていった。リリーは、それに合わせて、魔法を放った。
「ライトボール!」
リリーの杖から、光が放たれ、ララティナと平行して上へと上がっていく。
「あ、戻ったね」
「これで、何かわかるのかしら?」
「リリーちゃんの放った魔法、なくなっているよね」
「ええ、それがどうしたの?」
ララティナの言葉は、リリーにはわからなかった。
「うん、それってつまり、この現象は、魔法にも作用するってことだよ」
「ああ、なるほど。けど、それがわかったからって、どうにもならないんじゃない」
「ううん、それで、魔法はどこに行ったのかっていう何故が残るよ」
「……確かにそうね。魔法はこちらに戻っていないようだしね」
「次は、魔法をしている状態で、私が階段を上がったら、やめてみてくれる?」
「いいわ、始めましょう」
リリーは、先程と同じ魔法を杖の先で使った。
そして、ララティナと目を合わせ、合図を出す。
ララティナが、階段を上るのを見て、リリーは魔法の使用をやめた。
「あ!」
そして、またもララティナは、階段の下に戻っていた。
「ねえ、私は、確かに魔法を消したわよね」
「うん、僕もちゃんと見ていたよ」
リリーの魔法は、消したはずだったが、再度、使用されていた。
無論、リリーは、魔法を再度使用していない。
「うん、わかったことが一つあるよ」
「何かしら?」
「この現象は、階段を上った後に、下に戻されているんじゃなくて、階段を上る前の状態に戻っているんだよ」
「……どういうこと?」
「簡単に言えば、時が巻き戻っているってことかな」
「なんですって!」
リリーは、その言葉に動揺した。時を巻き戻すことができる魔法など、聞いたことはなかった。
「そんなの聞いたことないわよ?」
「聞いたことがないってことは、禁術である可能性が高いってことだよ」
「……確かにそうかもしれないけど」
「二人とも、それもいいけどさ」
そんな二人の会話に、エルデが入ってきた。
「今は、どうやってここを突破するかの相談をした方が、いいんじゃないかな?」
「……それもそうね。ララティナ、どうする?」
「うん、まずは何に反応するかを明確にしてみよう」
そう言って、ララティナは杖を階段に向ける。そして、そこから、光の弾を発射した。
すると、弾は階段の上の壁に着弾した。
「……今の様子から見るに、この現象では、明確に人間とそれ以外を識別しているように思えるね」
「ええ、光の弾だけなら、上れたもの。だけど、その基準ってなんなのかしら」
ララティナとリリーが考えていると、横にいるエルデが喋り始めた。
「念頭に置いて欲しいのは、僕にも反応したということかな。僕は、詳しくは省くけど、人間とは少し違う体をしているからね」
「そうでしたね、エルデさんにも反応したんでした」
ララティナは考える。人間でも、エルデでも同じものが何かあるはずだった。
考察を深めるため、ララティナは、もう一つ要素を増やすことにした。
「シュバルツ」
ペンダントを掲げると、漆黒の鎧が現れた。
「ララティナ、我の出番か?」
「うん、同じ使い魔でも、エルデさんとシュバルツじゃあ、結構、違ってるでしょ」
「ああ、ならば、行こう」
シュバルツが、階段に足をかけ、一気に上り切った。そして、意外な結果が訪れた。
シュバルツは、巻き戻されることなく、階段の上で留まっていた。
「シュバルツ! なんともない?」
「うむ、まったく異常はないようだ」
ララティナは、再び考えた。自分達とシュバルツで、違うものが何かあるらしい。
「そっか!」
「ああ、恐らくは」
「なるほど、そういうことか」
「え? なんで、皆、理解しているのよ」
リリー以外の三人は理解した。
「リリーがわからないのも無理はないよ。これは、シュバルツ君の性質を知っていないと、だめだからね」
「性質?」
「リリーちゃん、シュバルツは見ての通り、体が鉄でできているんだ」
「まあ、それはわかるけど」
「うん、だから、体温が周りに左右されやすいんだ」
「なるほど、そういうことね……」
リリーもここで、理解できた。この現象は、温度に反応しているのだ。人間の温度によって、反応するようにできているらしい。
「うん、でもわかったところで、動けそうにないね。シュバルツに探索してもらって、打開策を見つけよう」
「はあ? 何言ってんのよ。体温を下げればいいんじゃない」
「えっ? どうやって?」
「決まってるじゃない」
リリーは、杖を上に向けた。
「アイス」
リリーの杖から、冷気が溢れ、周りを満たした。ララティナは、辺りの気温がどんどん下がっていくのを感じた。
「リリーちゃん、もしかして……?」
「ええ、気温を下げて、体温を下げるわよ」
「そんな無茶な……」
「あんたもさっさと、冷気を呼びなさいよ」
「ええ……」
ララティナは、思わず困惑した。いくらなんでも、強引すぎるのではないだろうか。
「ごめんね、ララティナちゃん。この子、超大雑把だから……」
「別に、解決できるなら、それでいいじゃないの」
「あはは、意外と豪胆なんだね、リリーちゃんって」
ララティナは、リリーの意外性を垣間見た。だが、この性格は、こんな状況の時には、頼りになるとも思えた。
「でも、寒いよね」
「我慢するのね」
体が、だんだんと冷えてきて、動きにくくなるのを二人は感じた。
「そろそろ、大丈夫かな」
「ええ、流石にこれ以上はまずいわ。行きましょう」
三人は、階段を上った。すると、三人は巻き戻ることなく、シュバルツのいる場所まで辿りついた。
「やったね、成功みたい」
「ええ、当然ね」
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