第15話 気になること

 ララティナが、宿の前で待っていると、リリーがやって来た。


「あ、リリーちゃん」

「ララティナ、何か収穫があったかしら?」

「この子、こんな自信満々だけど、こっちは、収穫なしだったんだよ」

「余計なこと……」

「いや、これは、事実だよ」


 リリーとエルデのやり取りが終わり、ララティナは報告した。


「こっちは、それらしい情報、見つけたよ」

「本当? やるじゃない!」

「いやあ、流石だね。僕の主人とは多い違いだねー」

「あんたは、敬意というものが足りないようね」


 この二人は、いつでも変わらないんだなと、ララティナは思った。


「じゃあ、私の部屋で話しましょうか」

「あ、うん。私、部屋を借りるから、ちょっと待ってくれるかな」

「あら、まだ取ってなかったのね」

「ところで、ここって一部屋、いくら?」

「え? ああ、それなら……一部屋?」


 ララティナが聞くと、リリーが怪訝な顔をした。


「あれ? どうしたの?」

「あんた、一部屋しか借りないの?」

「え? そうだけど」

「……ちょっと、すぐに来なさい」


 リリーは、ララティナを引っ張り、自分の借りている部屋へ連れて行った。


「ここなら、大丈夫ね……」

「リリーちゃん? どうしての?」

「あんた、正気? どうして一部屋しか借りないの?」


 ララティナには、質問の意図が理解できなかった。


「どうしてって、私一人だよ?」

「もう一人いるでしょ、その胸のペンダントの中に入っているのが」

「我のことか」


 ペンダントから、シュバルツが声を発した。


「そうよ。あんたよ、あんた」

「え? 何が問題なの?」


 ララティナが、そう聞くと、リリーはため息をつきながら、言い放った。


「いいこと、こいつだって、分類上は男でしょ。そんなのと一つの部屋なんて、不潔よ、不潔」

「ごめんね。ララティナちゃん、シュバルツ君、この子、割と病気なんだ……」


 エルデの言葉に突っ込むこともせず、リリーは言葉を続けた。


「だから、部屋は二部屋とりなさい」

「いや、シュバルツの姿、知ってるよね。あれじゃあ、普通には泊まれないよ」

「二部屋とって、片方にそのペンダントを置いておけばいいじゃない」

「そんなのお金がもったいないよ!」

「お金の問題じゃないでしょ!」


 リリーは、譲るつもりはないようだった。


「じゃあ、エルデさんとは、別々の部屋なの?」

「そうなんだ。僕と同じ部屋は嫌だって、しくしく」

「こいつだって、よくわからないけど、男の一種よ」

「じゃあ、これならいいのかい?」


 エルデが、その場で一回転すると、その姿が変わっていた。そこには、白髪の女性が立っていた。


「わあ、エルデさん。とってもお綺麗ですね」

「ありがとう、ララティナちゃん」


 エルデは、リリーに目を向けると、呟いた。


「こんな風に、僕らは、男も女も曖昧だって」

「そんなのどっちでもいいわよ。ベースが男なのは変わらないじゃない」


 リリーは、エルデの意見を一蹴した。


「そうだ! エルデの部屋でいいじゃない」

「えっ? 僕の部屋? 別にいいけども僕も今、女の子だよ」

「すぐに戻りなさい」

「はい、はい」


 エルデは元の姿に戻った。


「ララティナちゃん、ごめんね。この子、言い出したら、聞かないからさ」

「はい、それはよくわかりました。シュバルツをお願いします」


 そう言って、ララティナは、シュバルツの入ったペンダントをエルデに渡した。


「はい、確かに預かったよ。よろしくね、シュバルツ君」

「我は別にどこでも構わん」

「それでいいのよ、それで」


 リリーが満足そうにしている中、エルデは、ララティナに耳打ちしてきた。


「後で、シュバルツ君を返しに来るよ」

「えっ?」

「よそはよそ、うちはうちってね」

「あはは、ありがとうございます」

「いえいえ、元々こちらが悪いんだからさ」

「何話してるのよ」

「なんでもないよ……それより、折角、部屋まで来たのだから、ララティナちゃんの話を聞こうじゃないか」


 エルデは、ウインクしながら、ララティナに促してきた。エルデは、今のことを誤魔化そうとしているらしい。


「そうですね、そうしましょう」


 ララティナは、意図を理解できたため、話を始める。


「どうやら、北の森の奥に怪しい館があるみたいなの」

「館? そんなのがあるのね」

「うん、階段を上ったと思ったら、いつの間にか階段を下ってたり、いつの間にか違う場所に移動してたりするらしいんだ」

「何よそれ? 意味わからないじゃない」

「だから、怪しいんだよ。きっと、魔女に類するものの仕業だと思うよ」

「まあ、そうかもね」


 リリーも、その話には納得しているようで、大きく頷いた。


「じゃあ、明日はその館に向かうのね」

「うん、他に有力な手がかりはないし、それがいいと思う」


 二人は、意見をまとめて、議論をまとめるのだった。





 ララティナが、部屋で待っていると、ドアを叩く音が聞こえた。ドアを開けると、エルデがいた。


「あ、エルデさん」

「ララティナちゃん、シュバルツ君のお届けだよ」


 そう言って、エルデはペンダントを渡してくれた。


「シュバルツ、お帰り」

「うむ」


 エルデは、さらに言葉を続けた。


「さっきは、本当にごめんね。あの子、ああいうところがあるから、人に勘違いされやすいんだ。どうか、嫌いにならないでよ」

「あのくらいのことで、嫌いになったりしませんよ」

「……ララティナちゃんがいい子でよかったよ。それじゃあ、僕は、戻るね」


 それだけ言って、エルデは戻っていった。


「ふふ」

「ララティナ、嬉しそうだな」


 ドアを閉めた後、笑うララティナに、シュバルツが話しかけてきた。


「うん、なんだかんだ言って、二人とも仲良いんだなって」

「まあ、そうかもしれんな」

「あ、私とシュバルツだって、仲良しだよ」

「……コメントは、控えさせてもらおう」


 シュバルツが照れているのを、ララティナは感じた。


「さて、明日に備えて、早めに寝ようかな」

「それが良いだろう」





「さあ、それじゃあ、出発しましょう」

「うん、じゃあ、行こうか」

「リリー、ちゃんと警戒するんだよ」


 エルデは、二人を見ながらそう言った。


「わかっているわよ。一々、言わなくてもいいのよ」

「あはは、じゃあ行こうね」


 町を出て、街道に沿って進む。


「この辺りで、森へ入るんだって」


 ララティナは聞いた情報を頼りに、森の中へ足を踏み入れた。リリーとエルデもそれについて行く。


「迷ったりしてないでしょうね」

「うん、探知魔法で、町までの道は調べてあるから、いつでも戻れるよ」

「へー、意外にも抜け目ないんだね。うちの主人とは大違いだよ」

「あんたのその減らず口を縫い合わせたいわね……」

「物騒だなあ、もう」


 そんな会話をしながら歩いていると、館が見えてきた。


「あれみたいだね」

「ふーん、見た目は普通の館じゃない」

「いや、普通の館というのが異常のようだよ。よく見たらわかる」


 エルデが、真剣な口調で言い放ったため、二人は館を観察する。そして、あることに気づいた。


「綺麗すぎるってことですね……」

「そうね、誰かが管理していなければ、こんないい状態で館が残ってはいないだろうし」

「ララティナちゃんの聞いた話じゃ、ここを管理している人なんていないらしいからね」

「まあ、誰かが管理しているという可能性も残ってはいるわ」

「とりあえず、入ってみようよ」


 ララティナは、扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。

 内装も普通の館であったが、やはり、中も誰かが掃除でもしたように綺麗だった。


「うーん、階段を上ってみようかな」

「ええ、行きましょう」


 目の前に、大きな階段があったため、その階段を上っていった。


「あれ?」

「何……?」


 その時、不思議なことが起こった。

 三人は、確かに階段を上ったと思ったが、未だ階段の下にいた。

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