第14話 聞き込み調査

 ララティナとリリー、エルデの三人は、ゲンジとアヌークの家にやって来ていた。

 見習い魔女同士の情報交換がいいのかどうか、アヌークに聞いてみるためである。

 玄関で呼びかけてみると、中からアヌークが現れた。


「あら、ララティナじゃないか? そっちの二人は……見習い魔女かい。なんとも、奇妙なことだね」

「えっ? そうなんですか?」

「まあ、入りなよ」


 そう言って、アヌークは、三人を家の中に案内した。

 他に、人の気配がしないので、ララティナは、ゲンジはすでに、船の仕事に戻ったのだと思った。

 案内された三人は、それぞれ椅子に座り、アヌークも、お茶を出した後、それに続いた。


「さて、私に聞きたいことがあるみたいだね」

「えっ? どうしてわかるんですか?」

「見習い魔女同士が、出会うなんて、そうそうないことだかね」

「そうなのですね。私も、ララティナさんと会った時には、驚きましたわ」

「へ?」


 ララティナは、リリーの言葉に驚いた。自分やエルデと話している時とは、まったく違う喋り方をしているからだ。

 エルデは、その様子を見ながら、笑いを堪えているように見えた。


「私は、リリー・トゥーワルトと申します。話はララティナさんから聞きましたわ。アヌーク様、この度は……」

「……その喋り方、やめてくれないかい」

「はい?」

「猫被られて嬉しいとは、思わないんでね」

「……」


 アヌークに、話し方を、咎められてしまったため、リリーは、一度深呼吸してから、話し始めた。


「じゃあ、いつも通りに話させてもらうわ。アヌークさん」

「ああ、それでいいのさ」

「それで、質問したいのだけれど、見習い魔女同士って、どれくらい協力していいのかしら?」


 リリーが、そう聞くと、アヌークは腕を組みながら、考え始めた。


「まあ、見習い魔女同士が、試練の中で出会うというのが、そもそも珍しくてね。基本的には、出会うことがないとして、ルールを作っているからね」

「どうして、出会うのが珍しいんですか?」

「まあ、非常に基本的な話だけど、魔女ってのは、他人に悟られないようにするのが、基本さ」

「あ、それもそうですね」

「ああ、私くらい長年魔女をやっていると、雰囲気で魔女か、見習い魔女か、一般人かは、判別がつくけど、見習い魔女同士じゃ、お互い隠してたら、わからないものさ」


 その話を聞いて、リリーは顔を歪めていた。そもそも、リリーが試練の話をしていなければ、この問題は発生しなかったのだ。


「まあ、でも会ってしまったのなら、別に協力してもいいんじゃないかい? 二人の進捗にも寄るとは思うがね」

「あ、それなら、二人とも、まだ一つも試練をクリアしてないので」

「ほー、そうなのかい」


 そこでアヌークは、また考え始めてしまった。ララティナが疑問に思っていると、アヌークは、袖の裏から杖を取り出していた。

 アヌークが杖を振るうと、どこからか二枚の紙が飛んできた。


「何をするんですか?」

「まあ、後から師匠連中に、どうこう言われるのは、面倒くさいだろうし、私が一筆、振るっておくよ」

「いいんですか。ありがとうございます」

「まあ、感謝しておくわ」


 アヌークは杖を振るい、神に文字を刻んでいく。


「そもそも、禁止してないのが悪いんだしね。魔女と見抜くのも、実力の一つだろうし、今回はいいとしようじゃないかい」


 アヌークから二人は、文書を渡された。


「じゃあ、文句を言われたら、これを見せな。あんたら二人の師匠よりも、私は古株だからね。ちょっとはきくだろうよ」

「本当に、ありがとうございます。アヌークさん」

「ありがとうと言っておくわ」

「はは、わかったなら、もう行くんだね。一応、正式な魔女とは、積極的に関わるべきじゃないだろうしね」


 こうして、ララティナ達は、アヌークの元を去るのだった。





「さて、これから、どうするの?」

「そうだね。せっかく協力しても良くなったんだから、一緒の調査しようよ」

「ま、まあ、あんたがそこまで言うなら、協力してあげてもいいわよ」


 リリーが言葉を発すると、エルデがすぐに口を挟む。


「ごめんね、ララティナちゃん。この子、素直じゃないから、自分からは言えないんだ」

「あ、いえ、大丈夫ですよ」

「ちょっと、二人で納得しているようだけど、全然違うわよ」


 ララティナも段々と、この二人との接し方が理解できてきていた。エルデは、普通にからかう時もあるが、リリーの態度で相手が気を悪くしないように、相槌を打っているのだ。


「じゃあ、私は、周辺の人にこの辺りに怪しい場所はないか、聞いてみるね」

「ああ、ララティナちゃんが、リリーを気遣って対人を引き受けてくれたよ」

「うるさいわね。じゃあ、私は、図書館を改めて、調べてみるわね」

「じゃあ、リリーちゃんの宿の前に集合しようか? 今日は、私もそこに泊まろうと思うから」

「わかったわ」


 それだけ言って、リリーは、図書館の方へ向かっていった。


『よし、じゃあ、調査を開始しよう』

『聞き込みか、タルブの時は、それらしきことをほとんどしなかったな』

『あはは、クーナさんが色々、教えてくれたからね』

『どうするのだ?』

『こういう時は、お店の人とかに聞くんだよ』


 周りを見渡して、手頃な店を探す。なるべく、人が多く来て、情報が多い所がいい。


『よし、あそこにしようかな』


 目についたのは、野菜や果物が売られている店であった。

 ララティナは、店頭に並ぶリンゴを見て、店主に話しかける。


「おばさーん! このリンゴ、四つもらえますか?」

「はーい、毎度あり」


 お代を払い、店主が、リンゴを紙袋に入れている時に、ララティナは質問を投げかけた。


「おばさん、ちょっと、聞いていいですか?」

「うん? なんだい?」

「私、最近ここに来たんですけど、この辺りって、何か名所とかありますか?」

「ああ、それなら、近くにある湖とかはおすすめだよ。魚がよく釣れてね」

「なるほど、じゃあ、逆に行かない方がいい場所とかありますか?」

「まあ、基本的には、街道から離れるべきじゃないけど、ああ、そうだ。北の方にある館には、近寄らない方がいいね。何やら、怪奇現象が起こるらしいからね」

「怪奇現象? 怖いですね」

「まあ、近寄らないのが吉だね。ほいよ、ありがとね」


 店主が、リンゴが入った紙袋を渡し、ララティナは、その場所から離れていった。


『いきなり、有力そうな情報が入ったね』

『そのようだな』

『まあ、もうちょっと、調査は続けるけどね』


 その後も、ララティナは、あの手この手で、人に取り入り、聞きまわった。

 しかし、出てくる情報は、どれも同じようものばかりで、それから、情報が更新されることはなかった。


『以外に、最初だけでよかった疑惑があるね』

『まあ、裏付けできたと思えば良かろう』

『ちょっと、整理してみようかな』


 聞き込みで得られた情報は、北の森の奥に、誰も住んでいない館があるということ。そして、その館に入った者は、怪奇現象に見舞われたらしかった。


『階段を上ったと思ったら、いつの間にか階段を下ってたり、いつの間にか違う場所に移動してたり』

『何とも、奇妙な館だな』

『うん、多分魔女に関するものだと思う』

『まあ、行ってみる価値はあるだろう』

『じゃあ、宿に向かおうか』


 ララティナは、宿へと向かった。

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