第13話 もう一人の見習い魔女

『それじゃあ、探索を始めようか』

『ああ、しかし、どこを探す?』


 ララティナは、現在、ディヴランの大通りにいた。

 昨日は、ゲンジとアヌークの家に泊まらせてもらった。朝に二人の家を出発し、現在は、禁術の手がかりを探している。


『そうだね、そんなに、すぐに手がかりが見つかるとも思えないし……あれ?』

『どうしたのだ、ララティナよ?』


 ララティナが見ていると方向を、シュバルツも確認する。すると、ララティナと同じくらいの年齢の少女と、若い男がいた。


『あれは……』

『うん、ヴァイスさんが、言っていた通りの組み合わせに見えるけど』


 少女は、赤い髪で、少しきつそうな顔をしていいるが、美人で、かなり高貴な雰囲気を漂わせている。

 男の方は、白い髪に、白い服装で、怪しそうな笑顔だが、こちらもかなりの美男子といえるだろう。

 何やら、揉めているようで、二人は言い争っていた。


「もう、そんなに拗ねちゃあだめだよ」

「わかってるわよ!」

「この町は、残念だったで、いいじゃないの」

「私は、早く禁術の手がかりが欲しいの!」


 その会話で、ララティナもシュバルツも確信できた、彼女達が、ヴァイスの言っていた二人組だと。


『どうしよう? 話しかけてみようかな?』

『うむ、それはいいのだが、なんとも、迂闊な者達だな……』


 ララティナもその意見には同意だったが、とりあえず近寄ってみる。


「おや?」

「何よ?」


 二人は、怪訝な目で、ララティナを見つめたきた。


「あの、あなた達はもしかして……」


 ララティナは、敢えて質問を途切れさせた。相手が見習い魔女なら、このタイミングで、この質問をすれば、察してくれると思ったからだ。


「なるほど……」


 男の方は、思惑通り察したようだったが、


「言いたいことがあるなら、ちゃんといいなさいよ」


と、少女の方は、あまりわかってないようだった。

 男は、少女を呆れたような目で見つめていた。


「えっと、そのさっきの話を聞いてですね……」

「だから、なんなのよ」

「……あのね、リリー」

「何よ、エルデ」

「この子は、君と同じだよ……」

「……え?」


 リリーと呼ばれた少女は、ララティナの顔を見つめ、表情を変えた。どうやら、理解したようだ。


「なるほどね……いや、わかっていたわよ」

「まったく、落ち着きなよ、リリー。みっともないよ、後から言うのは」

「うるさい! なんで、あんたは、いつも口答えするのよ!」

「あはは、いつも通りだね、本当に」


 エルデと呼ばれた男は、急に笑い始めた。その態度に、リリーはどんどん機嫌が悪くなっていった。


「あんた! 使い魔のくせに、主人を馬鹿にし過ぎよ!」

「もう、君はすぐに怒るんだから」

「あんたが原因よ!」


 リリーは、すっかりご立腹のようだった。


「ま、まあ、落ち着いて……」


 ララティナが声をかけると、リリーは、気がついたように、表情を改めた。


「こほん、あんたも見習い……」

「だめ!」

「ほごっ?」


 ララティナは、思わずリリーの口を手で塞いだ。


「ふご……」

「それは、言っちゃだめだよ」

「……ああ」


 理解したようなので、ララティナは、手を離した。その様子を見ていたエルデは、またも笑っていた。


「ははっ! 迂闊すぎるなあ、まったく」

「エルデ、あんた……ねえ!」

「あの、喧嘩はやめて……」

「あはは、大丈夫、喧嘩じゃないよ。からかってるだけだよ」

「そうよ。こいつが悪いだけよ」


 リリーとエルデは、同時にララティナを見て、話し始めた。ララティナは、なんだかんだで、息は合っているのだと感じた。


「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったわね。私は、リリー・トゥーワルトよ」

「あ、私は、ララティナだよ」

「僕は、エルデだよ。ララティナちゃん」


 二人の自己紹介を聞いて、ララティナはあることに気づいた。


「トゥーワルト……それって、もしかしたら……」

「あら、知っているようね。そう、私は、貴族トゥーワルト家の一員よ」

「やっぱり、そうなんだ」


 トゥーワルト家は、ララティナも知っている有名な魔女の家系であった。同時に、貴族でもあるため、一般的な知名度も高い。


「で、あんたは、どこの魔女なの?」

「どこの魔女って?」

「あれよ。あんたの師とか、あるでしょ?」

「あ、うん。私の師匠は、ルルテアさんだよ」

「ルルテア……? どこかで聞いたことがあるわね」


 リリーは、少し考えたが、どうやら、思い出せなかったようだ。


「まあ、いいわ。あんたが誰でも、そこまで関係ないもの。それで、そうね。ここじゃ話しにくいし、私が泊ってる宿にでも、行きましょうか?」

「あ、うん。それでよろしく」


 こうして、ララティナ達は、リリーの部屋へと向かうのだった。





「さて、ここなら、誰にも聞かれないわね」

「うん、それで何から話そうか?」

「そうね。まず、あんたは、どれくらい試練を進めているの?」

「あ、私は、まだ始まったばっかりで、一つも進んでないかな……リリーちゃんは、どうなの?」


 ララティナがそう言うと、リリーは、ばつの悪そうな表情に変わった。


「私もまだ……何も……この町も探したけど、あまり手がかりはなさそうだったわ」


 そこで、ララティナはあることに気づいた。


「というか、そもそも、見習い魔女同士の情報交換って、どこまでしていいのかな?」

「え? そういえば、魔女に聞いたらだめとは言われたけど、見習い魔女同士の制限って、特に聞いてないわね」


 ララティナもリリーも考え込んでしまったため、エルデがそれを遮るように言葉を放った。


「言われてないなら、大丈夫なんじゃない。心配なら、魔女とか見つけたら、聞くでいいんじゃない?」

「あ、それなら、リリー、私、この町で魔女にあったよ」

「それなら、その人に聞けばいいだけね。まあ、でも今は、どっちも手がかりを得てないんだし、エルデの言う通りでいいでしょ」


 リリーは、そう言って、気にしないことにしたようだ。ララティナは、やはりこのコンビは、気が合うのだと思った。


「というか、ララティナちゃん、リリーの情報なんて、当てにしない方がいいよ」

「え? どういうことですか?」

「はあ! また、何を……」

「だって、リリー、図書館とかの調べ物はともかく、聞き込み調査とか全然できないもの。すぐ、高圧的になっちゃってさあ」

「あんたは、本当に余計なことしか言わないのね!」


 からかうエルデに、リリーが怒鳴った。このままでは、話し合いにならないため、ララティナは、話題を反らすことにした。


「そういえば、エルデさんって、使い魔なんですよね? 人間と変わらない見た目なのは、なんですか?」

「うん? ああ、僕は変身が得意なんだ。本当の姿は、秘密だよ」

「まあ、そんなところね。あんたの使い魔ってどんな奴なの?」

「あ、私の使い魔は、シュバルツっていうんだけど、エルデよりもインパクトのある見た目だと思うよ」

「ふーん、とりあえず、見せてみなさいよ」

「うん、シュバルツ、お願い」


 そう言われたので、ララティナはペンダントを掲げた。ペンダントは光が発せられ、そこに漆黒の鎧が現れた。


「きゃあ!」

「へえー」


 リリーは、驚き、エルデは感心していた。


「た、確かに、インパクトがあるわね」

「シュバルツだ。よろしく頼む」

「ははは、よろしくね」

「シュバルツ、ありがとう」

「我は、もう、戻るぞ」


 シュバルツは、ペンダントに戻っていった。


「はあ、驚いたわ。まあ、それはそれとして、あんたのこれまでの旅について、聞かせてくれないかしら?」

「うん、いいよ」


 その後も、話し合いは続いていった。

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