第12話 到着
海での事件が解決し、ララティナはディヴランに着いていた。
港でゲンジにお礼を言おうと、話しかけると、逆にゲンジの話が始まった。
「ララティナ、丁度よかったぜ。お前に話があったんだ」
「え? 話しですか? なんでしょう?」
「ああ、お前に会わせてえ奴がいてな」
「私に会わせたいというと、まさか……」
「その想像通りだろうぜ」
ララティナが想像したのは、魔女関連の人物だった。もしかしたら、ヴァイスの言っていた人物かもしれない。
「だから、俺の家に来い」
「え? ゲンジさんの家にですか?」
「うん? 何かおかしいか」
「あ、いえ……」
ゲンジの家にいるというのは、ヴァイスの言った人物像とは、少し違う気がした。
「その人は、ゲンジさんと、どういう関係の人なのかなと思いまして……」
「ああん、別に何も……」
ゲンジが答えようとしていると、横からクックが急に現れた。
「それはね、ララティナちゃん。もちろん、そういう関係……」
「クック、お前はいらないこと言ってねえで、自分の仕事を進めやがれ!」
「あ! 痛っ! やめてください、船長!」
クックは、ゲンジに叩かれ、退散した。
「そういう訳だから、少し待っててくれ。すぐに、仕事を片付けるからよ」
「あ、はい。わかりました」
ララティナは、ゲンジの仕事が終わるのを待つことにした。
◇
「ここが家だ。とりあえず、上がりな」
「あ、はい」
ゲンジに連れてこられたのは、なんの変哲もない家だった。
「おい! 帰ったぞ!」
ゲンジが声をあげると、家の奥から、初老の女性が現れた。
「あら、帰ったのかい。おや、そちらのお嬢さんは……」
女性はララティナを見つめると、その全身をゆっくりと見て、呟いた。
「見習い魔女かい、なんの因果かね……」
「話は後だ。飯はあるか?」
「あんたは、もう。夕食は今、作ってるよ。あんたが帰ってくる頃だと思ったからね」
それだけ聞くと、ゲンジは家の中に入っていってしまった。ララティナは、玄関に取り残されてしまった。
「あれは、本当に雑ですまないね。あんたも上がりな、えーと、名前を聞いてなかったね」
「あ、私、ララティナっていいます」
「そうかい。私は、アヌーク。よろしくね」
アヌークはそう言って、家の中に案内してくれた。
案内された部屋には、すでにゲンジが座って待っていた。
「さあ、座りな」
「あ、はい、失礼します」
「まあ、とりあえず、話は夕食を食べてからにしようか。ちょっと待ってな、料理を作るからね」
「あ、お手伝いしましょうか?」
「いや、いいよ。客なんだから、座ってな」
アヌークは、手際良く料理を進めていく。
その間、ララティナは、ゲンジに聞いておきたいことがあった。
「アヌークさんは、ゲンジさんの奥さんなんですか?」
港で聞いた時は、誤魔化すためだったが、今度は本当に気になっていた。
「いや、そういう訳でもないんだがな……」
「え? 親族とかですか?」
「いや、親族ではないんだが……」
「じゃあ、なんなんですか?」
ゲンジは、何か渋いような顔をしており、話しにくいことなのかもしれない。
「別に、言えないようなことじゃないだろうよ」
料理中のアヌークが、口を挟んできた。
「ああん、まあ、そうだがな……」
「まあ、腐れ縁ってところかね」
「腐れ縁?」
「ああ、まあ、そんなところでいいのかね」
二人だけで、納得してしまったため、ララティナは口を挟めなくなってしまった。
「さあ、料理ができたよ。早速、食べようじゃないか」
料理ができたため、話はそれで終わってしまった。
◇
「ごちそうさまです。夕食まで頂いてしまって、ありがとうございます。とっても美味しかったです」
「おそまつさまでした。さて、何から話そうかね……」
「俺は、上で休んでおくぜ。まあ、ゆっくりと話しな」
ゲンジは、それだけ言って、二階に上がっていってしまった。
「まったく、あいつは……」
「あはは、ゲンジさんは自由ですね」
アヌークは、呆れたような表情をした後、ララティナを見つめた。
「さて、察しているかもしれないけど、私は魔女だよ」
「あ、はい。やっぱり、そうだったんですね」
「あんたは見習い魔女だよね、一体、誰の弟子だい」
「あ、はい、私の師匠はルルテアさんです」
その言葉で、アヌークは目を丸めた。
「ほう、あの子の弟子かい……ララティナ、そうかい。あの子が引き取った女の子かい。どこかで、聞いたことがある名前だとは思ったよ」
「そうだったんですね。ルルテアさんって有名だったんですか?」
「ああ、あの子は色々有名だね。あんたを引き取ったこともそうだけど、まあ、その師匠が有名だったからね」
ララティナは、その言葉で驚いた。なぜなら、ルルテアの師匠とは、ララティナにとっては、特別な存在だからだ。
「私のお母さんですね」
「ああ、そうだよ。あんたの母さんは、魔女の中でも、優れた魔女だったからね」
「私、お母さんのこと、あんまり覚えてなくて。ルルテアさんがお母さんの代わりだったというか」
ララティナのその言葉を聞いて、アヌークは、微妙な顔をした。
「それをルルテアに言うんじゃないよ。あの子、それ自体はいいかもしれないけど、一応、妹のように思ってるって、本人は言ってた気がするからね」
「あはは、そうですね。言わないようにしておきます」
「あんたのことは、魔女界隈でも、色々あったからね」
「そうだったんですか?」
その話は、聞いたことがなかったため、ララティナは驚いた。
「ああ、優れた魔女の娘だからね。誰が引き取るかとか、ちょっとだけ揉めたのさ」
「そんなことが……」
「そんな中で、声をあげたのがルルテアさ。あの子が、まだあんたくらいの年の頃だったかね。この子は私の妹だって、この子は自分が育てるんだって、言って聞かなかったよ」
「ルルテアさんが……」
「魔女にもいい魔女や悪い魔女がいる。だから、ルルテアはあんたの手を離さなかったんだろうね」
ルルテアの過去のことを、ララティナは聞こうとしなかった。ルルテアが話さないなら、自分から聞く必要がないと思ったからだ。
今の話を聞いて、ララティナのルルテアへの思いは強くなった。自分のことを、本当に家族のように思ってくれている、それがとても嬉しかった。
「この話を、本人は、話さないだろうけどね」
「そうですね。だけど、聞けてよかったと思います」
そこで、アヌークは思い出したように、手を叩いた。
「そうだった。見習い魔女というなら、今は試練中ということでいいのかい?」
「あ、はい。正式な魔女になるために、禁術の手がかりを探しています」
「まあ、私から言うことはできないけどね。それじゃあ、試練にならないからね」
それは、ララティナもわかっていたことだ。
「ただし、まあ、あまり関係ないだろうし、言うけどね、この町にもう一人、見習い魔女がいるよ」
「あ! それは……」
その話には、心当たりがあった。恐らく、ヴァイスの言っていた魔女のことだろう。
「そういう話を聞いて、この町に来たんです」
「そうだったのかい。まあ、同じ試練を受ける者の足跡を追うのは、悪い手じゃないね」
「はい。明日から、この町を探索したいと思います」
「ああ、いいことだね。そうだ、今日は、うちに泊まっていきな。通常は、魔女が手助けするべきじゃないんだろうけど、一日くらいならいいだろう。遠慮するんじゃないよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
ララティナは、アヌークの言葉に甘えることにした。
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