第11話 嵐を抜けて
ララティナ達の目の前に、船と同等ほど大きなイカが現れた。
クラーケンは、その巨大な瞳でこちらを見つめると、その足をララティナ達目がけて、伸ばしてきた。
「あれが……クラーケン……きゃあ」
「ララティナ! 落ち着くのだ!」
ララティナが恐怖で動けないでいると、シュバルツがララティナを抱え、後ろに下がった。
ララティナがいた場所には、クラーケンの足が何かを掴む形で、留まっていた。
「シュバルツ、ありがとう」
「ああ、だが、気をつけろ。あちらは、こちらを狙っているのだ」
「うん、ごめん」
シュバルツは、ララティナを下すと、そのまま、クラーケンの足に向かって、剣を振るった。
「はああ!」
クラーケンの足は、切り裂けたが、本体は、あまり気にしていないように見えた。
「クラーケンの足は、複数ある! 本体を叩かなきゃ、きりがねえぞ!」
襲い掛かる足を切り裂きながら、ゲンジが叫んだ。
「ですが、これじゃあ攻撃できませんよ! 船長!」
クックは、足を躱しながら、叫んでいた。
「俺が本体を叩く! ララティナ、お前さんの力を貸してもらうぜ!」
「ええ! 私ですか?」
突然、話を振られ、ララティナは驚いた。
「そうだ! 魔女なら飛べるだろ! 俺を奴の本体の元へ運べ!」
「それは……」
数秒、思案した後、ララティナは決断した。
「わかりました! 箒の後ろに乗ってください」
「ララティナ! 何を言う?」
「シュバルツ! 飛べるのは私しかいない! 私が行かなきゃ、どうしようもないよ!」
「くっ! 仕方がないか……」
シュバルツは、渋々ながらも、了承した。
「それじゃあ、ゲンジさん!」
ララティナは、箒を取り出し、ゲンジの元に走った。
「ふん!」
クラーケンの足が、ララティナ目がけて、襲いかかるが、その足は、シュバルツが振り払う。
「よし! ゲンジさん、後ろに乗ってください!」
ゲンジの前に来たララティナは、箒に跨り、ゲンジに合図を出す。
「ああ、わかったぜ」
ゲンジが、箒に跨ったのを確認すると、ララティナは床を蹴り、空中に飛び出した。
「ララティナ、クラーケンの足が来るぜ!」
「わかってます! しっかり、掴まっててください!」
クラーケンの足を潜り抜け、クラーケンの頭上まで、辿り着いた。
「ここですね」
「ああ、ありがとよ。ここからは、俺に任せろ!」
「ゲンジさん? えっ!」
そう言うと、ゲンジは箒から飛び出し、クラーケンの頭に着地した。
そして、クラーケンの頭を斧で、切り裂いた。
「おらあっ!」
さらに、もう一往復、斧を使い、クラーケンを切っていく。
ゲンジは、上手くバランスをとりながら、クラーケンの頭上を、陣取っていた。
「あ! ゲンジさん! 危ない!」
暴れまわるゲンジに、クラーケンの足が襲いかかってきた。
「ああ、もう! ライトボール!」
ララティナは、杖を取り出すと、そこから光の弾を放った。
光の弾は、クラーケンの足に着弾し、爆発した。クラーケンの足は、崩れ落ち、ゲンジの元に辿り着くことはなかった。
「はっ! いいアシストだ! おらあっ!」
クラーケンの頭は、深く傷つき、そこからは、血液が流れ落ちていた。
「クォォォォオオオオオオオンンンンン!」
そこで初めて、クラーケンは声を上げた。
「ヒト、ノ、コ、ヨ」
さらに、自分達と同じ言葉を喋り始めた。
「ワレ、ワレ、ハ、オオ、イナル、オウ、ノ、タメ、ニ」
「うるせえなあ」
クラーケンは、何か文章のようなものを唱えていたが、ゲンジの一声で遮られた。
「さっさと、逝けよ……イカ野郎ォ!」
ゲンジは、さらに一撃を与える。
「す、すごい」
その一撃は、クラーケンの頭を削りとり、流血を加速させた。
ララティナが思わず、感嘆するほどの攻撃を行ったゲンジは、手を止めず、攻撃を続けた。
「グォォォォ……オオオ……オ……?」
やがて、クラーケンが呻き声をあげた。
クラーケンの体から、力が抜けていくのを、ララティナは確認した。すぐに、ゲンジの救助に向かう。
「ゲンジさん、早く後ろに」
「ああ」
ゲンジが跨ると、再び飛び上がり、甲板に向かった。
甲板では、クックが、シュバルツに語りかけていた。
「いやあ、やっぱ船長、化け物だわ……」
「使い魔の我から見ても、あれは異様な強さであるな……」
クックは、ゲンジを確認すると、すぐに口を塞いだ。
「誰が、化け物だって……?」
「いや、違うんですよ。すごいっていう褒め言葉じゃないですか」
「まあいい、今はそれより、この異空間から抜け出さなきゃな……」
ララティナは、その言葉で、思い出した。
「そういえば、ゲンジさん。氷った船員の皆さんは、どうなるんでしょう?」
「あん? ああ、それなら問題ない。親玉が倒れたんだ、じきに融けるだろ」
ゲンジは、そのことをあまり気に留めていないようで、ララティナの言葉は受け流された。
「異空間を出るには、この嵐から抜け出さなきゃならねえ。船を操縦するぞ、クック、てめえも手伝いやがれ」
「は、はい、すぐに取りかかります」
ゲンジとクックは、船内の消え、甲板には、ララティナとシュバルツだけが残された。
◇
ララティナが部屋で待っていると、ドアを叩く音がした。
ドアを開けると、クックがいた。
「ララティナちゃん、無事に嵐を抜けたよ」
「そうですか! よかったです!」
それだけ言って、クックは去っていった。
『シュバルツ、これでこの事件は解決だね』
『ああ、だが、海の王のことは、気にかかるな』
『うん、そんなものが、この海にいると思うと、なんだか怖いね』
ララティナもシュバルツも、先程までの出来事を思い返していた。
あのクラーケンと半魚人達のような存在は、これからも海を渡る人々を襲うのだろうか。
今回は、自分たちのような戦うことができる存在だからよかったが、一般の船が襲われたら、ひとたまりもないだろう。
そう思ったララティナは、巨大な存在への恐怖に怯えることになった。
それからしばらくすると、船内に活気が戻ってきた。
ドアを開け、船内を覗いてみると、船員達が動きまわっていた。
ゲンジの言っていた通り、氷りは時間によって融けたらしい。
『不思議だね、シュバルツ』
『ああ、だが、一番の不思議は、ここの船長、ゲンジやクックといった者達は、どうして、海の王のことや、クラーケンのことを知っていたのだろうな』
『それも……そうだね』
ララティナは、思案する。普通に考えれば、過去に同じような事件に、巻き込まれていたと考えるのが普通だろう。
ゲンジに聞いてみるのもいいが、自分が深く知る必要はないのかもしれない。なぜなら、ララティナも多くの秘密を抱える身のため、あまり探りを入れられたくない気持ちはよくわかる。
『あまり、探ったりするのは、よくないよね』
『ああ、そうだな。自ら危険に飛び込む必要はないだろう』
『今日のことは、忘れられそうにないけどね』
ララティナは横になった。いつまでも考えていても仕方ない。じきに、ディヴランに着くのだ。自身に本題を、忘れてはならない。
『とにかく、ディヴランに着いたら、また調査しなければいけないから、休まないとね』
『……そうだな。ヴァイスが言っていた通りなら、禁術の手がかりの一つくらいは転がっているかもしれん』
『うん。シュバルツもこれから、ばんばん、働いてもらう予定だから、ゆっくり休んでね』
『ああ、温かくして眠るのだぞ』
『うん、わかってるよ……』
ララティナは目を閉じ、休むことにした。
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