長編出張読み切り短編博覧会Vol.2

「化け猫おくる」について

 連作短編の主役を使って短編書いたら、それは本編。


 化け猫シリーズ第6作にして、長編出張読み切り短編博覧会Vol.2(https://kakuyomu.jp/user_events/16818093089302009484)参加作品です。

 

 企画ページの記載によれば

「一次創作長編をガッツリ読んで判断するだけの体力はないけど、短編で登場人物や世界観が気になる→とりあえずフォローしてみしようかな……みたいに繋がるといいなと思ってます」

 との事。帆多も前回に続いて二回目の参加です。


 闇の感想員三名のうち、謎の齧歯類さんからは以前「化け猫ユエ」に公式のレビューいただきまして、その節は大変ありがとうございました。おかげさまで、たくさん読んでもらうことが出来ました。


 こちらの企画、開催のお話を最初に伺った時には、連載中の「エーラ、パコヘータ」のスピンオフを出そうかなって考えてました。

 ですが主催こむらさきさんの配信にて連作短編をOKにする旨を伺ったこと、なにより「ユエの話が好きだ」と仰っていただいたことから、化け猫シリーズから一本作ろうと決めます。

 

 「お買い物」というお題で、ちょうど(ちょうど?)ユエの夫は行商人です。じゃあ結婚生活の話かな。馴れ初めは「化け猫をまつ」で書きましたが、実際の生活の様子は書いた事ありませんでしたし。

 よし、ではひとつ、こう、軽めの……と考えてたんですが、そこでと気が付いたのです。


 連作短編の主役を使って短編書いたら、それは本編。


 それに、レギュレーションの文字数上限も15000字と、けっこうボリュームがあります(シリーズ第一作「化け猫ユエ」が15000字弱)。

 じゃあもう、本編の新作を書こうじゃないかと。


(この先ネタバレへの配慮をしていませんので、未読の方はご注意ください)


 買い物買い物、むにゃむにゃ……

 行商……買付……晴れ着の話……? いやでも、過去作の記載と照らし合わせて……、時系列どの辺りにするかで……ユエの活躍もさせたいし……「化け猫おちる」より前の時点かな……モノの怪退治の依頼を受けることにしましょう。

 大人が依頼に来たことはあるから、今回は子供で。ちょっと離れた所からお使いに行きますってことで。

 お使いには迷子が付き物です。迷子になってぴーぴー泣いてるのをクォンに拾ってもらうということで、シーンを試し書きするところからはじめました。

 この時には、まだ、この子生きた人間だったんですよ。


 クォンと迷子の登場を書いて、ユエはどうしてるかなと思いました。

 買い物してました。

 僕はいそいそしてる女の子が一番かわいいと思ってるので、いそいそさせます「今日中に着くかな。明日になるかな」

 電報電話がある土地ではないので、出発前に聞いてた予定日で見当をつけるしかありません。一日いちにち二日ふつかは平気でズレる前提です。

「好物買っておいてあげたくて」

 クォンの好物は苦瓜としました。あのへんにありそうな野菜ですし。ちなみに筵菜ザウモンは空芯菜です。ユエが作ってたのは苦瓜と空芯菜のニョクマム炒めですね。ユエは見た目に反して力(もののけちから)があるので、中華鍋もガンガン振れます。火力は魔法で底上げします。ちゃんちゃんちゃん。


 あとは、夫婦生活(導入)の場面だけ先行で書いたりもしました。

 久しぶりに家で二人きりだと思ったのに、クォンが子供連れてきたので不機嫌になったユエが首筋を噛むところとか。

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(噛むところ。後に没)


「ユエさん、やっぱり怒ってます?」

「怒ってはない。不機嫌ではあるけど」

(まあ、ユエも楽しみにしておったわけだからなあ)

「『まあ、ユエも楽しみにしておったからわけだからなあ』ってリールーも言ってる」

「すみません……。いえね、迷子かなにかだと思ったんですけど、聞いたらユエさんを尋ねに行く途中だってことでしたし、ほっとくわけにも行きませんで」

「もう」

 ユエは傍らの夫を仰向けにしてその上に重なると、細いあごをツンと上向け、黒い瞳を見下ろした。

「今夜、いいかなって思ってたのに」

「ええと、何がです……?」

「夫婦生活」

「すみません」

「もう」

 むくれてみせてからユエはかぱりと口を開いて、クォンの首筋をかぷりと噛んだ。


(噛むところ 完)

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 このあたりまでとりあえず形にして、残りの話の骨子を作ります。なにせ、子供のもってくる依頼の内容も決まってません。

 頭の中をこねくりながら、試し書きしたシーンを見返したりしてました。

 そしたら、子供と初対面のユエが「この子、誰の子?」って言ってて、それもなんだか物足りない。

 そのあたりをモヤモヤしながら考えていきます。

 この先は、どの順番で何を思いついたのか定かでないのですが、夜中に外を歩き回ったり、棒立ちでシャワーを浴びたりするうちに「依頼に来たのは幽霊」「モノの怪は人間になりすます猿の怪」という二点を思いつき、それを柱にして、スマホにポチポチと打ち込みました。

 その時のがこちらです。

 出来上がった本編とは多少異なりますが、大きな形はだいたい同じ。


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(ポチポチ)

 子供は亡霊。猿の怪に使われてる。嘘でユエを誘い出し、縄張りへ連れてこようとしてる、下級の猿の怪は頭の良さを自慢したいので、人を騙したり利用したり罠を張ったりするのが好き。上級の猿の怪は、死人を喰い、その皮をかぶって人の設備でくらし、飽きたらでていく。新たに生まれる子は、かぶる人の皮がないので、繁殖の際にも村を出る。年取ってクォンの持ってるモノの怪避けのお守りが怖い。子供の様子から、ユエは見破っている。嘘に乗る理由は? 亡霊をなんとかするのも呪い師ユエさんの仕事。地元の呪い師連には根回しして仁義を切っておく。子供に「モノの怪だ」と言ったのは下級の猿の怪。騙すのを楽しんだ。

(保存)

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 あとは書きながら整えて行きました。

 ユエ、リールー、モンチャンは特に追加する要素はありませんでしたが、生きてる頃のクォンには見た目が必要です。

 東方は亜熱帯ということもあり、褐色肌に黒髪が基本です。そこに、せっかくなので直毛長髪属性を付加しました。あと、商人なので服装もどちらかと言えばきれいめなものを。

 きれいめな服装、というと作中の言葉遣いから外れるので「形のいい」とします。

 クォンの服は形がいい。


 

ホァ

 女の子なので、ユエと同じように胴布イェムを着せます。

 黄色(辛子色)のトップス、海老茶のボトムス。

 細い髪、つやつやしたドングリみたいな肌、黒玉の瞳。気合の入った造形描写。

 ロングスカートにするか迷ったんですが、「スカート」の言い換えが浮かばなくて断念。

 単語を作って、かっこがきで説明を加える上橋先生スタイルも考えましたが、いったんここは筒袴で。ちょっとフレアーっぽいシルエットが欲しくて、裾の広い筒袴とします。

 名前はどうしましょう。

 最初は「春」を由来にして「スアン」としましたが、クォンとスアンが並ぶとなんだか見づらくて。それならと「花」由来で「ホア」とします。

 そしたら、またひとつ問題が。

 流して読んだときに、ちょいちょい「アホ」に見えちゃうんですよ。

 名前の響きも由来も気に入ってるので変えたくありませんでしたから、「ホァ」としました。アをァにするだけで、だいぶ違うものですね。

 ということでゲストヒロイン誕生です。

 


戯子猿ゼンビェンヴァン

・人の皮をかぶる猿。中身のモデルはテナガザル。

・かぶった皮ごと成長もするし、老化もする。

・出産で猿が産まれる。火葬にすると骨が人と異なる。

・人に比べれば頑強だが、ものすごい怪力と言うほどではない。

・かぶる皮のサイズは問わない。


 設定はこんな感じかな、と

 実在する動物をモデルにするので、デザインはそんなにこだわらず。とりあえず赫い猿でよろしく。

 名前は悩みました。皮をかぶる猿にピッタリくる名前がなかなか思いつきませんでした。しばらくして、この猿のたちは演技をすることと見つけまして、役者と猿をキーワードにグーグル翻訳にかけました。ベトナム語です。「役者→ゼンビェン」 「テナガザル→ヴァン」

 「ゼンビェンヴァン」だと記載が長いので、なにか意味を補う漢字が欲しいところです。

 役者を意味する熟語を探していて、悠井すみれさんの作品「花旦綺羅演戯 ~娘役者は後宮に舞う~」で使用されていた「戯子」を引きます。

(上記の作品、2025年1月に『煌めく宝珠は後宮に舞う』と改題して発売されます。元気いっぱいな女の子が元気いっぱいに跳ね回って面白いので、元気よく買いましょう)


 ゼンビェンは繁体字「演員」に対しての訳語なので、音としては「戯子」に当たらないだろうなと思いつつ、字がかっこいいので当てました。 

 

 作中には最初に会う猿(猿ファースト)と、次に遭う猿(猿セカンド)がでてきますが、当初は猿ファーストしか考えてませんでした。ファーストと村はずれかなにかで戦いになるかなぁ、などとイメージしていました。

 しかしある日、天啓のように閃きます。

「ホァが幽霊になった原因って……猿だったんじゃないの!!」

 子供の死にざまに顔を輝かせる非道い大人の誕生です。

 でも、これでストーリ展開にひとひねり入れられたかなと思います。葛藤もひとつ追加できましたし。

 こうして猿セカンド誕生です。

 瞬殺。

 いいのいいの、セカンドは脱ぐまでが仕事だったので。



題名

 最後まで決まりませんでした。


化け猫〇〇

【候補】

 はせる: いうほど思いは馳せてない。

 だます: そんなに嘘がメインの話と言うわけでもない。

 とさる: 猿は出てくるけれども、ストーリー上の手段であって目的ではない。

 かぞく: これかな。

 おくる: いやこっちかな。


 迷いを抱えたままセカンドを瞬殺し、〆のシーンを描こうとしたんですが、ここでセカンドが脱ぎ散らかした物が残っていました。破けてしまったとはいえ、ホァの遺体と遺品です。そのままにはできません。

 作中舞台の作法に則って、焼いて弔います。

 同時に「あ、これ『おくる』」だなと決心がつき、タイトルが決まりました。


化け猫シリーズ 第六作: 化け猫おくる

https://kakuyomu.jp/works/16818093089352921941


お読みいただきありがとうございました。

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論じるつもりはないものの 帆多 丁 @T_Jota

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