5月28日の赤ずきんちゃん

狼さんと赤ずきんちゃんが居ました。


今日は、遠くの街に連れて行ってあげるよと狼さんが言いました。

街に出ても大丈夫なの?と訊くと、たまになら問題ないよと言います。

赤ずきんちゃんは嬉しくなって、可愛くおめかしして出かけました。


狼さんと約束した場所に行くまで、赤ずきんちゃんは考えました。

なんだかとってもどきどきするわ。

それは、赤ずきんちゃんのあまり知らない感情です。


狼さんは面白いから会えるのが嬉しい、でも大丈夫かしら?そんな変な心配をしてしまいます。

なにが不安なのかは良くわかりません。


けれど、狼さんの姿を見つけた途端にそんな不安は吹き飛びました。

狼さんは相変わらずきらきらしたきれいな瞳をしています。

その瞳を見ていると、赤ずきんちゃんはなんだか落ち着くのでした。


狼さんは人間のことをようく観察しています。だから、街のこともようく知っていました。

あまり遠くの街には行かない赤ずきんちゃんには、全部がとっても新鮮です。


大きな街ね。関心していると、そうでしょうと狼さんは頷きました。

けれど、赤ずきんちゃんは気がつきました。この街の人たちは、なぜかみんな早足で脇目も振らずに歩いているのです。狼さんと赤ずきんちゃんは、それはもうたくさんの人たちに追い抜かれました。


みんな忙しいんだよ。狼さんは教えてくれます。

街にはいろいろなものがたくさんあるから、みんな急がなくちゃいけないんだ。


それは初めて聞く話です。

そういえば、街には本当にたくさんのものがあります。赤ずきんちゃんの住んでいる小さな小さな森の近くの町には、こんなにたくさんのものはありません。

あるのは野原や草花です。赤ずきんちゃんは、そんな自然が大好きなのです。


なんだか、急に赤ずきんちゃんは哀しい気持ちになりました。うきうきしていた気持ちもどこかへ行ってしまいます。

疲れたかい?狼さんがそう訊くので、赤ずきんちゃんは頷きました。すると、狼さんも頷きます。帰ろうか。森の方が落ち着くね。


帰り道、疲れてしまった赤ずきんちゃんは、狼さんの背中の上で眠ってしまいました。寝てていいよ。狼さんがそう言ってくれたので、甘えてしまったのです。

狼さんの背中は広くてあたたかで、赤ずきんちゃんは安心してすぐに寝入ってしまいました。

狼さんの背中の上で、赤ずきんちゃんは夢を見ました。それはなんだか、幸せな色の夢でした。



おしまい。


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